第14話 Yを取り戻せ!
ジ、ジジ、キーンコーンカーンコーン。
長かった一日の終わりを告げる鐘が鳴り教室内に拡がるのは、一斉に始まる話声や荷物を纏めようと開かれる鞄のジップ音、床と椅子の足が擦れる音、そして勢いよく開けられたドアとバタバタという足音……?
「永遠ー、助けてくれー!」余程切羽詰まっているのだろう。他クラスの教室にも関わらず窓際の永遠の元まで一目散に小走りでやってくる男の影が……。
ズガ、ガタ、ドターン!
刹那の目前を通り過ぎる時、足を引っ掛けられ頭から盛大に逝った。
「依頼なら先にこの私を通してよね! この〝スクール……」
「わかってるよ、学園探偵さん。でもコレばっかはちっと……」すぐに立ち上がった男子生徒が制服に付いた埃を払いながら刹那から永遠へと視線を移す。
「学園探偵じゃないっ! 〝スクールディティクティ……ん? 学園探偵? 合ってる?」
「合ってるな。んでも、刹那には話せない事情がありそうだな」
そう話しながら近づいてくる永遠に男がうんうんと大きく頷く。
「急いでるみたいだし、まず俺一人で聞くよ。ここじゃなんだし屋上行っか」
如何にも納得いかないという顔の刹那を置いて二人は屋上へと向かった。当然、少し距離をおいて刹那も二人を尾行していく。
そのまま屋上に出ようとした二人だったが思いのほか風が強かったので、一歩踏み出した足を引っ込め踵を返して屋上ドア前の踊り場に戻った。永遠はその時階下に急いで隠れる刹那がチラリと見えたのだが、手すりにもたれ掛かりわざと背中を見せ気付いていないフリをした。
「そう言えば寺西、お前六限サボってなかったっけ?」
窓際の席だと授業以外にもおのずと入ってくる情報があり、念の為確認する。
「良く見てんなぁ。流石に一年も続けてりゃ本当に探偵っぽくなってくるか。実はよぉ……」
依頼主が授業をサボってまで向かった先は郵便局。局留の荷物を受け取りに行く為だった。
五時限目。授業中にこっそりとスマホで確認すると、数日前に通販サイトで発注していた待ちに待った荷物が郵便局まで届いていた。しかも都合のいいことに本日は両親が夕食後に町内会の寄り合いで外出する予定。いても勃ってもいられなくなり、授業を早退して荷物を受け取りに向かった。
自転車を飛ばしていき制服の上からパーカーを羽織り窓口の女性局員に局留め荷物受け取りの旨を伝える。そうして口から心臓が出てきそうなくらいドキドキしながら窓口で受け取った荷物には『パソコン部品』と書いてあった。
極度の緊張が郵便局を出た瞬間に緩んだのだろう。自転車を漕ぎ出した瞬間、後ろから来た二人乗りのスクーターに鞄ごと大事な荷物を引ったくられてしまった。
「で、荷物を取り返して欲しいと」
「ああ、出来るだけ早く頼むよ」
「ちょっとっ! そんなの警察の仕事でしょっ!」我慢しきれずに飛び出してきた刹那が凄い剣幕と勢いで階段を上がってくる。
「えっ? ちょ、なんでここに刹那ちゃんが!?」
あちゃーっ、といった表情の永遠が吐き捨てる様に言った。
「18禁物のマズイやつだろ? 荷物」
「う、うん……。ちょっと警察に見つかるとマズイやつ」
だから学園屈指の美少女に知られたくなかったのだろう。
刹那が自分よりも背の低い依頼者を汚物を見る様な目で見下し一言。
「なにかと思ったら『Y』って猥褻物のワイじゃないのっ!」