第15話 GUN・アンド・RUN!
依頼を受けて30分後。学園探偵の二人は町外れにある工業地帯の一角、小さな平屋の傍に居た。
そこはもう何年も前に廃業し周囲の雑草が伸び放題になっている元工場。
依頼主のiphoneの位置情報を頼りにここまでやってきた。
裏口付近に人が出入りしている痕跡と、低い位置の草が焦げ、スクーターにありがちなタイヤパターンが残っている場所を見つけた。
「ビッグスクーターだな」前後タイヤの間隔から何となく推測した永遠はいざとなった時に自分のエイプ100で逃げ切れるかどうか少し不安を覚えた。
エイプを裏口の死角に停め、見張りをする永遠。
裏口にはハイキャパ5.1Rを構えて侵入と捜索を開始せんとする刹那。
今回充分な用意をする暇はなかったが、最低限あり合わせの物で備えてきた刹那。スカートの下にはジャージを履き、ブレザーの上からポケッタブルパーカーを羽織り制服を出来るだけ隠し、顔にはいつも鞄に忍ばせているバラクラバと言われる目出し帽を被っている。いつでもタンデムで逃げられる用にヘルメットはバイク用の半キャップだ。
スクーターが停まっていなかったが念の為、裏口ドアを少しだけ開いてスマホを挿し入れカメラアプリで中を確認した。
中に人影は無い。やはり犯人達は外出中のようだ。迅速に工場内に入り、引ったくられた鞄を探す。
「何? この匂い、シンナー?」工場内の異様な匂いで鼻が曲がりそうになり、ハンカチをマスクの中に挟んで辺りを捜索する。
事前にネットで確認した依頼主が使っているのと同じブランドで同じ色のバックはひとつしかなくすぐに見つかった。他にも幾つかの被害にあったであろう鞄がチャックを開けられた状態で放置されていた。
『鞄発見、念の為依頼主の電話にコールお願い』
刹那からのメッセージを確認した永遠が依頼主の携帯を数回コールする。
『DVDも確認よろしく』と今度は永遠がメッセージを送る。
『鞄の中に携帯無いみたい、もう一度長めにお願い』
リダイヤルした後、今度は電話をかけっぱなしにしながら永遠は考えた。
(携帯が無いってことはすぐに鞄を漁った筈だ。犯人達は通学鞄の中に金目の物を見つけられなかった、郵便局で金を卸した訳じゃないからな。検討が外れてまた稼ぎに出たのか? いや、……もし犯人が若い男だった場合エロDVDを見つけたとしたらどうする? 今DVDプレイヤーかノートパソコンか何かを取りに行ってるんじゃないのか? だとしたらすぐ戻ってくる可能性が高い! 刹那が危ない!)
電話はコールを続けながらも、バックグラウンドでこの場所からの逃走ルート上に交番があるか検索する。念の為にと依頼主に渡していた(盗撮用の)もう一つのスマホにメッセージを送る。
『公衆電話から匿名で警察に通報してくれ、このあと送る住所付近に不審者がいるって』
続けざまにスマホがバイブして落としそうになる。
『スマホ発見、あと不潔物も』
メッセージはスマホとDVDの発見を知らせる刹那からだった。
『ヤバイ撤収』と返す。
「バボーッバボーッバボーッ」と下品な音とともにベタベタに低い車高のマジェスティがやってきて裏口に停まった。
ヘルメットを脱いでそのままシートの上に放り、乱暴に裏口のドアを開けてチンピラ風の男達が工場に入っていった。やはり手にはノートパソコンを持っている。
「ナンダァーオメー!」と馬鹿でかい声が外まで響く。
永遠は慌てて口元を使い捨てマスクで隠しヘルメットを被るとエイプのエンジンをかけて裏口へ向かう。
エイプをすぐ走り出せるようにエンジンをかけたまま停めて工場内に飛び込んだ。
――工場内。
『ヤバイ撤収』
永遠のメッセージを確認し、依頼主の鞄にスマホと『妹みかこ13歳』と書かれたDVDを放り込み背中に背負って入り口に向かう刹那。
しかしノブに手をかけたその瞬間、外側からドアが開きおそらく犯人と思われるコテコテのヤンキー二人組と鉢合わせた。
「ナンダァーオメー!」と叫んだ男の鼻先めがけてハイキャパ5.1Rの先端に取り付けられたストライクフェイスコンペンセイターの一撃を見舞う。
「痛ぇー!」と叫んで鼻を覆ってしゃがみ込んだ男を横に蹴飛ばし、その反力を利用して二人目の男の脇をすり抜けながらハイキャパ5.1Rをホルスターに収める。しかし慌てた彼女はマガジンキャッチボタンをホルスターのスナップボタンに当ててしまい、するりとマガジンが落下した。
「あっ」小さく驚きの声を上げたが、持ち前の反射神経でマガジンを空中でキャッチ!
しかしマガジンを回収するため足を止めた刹那は背後から伸ばしきったその腕を掴まれ、そのまま羽交い締めにされ、せっかく手にしたマガジンを落とした。
「ふざけんなてめー!」鼻を押さえながら立ち上がった男がポケットからチキチキと音をさせながら刹那の顔めがけてカッターナイフを振り下ろす。
「きゃっ!」と言う悲鳴と同時にドアから永遠が飛び込んできた。手には茶色い瓶を持っている。
「マズルとサイト塞げっ!」叫ぶと同時に茶色の瓶を地面に投げつける永遠。
その言葉の意味を理解した刹那は鼻の奥に力を込め息を止めてしっかりと目を閉じた。
ガチャンと重厚な音が響き地面に投げつけられた瓶が割れた。鼻をつんざく異臭が周囲に立ちこめる。
「何だコレ、イテー」と、一人は握り締めたカッターを落とし目と鼻を押さえて転がり回る。
刹那を押さえつけていたもう一人も「エンッ!」と言って鼻血を出し、羽交い締めしている手を緩めた。
永遠は薄目を開けて刹那の手を引き工場の外に出た。二人はそのままエイプに跨り逃げ出した。
やや遅れて後ろから「バボーッバボーッ」というビッグスクーターの音と何を言っているか聞き取れない罵り声が聞こえてきた。