第4話 幽霊騒動顛末記!
「……安藤くん?」
「えっ? ……だ、誰だっけ?」
「酷いなー。同じクラスの那由多だよ」
「なゆ? で、そのナユちゃんがこんな所でこんな時間に何やってんの?」
「えーっと、それは。……強いて言うなら実験? ほら、知ってるかどうかわかんないけど私って科学部でしょ? 色んな色の炎作る実験してて」
「科学部の那由多って、いつも太縁眼鏡掛けてる三つ編みの?」遅れてきて横で静かに話を聞いていた刹那が口を挟む。
「えぇ? あの三つ編みメガネ? だってお前眼鏡掛けてねーし、髪型だって全然ちげーし、それに、そのあの、なんつーか、こんなに可愛かったっけ?」
刹那が無言で永遠のケツにトーキックを見舞う。
「痛ッ!」
「鼻の下伸ばしてんじゃないわよっ」
「伸ばしてねーし」
「あはは。ありがとね、安藤くん。……二人の私服は酷いもんだけど」
「いや、ちげーし!」「違うわよっ」
那由多に、炎と一緒に燃やす物質を色々変えてどんな色になるのか、空中で燃やせる様に軽くて発色する物質はどんな物が合っているか等々試していたのだと言う説明を受け、科学がそれほど得意でない……というかむしろ苦手な永遠は感心してぽかんと口を開けたまま頷き続けた。
余談として今はコンタクトレンズだということも聞かされた。
「なのに石投げるなんてちょっと酷くない、安藤くーん」
「あ、えーと、まぁそうだなぁ。あと、永遠でいいよ」
「げしっ!」「痛えっ!」
「いや、那由多さ、何でこんな時間にこんな所で実験してんのよ」
「……えーっとお。ちょーっとだけ人が驚くのが面白くって? ……みたいな?」
おどけた表情を作って誤魔化そうとする彼女のこめかみを両の拳でグリグリと責める刹那。
「イタタタタ」
「依頼主になんて言やいいんだ? コレ?」
——翌日の放課後。
学校の屋上には依頼主に事の顛末を伝える永遠の姿があった。
那由多には名前を明かされたくなければ、今後一切あの公園で実験をしないという誓約書を書かせ、依頼主には近所の中学生のイタズラと言うことにして、火の玉の画像を見せた。中学生は刹那が散々懲らしめたし、名前と住所は押さえてあるからもう大丈夫だろうとも伝えた。依頼主には「近所のガキか?」と問い詰められたが、魔法の言葉『探偵の守秘義務』で乗り切った。
「……で、安藤。俺初めて利用するけど、いいの撮れたのか?」
依頼主の問いかけに、永遠はスマホのアルバムをサムネール表示にして見せた。
画面には隠し撮りされた普段着で巡回中の刹那の写真やヤンキー風のコスプレ写真、ミニスカートで火の玉を狙っている時の地面からのローアングルショット等が多数並んでいる。
「これからはお得意様だし永遠でいいよ。
日割り分と倍額報酬で併せて二万だから、全部で20枚まで選んでいいよ。現物は高解像度プリンターで出力して明日渡すよ」
永遠の隠し撮りによる〝陰キャの星・隠れた学園のアイドル刹那〟のブロマイド販売は売れ行き好調だった。
データは事前に永遠が検閲し、パンツが見えていたりエアソフトガンが映り混んでいる様なまずい画像はトリミングなどで見えないように加工する。
そしてネットへの流出を防ぐ為とブロマイドの価値を下げない目的でデータ販売はしていない。更に友人も含めた他人には見せないという誓約書も書かせる徹底ぶりだ。ブロマイド販売の事は、永遠や過去に依頼をした事がある者からの紹介制で、ブロマイドのみの販売もしていない。このサービスはあくまでも刹那主催の学園探偵への依頼との抱き合わせでしか受けることが出来ない。
「いやぁ、しかしイタズラだったとはね」
「そりゃそうだろ。幽霊なんていねーよ! 幽霊なんかよりも警邏の警官の方が余っ程怖ぇーよ」
「あれ? あそこの公園って昔お年寄りのお巡りさんが真冬の警邏中に心臓麻痺で倒れて死んじまったとかで、それから巡回してない筈だけどなー?」
「……え? マジ?」
「バァンッ!」
階段を駆け上がってきた刹那が勢いよく屋上のドアを開いて顔を出す。
「永遠! 今、教室に新しい依頼者きたわよっ!」