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学校イチの美少女が実は残念系ガンマニアな学園探偵物語〜Mild〜  作者: 笹岡 悠起
最終章 学園探偵よ永遠に
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第90話 卒業

——半年後、卒業式の体育館。

 壇上に上がった真理は卒業生代表としての答辞を下級生に贈った。密かに彼女に憧れている下級生は多かった為、感極まり啜り泣く声がそこかしこから聞こえた。


 式が終わると、卒業生達はそれぞれのグループに分かれて思い出話に花を咲かせ、学舎との別れを惜しんだ。

 学園探偵部の面々も例外では無く、正門前の広場に集まっていた。

 会話の内容は必然的に今後の活動方針などの再確認がメインだ。

 刹那(せつな)を始めとして、永遠(とわ)那由多(なゆた)寺西(ローリー)、高橋(元ゲーム愛好会)、宮土(みやっち)藤中(ふじゆう)(元ラジオ研究会)、真理と士郎、そして有田。

 この十人が一斉にいなくなってしまう。

 在校生は、二年生の藤原(ふじもも)彼方(かなた)、一年生の一期(いちご)一重(かずえ)、男子は一期だけとハーレムのような部活になってしまうが、見た目は全員女子という紛らわしさ。

 来年度には刹那に懲らしめられて改心した現二年生男子が、身体を鍛える内に刹那への思いを若干拗らせ、愛の矛先を一期へと変更して入部してくるのだが、今は誰もそれを知る由もない。


「大丈夫だって。一期(あんた)も逞しくなってるって!」刹那が一期の頭をポンポンと叩く。

「でもやっぱり不安なんですー!」襟元のリボンは外され一番上のボタンも開け放たれて少しだけワイルドになった一期は涙を(こら)えている。

 学園探偵部は来年度より、見た目刹那レプリカの一期が新所長、ふじももが副所長としてスタートする。

 そんな学園探偵部を遠くから見つめる一人の生徒の影。

 赤いリボンの付いた賞状筒を持っていないことから二年生か一年生だろうか。男子生徒の場合ネクタイに縫い付けられている校章の刺繍糸の色でしか学年が判別出来ない。その下級生が意を決して真理の元に駆け寄る。

 いち早く気付き身構える士郎。左手で彼を制する真理。

「あのっ、ずっと小野先輩の事が好きでした! 僕と付き合ってくださいっ!」と、顔を真っ赤にして、見た目はガリ勉といった風体の優男が腰を直角に曲げて右手を真理の方に差し出す。

 その時牛乳瓶の底の様な眼鏡が落ち慌てて上体を起こした彼は本来なら漫画に出てくるべき眼鏡を外すと美少年になるという絶滅危惧種だった。

「うわっ、顔良(かおよ)っ!」と漏らす彼方のお尻を横から一重が蹴る。

「キャンッ」と犬の様な鳴き声を出す彼方。

「えーっ、真理付き合っちゃいなよー」と刹那も勿体なさそうに煽る。

 真理が彼の落とした眼鏡を拾い、優しい手つきで彼に眼鏡を掛けさせる。急に視界にドアップで真理の顔が現れた彼が慌てて後ずさる。

「私の様な若輩者に好意を抱いて頂いて、お気持ちは嬉しいのですけれど。ごめんなさい、(わたくし)付き合っている殿方がおりますので貴方のお気持ちにはお応え出来ませんわ」

「……そ、そうですよね。先輩、綺麗なだけじゃ無くって、聡明で、優雅で……」と言いながら涙を拭いて走り去って行く。

「なーによ真理。彼なんていないくせに嘘ついちゃって」

「嘘じゃないわよ。貴女と違って私はずっと彼一筋よ」

「私だってリッグス警部とハリー警部と……、ってか誰よ? 真理の彼って?」

「刹那、もうよせ! 士郎のライフがゼロだ!」

 永遠の言葉でみんなの視線が一斉に士郎の方へと向く。

 士郎の口から魂的なモヤが出掛かっているのを、その場にいる全員が目視した。

「何言ってるの? 的部(まとべ)こそが私の特別な騎士(ナイト)、私の彼氏ですわよ?」

 何を今更? と、キョトンとした顔の真理。

「え、いや、それってちゃんと士郎に話してあるの?」

「そんなのわざわざ言わなくても伝わってますわよ。そうでしょ士郎?」

 士郎の反応が無い。まるで屍のようだ……。


「あのっ、初代学園探偵部の皆さん! みんなで写真、撮りませんかっ!」一期が声を掛ける。

 刹那が依頼を受けた幽霊騒動事件の犯人、那由多。

 刹那を慕って一緒に作業をする様になった模型部とゲーム愛好会とラジオ研究会。

 学園に転校してきたライバル、真理。

 刹那に憧れて入学してきた一期。

 そんな面子が集まって創設された学園探偵部。

 名簿上の部長は寺西だが、一期の呼びかけで撮った集合写真の真ん中には刹那の、そしてその隣には永遠の姿があった。

 卒業は人生にある幾つかの通過点のひとつ、決して分岐点では無い。巡り会えた仲間たちとは、例え次の行き先が違っていたとしてもまたいつか必ず出会えるのだ。

 みんなで撮った最後の集合写真。刹那はそのど真ん中で満面の笑顔で写っていた。


 ……だがこの日、卒業式以降に刹那の顔を見た者はいない。

 高校を卒業した後、彼女はその行き先の詳細も目的すらも誰にも告げず単身アメリカへと旅立っていった。

 数日後、刹那の両親からその事実を知らされた永遠はしばらくの間悲しみの淵に立たされた。

 何年か(のち)、彼は(かね)てから指導を受けていた一重の父と同じ職業、白バイ隊員を目指すことでその悲しみを乗り越える。



――時は流れ……。

 日本のどこかの小さな街、の寂れた商店街の一角。


 一階には古物商、パッと見の印象はゴミ屋敷か良くてリサイクルショップといったその店舗から歩道だけでなく階段にまでも浸食しているガラクタを避けながら、君は二階へと上って行く。やがて「M&F探偵事務所」と書かれたプレートが(かか)げられたドアが見えてくる。

 怪しいと思いながらもドアをノックをすると、中からぶっきらぼうな声で「開いてるわよ」と女性の声が返ってくる。

 恐る恐る中に入ると椅子に深く座り、頭にボルサリーノを斜めに被った女性と目が合った。

「あなたが今回の依頼人ね。依頼内容は? 浮気調査から大統領の警護まで、アメリカ帰りのこの私にかかればどんな困り事も解決(イチコロ)よ!」

 そう言い放ち(おもむ)ろに立ち上がった彼女がポールハンガーに掛けられたショートトレンチコートに袖を通してこちらを向く。


「これにて〝スクールディティクティブ刹那アーンド永遠〟のお話はおしまい!

 大人になった私の活躍はまたの機会にね!」


――完――

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