第2話 オカルトバスターズ!
「幽霊なんかいないよ〜。何で依頼受けたのよーもうっ、永遠のバカバカバカー、ってわわっ!」
小石につまずいた刹那がつんのめり、永遠の背中に頭突きをかます。その頭には米国のSWAT等特殊部隊が採用しているヘルメットを被っているので堪ったもんじゃない。
「ぐわっ、痛てーって! もういいかげん諦めろよっ!」
「無理なモンはムリ!」
学園探偵刹那&永遠へと依頼を持ち込んできた同級生。その自宅近所にある、無駄に大きな公園。
今回の依頼は最近その公園に出るという噂の幽霊を退治して欲しいという物。
田舎とも言えない、かと言って都会とも言えない神奈川の端っこ。開けてるんだか開けてないんだかわからない中途半端な街にあるこの公園はかなり広い。
永遠は愛車のホンダエイプ100を押しながら、刹那は上着の下に隠された相棒・ハイキャパ5.1Rをいつでも抜けるようにグリップを握りしめ、一昨日から深夜のパトロールをしていた。
「なぁ、幽霊出てきたとしてそれ意味あんの?」
「ハイキャパ5.1Rならどんな悪霊だって貫けるわよっ!」
「ジョンじゃダメなの?」
刹那の形のいいお尻からやや上、ちょうど上着で隠れる辺り。そこにあるプレーンレザー製ヒップホルスターには、彼女がオークションで落とした古いカート式リボルバー〝コルトディティクティブスペシャル〟刹那命名の『ジョン』が鎮座している。
「コルトDSはあくまでもバックアップ。あとこっちは一応18禁だからまだおおっぴらに使っちゃマズイでしょ。弾も込めて無いし、あくまでお守り。それに命中精度がねー」と自分の腰の辺りをポンポンッと叩く刹那。
その日、通算三日目の巡回は何事も無く終わった。
「行くか」バイクをキック始動した永遠がミラーに掛けていたジェットヘルメットを手に取る。
「うん」頷いた刹那がタンデム席にあるベルトを掴み、脚を上げスカートを翻して跨る。捲れたスカートの中には短めのスパッツが覗く。
運転席の永遠が振り返って刹那のタクティカルヘルメットを一瞥する。
「おま、それバイク用じゃないだろ。こっちにしろって」
「はいはーい」面倒くさそうにタクティカルヘルメットを脱ぎ永遠に渡す。受け取った永遠はハンドルに後付けされたヘルメットロックに掛けてある予備の半キャップをタクティカルヘルメットと交換して半キャップを被る。
「と、と、と、ととと永遠⁉︎」
「どーした?」
「ひ、人玉っ!」
永遠が刹那の指差した方向を見るのよりも速く、ショルダーホルスターからハイキャパ5.1Rが抜かれた。
刹那は条件反射の様にセーフティレバーを解除し、トリガーに掛けられた指に力を込める。
「バカっ、ありゃ警邏のライトだっ」
慌ててハイキャパ5.1Rを持つ刹那の腕を抑え込む永遠。
永遠の声を聞くやいなやすぐにトリガーから指を外し、トリガーガードの上に指を掛けてショルダーホルスターに銃を仕舞う。
「コラッ! おまえらっ、こんな時間に何やってる?」と警官の声が響いた。
「やべーっ、掴まれッ!」
永遠が即座にクラッチを握り、ギアペダルを踏み込む。
刹那は左手でタンデムベルトを握り締め、両足は慌てて置き場所を探す様にパタパタと二度空中を踏み、三度目に正しい位置に収まる。
「飛ばすぞ!」
急なクラッチ操作とラフなアクセルワークに加えてタンデム席に女子高生。
盛大にフロントタイヤを浮かしながら加速していく永遠のエイプ。ここがウィリー大会の会場なら間違いなく優勝だ。
後ろから「待てっ」と叫ぶ声が永遠の耳に届いたが、そういわれると余計に逃げてしまうのがバイク乗り。特にやましいことはしていないが、高校生の男女が夜の公園で一緒に居るところを警察に見つかると少々面倒だ。その上、万が一刹那が持っているエアソフトガンが見つかったなら場合によっては補導もあり得る。心の中で警察官に謝罪の言葉を述べながらもアクセルは開け続ける永遠だった。
一度は永遠達に走り寄ろうと試みた警官がパトロール用の自転車まで戻る頃には、走り去るバイクの排気音は追尾を諦めるに充分な程遠ざかっていた。
永遠は公園から最短コースで家までの道のりを走ったつもりだったが、逃亡時の心理が影響し左へ左へと逃げていた為、やや遠回りをした後自宅についた。
二人の自宅が見えてくると増設されたキルスイッチでエンジンを止め、惰性で家の前までエイプを転がしていく。刹那もタンデム席から飛び降り静かに着地し、門扉が音を立てない様に慎重に開け、永遠家の隣の家へと消えて行った。
「明日からのパトロールはしばらく歩きだな」ヘルメットを脱いだ永遠が夜空を見上げながら小さく呟いた。