プロローグ
異性と恋をして、愛し合って、結婚する。
それが「普通」――みんなが何の疑いもなく信じてる。
男の子は女の子を、女の子は男の子を好きになる。
それが「正しい」って――誰もが、当たり前に思ってる。
だったら、私は「間違ってる」ってことになるの?
違うよーーそう言い切れたら、どれだけ楽だっただろう。
ずっと、自分の気持ちに蓋をしてきた。
「女の子が、女の子を好きになる」
そんな気持ちを、認めるのが怖くてたまらなかった。
だから私は存在しない居場所を、本当の気持ちは誰にも知られないように、小説の中につくった。
それでも、どこかで見つけてほしいと願いながら――。
彼女に出会ったのは、リハビリ病院。
突然現れた、明るくて、強引で、でもどこか寂しそうな女の子。
笑顔の奥に、私と同じ影を見つけて、どうしようもなく心が揺れた。
一緒に過ごすうちに、泣いて、ぶつかって、それでも離れたくなくて――私は、ようやく気づいたんだ。
この気持ちは、「間違い」なんかじゃない。
まだ、怖さはある。
この気持ちが壊れてしまう未来だって、あるかもしれないから――それでも私は、もう逃げたくない。
だって――私のそばには、皮肉屋で、優しくて、「知ってますか? 恋は、好きになったもん勝ちなのです」って、くだらないって顔で言ってくれるAI車椅子がいる。
だから明日の旅行で、ちゃんと気持ちを伝えよう。
隠さず、誤魔化さず、怖がらずに。
好きになったこの気持ちを、絶対に、後悔したくないから。