第16話 チェイス!
こちらは既に五速全開。それでも交通量の少ない町外れの工業団地ではすぐに追いつかれてしまうだろう。
幸い、科学部の那由多に手配して貰ったヤベー薬品の影響でヤンキー二人組の出足は遅れている。
工業団地を抜けて市街地に入れば、排気量負けしている永遠のエイプにも少しだけで分がある。
バックミラーにはノーヘルタンデムで追いかけてくるヤンキー達。
脱出の時に切りつけられた刹那の事も心配だ。とっとと犯人達を撒き一刻でも早く病院に連れて行きたい、そんな永遠の気持ちを代弁するようにエイプは切ない排気音を吐き出しながら走る。永遠はアクセルを目一杯開け続けた。
「刹那っ、顔! お前大丈夫なのかっ?」永遠は自分でも情け無いくらいの泣きそうな声でタンデム席に向かって大声で叫んだ。
刹那はバラクラバを頬っぺたまで捲り、タンデム席から永遠に顔を近づけて
「これー、イギリス製の防刃バラクラバっ! 大丈夫!」と伝えた。
「こんっのミリオタがーっ!」と安堵の叫びを上げ、追いつかれる寸前で市街地に突入した永遠。頭の中を市街地モードに切り替えた。
車の量が増え、エイプの低いミラー位置を活かしたすり抜けや、バスストップ用に広がった路側帯を使い抜けるタイミングに合わせて大型トラックの前に出るなどの小トラップを駆使して差を広げる永遠だったが、反対車線が空いた隙に我がもの顔で逆走してくるマジェスティに並ばれてしまう。
「止まれガキーっ!」
「反対車線とかライディング美学ねーのかよっ!」
叫ぶや否や、直進信号が赤になった交差点を一瞬エンジンを切り歩道に乗り上げてそのまま左折ワープし、また車道に戻ってキルスイッチをランに入れて惰性を利用して押し掛けの要領でエンジンを再始動して走り出す。
後ろでは盛大にクラクションが鳴っている。おそらくチンピラ共が信号無視をして左折してきたのだろう。
「永遠ーっ、逃げ切れるの⁉︎」
「もうすぐ左手に交番が見えてくる。そこ通るタイミングで押しボタン押せるか?」
「やってみる!」
タンデム席で立ちあがった刹那がハイキャパ5.1Rを構える。
黄色いマーカーで側面に『G』と書かれた予備マガジンを入れてスライドを引く。フレーム後端のセフティレバーを解除してツーハンドで構える。
すぐに永遠の言っていた交番が見えて来た。
「行っけぇーっ!」と運転席で永遠が叫ぶ。
しっかりと目を見開きターゲットを捉える刹那。
全神経を研ぎ澄ますと徐々に周囲の音が消えていく。目測で距離を測り頭の中でカウントする。
7メートルから一気に5、3と指先に力を込める、その時間は一秒にも満たないのだが、集中した刹那には数秒に感じられた。
「バシュ、バシュ、バシュッ」三連射。
刹那が放ったゴムBB弾が歩行者用の押しボタンに命中し、押した途端すぐに変わると評判の自動車用信号機がエイプ100が通り過ぎた瞬間赤に変わった。
走り抜けながらちらりと交番を見ると丁度受話器を置いて慌てて飛び出していく警官の姿が見えた。依頼主に頼んでいた匿名通報が間に合ったようだ。
警官が外に出るとその眼前をノーヘルで信号無視をしていくビッグスクーター。
鬼ごっこに更に鬼が増えた。
再度、車の左側をすり抜ける永遠。
反対車線から前に出ようとするスクーター。
すり抜け終わり車の前に出た永遠はハンドルスイッチを操作し右ウインカーを出した。
チッカッチッカッチッカッと音を出してウインカーが点滅する。
永遠のこのウインカー操作はフェイクで、実際には進路を変えず真っ直ぐ走った。
だがすり抜けと同時にウインカーを出されたドライバーは驚いて永遠たちを避ける様に右側に急ハンドルを切った。
更にその右側から追い抜こうと反対車線を加速中のスクーターは車を避けようと慌ててハンドルを切りながらのパニックブレーキ。
結果、チンピラ達はスクーターで追走している警官の前でプラスチックパーツの割れる大きな音を響かせながら見事な単独事故を起こした。
一度止まりバックミラーでその様子を確認して永遠と刹那はゆっくりと走り去った。