第13話 競売顛末記!
「江口さん、ありがとう!」
語尾に感嘆符は付いていそうだが、棒読みで感謝の意を伝えた彼は盗難被害に遭っていた自転車を受け取ると会釈して帰路に就いた。
そして腕を組んだポーズですまし顔をしていた刹那は彼の姿が完全に見えなくなった後一気に破顔する。
「いぃやったーっ! 現ナマゲットだぜぃ!」両手を天に高らかとバンザイしたまま両足でぴょんぴょん跳びはねて、全身で喜びを表す刹那。
「いや、おま。言い方よ」
「あ、でも……」
今回、学園探偵の記念すべき初依頼は盗難自転車の捜索。実働二日にして発見に至ったので日割り請求五千円の二倍、丁度刹那の目標金額残り分一万円となるのだが、これを永遠と均等分配すると、コルトディティクティブスペシャルのオークションスタート価格二万円を下回ってしまう。そのことに気付きしょんぼりと肩を落とし飛び跳ねるのを止めた。
「今回俺の取り分は無しでいーよ。実際見つけたのおまえだし、俺特になんも貢献してねーし」
「じゃあ出世払いで!」刹那は澄んだ青空をその背中に背負い満面の笑みで大きくジャンプした。
永遠は普段そうそう見ることの出来ない刹那の素の表情や仕草を彼女に見つからないように慎重に盗撮用スマホに収めた。
――時間は遡り、男子持久走の後。
女子は体育館に併設された更衣室で着替えるが、男子はそのまま各教室を利用する。ガヤガヤとしている中、念のため声を潜めた永遠がごく親しい友人数名に質問した。
「なぁ、さっきの話。もし刹那のブロマイドあったらホントに買うか?」
永遠の投げかけに対して全員が首を縦に勢いよく振って頷いた。その後具体的にお金の話をしてみたが皆好感触だ。みんなの意見は一貫して「あったら欲しいし、喜んで買う!」だった。
永遠は刹那のブロマイドの販売という閃きを一旦家に持ち帰って検討することにした。
翌日、教室の片隅には数人の男子が永遠を中心に密やかに語り合う姿があった。
永遠が彼らに提示した条件は、
①親しい信頼出来る人間には口コミで話しても良いが事前に永遠に許可を取る。
②データでの受け渡しは無し、あくまでもプリントアウトした物しか渡さない。
そして最後に最も重要な条件、
③刹那のブロマイド販売について。それを購入する権利は刹那主催の学園探偵に依頼をした人しか発生しない。依頼費は解決するまでにかかった日数の一日分が五千円、つまり三日かかったなら一万五千円と言うことになる。そして、その依頼料五千円分につき五枚ほど、刹那の写真を購入する権利が発生する。
みんな内容については納得して賛同してくれた。永遠は一晩中考えた甲斐があったと胸を撫で下ろす。
中学生の頃から個人的に行っていた刹那の隠し撮り。今までそれは自分が眺めて想いを馳せる為のものだった。永遠は正直、今回刹那が思い付きで始めた学園探偵業に困り事を依頼してくる酔狂な生徒はいないだろうと憂いていた。
いつもは内弁慶な刹那が自分から殻を破るきっかけを作ったのだ。刹那に学園生活を楽しく送って欲しい。そう考えた永遠は今まで身につけた隠し撮りの技術を活かし、それを付加価値として依頼者を集める事を思い付いた。
「だけど、実際依頼するような事ってなんかあるかな?」友人の一人がぽつりと漏らす。
「それについても考えてる」
永遠は待ってましたとばかりに昨晩の内に練っていた計画を友人たちに話した。
初めての依頼、初めてのブロマイドサービス。今回はお試しということで、ここにいる永遠を含めた十人のメンバーでそれぞれ千円ずつ出し合い、各一枚ずつを選ぶ。肝心の依頼内容については、誰か一人の自転車が盗まれたことにしてそれを二日目に刹那が見つけるように裏工作するというものだった。
当初、上手くいくかどうか懸念する声も上がったが結果は上々に終わり、普段学校で見られない仕草や素の表情の刹那の写真は友人達に大好評だった。
――再出品されたオークションの最終日、終了一分前。
「どどどどどーしよ? あと一分ー!」相変わらず手を組んだ祈りのポーズで永遠の部屋の天井を仰ぎ見ている刹那。
「いや、もう大丈夫だろ。てか、他に入札者いないって相場より高いんじゃねーの?」
「そんなのはいーの。だって二人で始めたスクールディティクティブ初仕事の戦利品でしょ?」
「って、なん真顔でおま。……また依頼来るといいな」
数日後、無事届いたリボルバーをスカートの上に二重で付けたベルトに挟み上機嫌で登校する刹那。対象年齢にまだ達していないため、フロンガスは入れられていない。
お互いの教室に別れていく間際、永遠と同じ教室に入っていく見覚えのある男子に刹那が声を掛ける。
「おっはよ。また困り事があったらヨロシクゥ!」と軽く手を挙げ自分の教室に消えていった。
「え? 俺?」声を掛けられた彼が戸惑いながら振り返る。すぐ後ろにいた永遠と目が合う。永遠が親指を立ててニッと笑い、二人は軽くハイタッチして教室に入っていった。