胡乱
「顎を強打すると、脳震盪を起こすことができたり、目を潰すことも逃げ道をなくしてこちらを有利にすることができますね〜他にも、脇の下は結構神経が集中してるのでダメージを多く与えられますし…」
「な、なるほど…」
絶賛、カスミちゃんによる人の急所の授業中といったところ。。
あまりにもカスミちゃんが詳しくて、教えてもらっといてこんな事を言うのもなんだが、少し怖い。
感謝はしている。わざわざこの世界のだろうか?、の文字が読めない私に一つ一つ丁寧に説明してくれていることに、もちろん感謝はしているのだが…。
それにしても、だ。随分立派な書庫だと思う。
字が読めないのがもったいなく感じるほど、壁一面に敷き詰められるようにどこを見ても本、本、本。
壁と壁の狭間の本が少しホコリを被っているのでさえも、なんだかそれらしいように思える。
壁にかけられている絵画や、鉄の甲冑も良い雰囲気を醸し出していた。
「でも紙とかの文明あったんだ…意外…」
思わず普通に失礼なことを呟いてしまう。
洞窟に住んでいるあたり、どこか原始的な生活を想像していたからかもしれない。
「いや、それぐらいありますよ…!?普通に電気とかも通ってますし…」
「え、電気通ってるんですか!?洞窟に、どうやって…?」
カスミちゃんがサラリと言ったことに思わず突っ込んで聞いてしまう。
電気は湧いているくるわけじゃないし、とてもじゃないけれど、電気が通っているような都市には思えない。
「さぁ…?私もそのへんはわかってないです…。セリさんやユズさんあたりなら知ってるかもですけど…」
カスミちゃんも、私の突っ込みに困ったように首を傾げる。
もしかしてあの不思議な声の神様のような人だろうか。だとすれば随分ご都合主義な場所だ。
ところでセリさん・・・というのはあの綺麗な女の人だろうが、ユズさんというのはだれなんだろう。
まだ会ったことがない。というか、あと何人ぐらいこの洞窟で暮らしているのだろう?
「あの、ここの洞窟って…」
「やっほ〜!カスミンと新人ちゃ〜ん」
私がカスミちゃんに尋ねようとしたその瞬間、誰かに私の言葉を遮られた。
驚いて後ろを振り返ると、そこには背の高くひょろりとした男の人が立っていた。
足音一つも立てずにいつの間にか後ろに立っていて、なんだか怪しい雰囲気の人だ。
「だ、誰で…」
「ユズさん…なんでここに…っていうかどういう呼び方ですか…!」
またもや尋ねる前にカスミちゃんの言葉に遮られてしまった。
だが、この人が先程言っていたユズさんなのだとしたら、悪い人ではないのだろう。
カスミちゃんも知り合いみたいな感じだし。よかった。
いきなりここで転生した勇者登場!さて実践!のような展開になったら到底今の私には倒せないだろう。
「いや、俺はただ面白そうなことになってるなぁって。俺も手伝ってあげよっか?」
ユズさんは、こちらににこやかに笑いかけながらそう言う。
カスミちゃんは明らかにムッとした感じだ。
「ユズさんの出る幕はないですよ…!もう、ほとんど終わりましたから…!」
「別に、俺人間の急所を教えるなんてできないから…なんかカスミン対応ひどくない?そうじゃなくて…」
ユズさんは甲冑の握っている剣を奪うと、くるくると回し始めた。
何してるんだろう…。若干の怖さが芽生え、一歩後ずさる。
カスミちゃんも睨むようにその動作を見続ける。
「どうせ戦うんだし、俺は剣技教えてあげようかなって」
「「剣技?」」
またもや、カスミちゃんと声が重なる。シンクロすること多いなぁ、私達。
「そんないきなり・・・時間も少ないのに、なんで…」
「うーん?ま、俺だってそれなりに経験長いし?手伝ってあげるってだけ。」
俺、面白いことが好きなんだよね〜と刃先を指で撫でながら続ける。
私自身は戦闘経験なんて無いし、実際に指導してくれるなんて願ったり叶ったりといった状況ではあるのだけれど、いまいちどうして私に協力してくれるのか理解が求まらなかった。
「…どうしましょ、カスミちゃん」
「うーん・・・ユズさんはノリが軽いけど悪い人ではないし…私はあんまり剣技とか教えてあげられないから、教えてもらってもいいんじゃないでしょうか…?」
困ったように助けを求めると、カスミちゃんも同様困ったように首を傾げてい言う。
「えっと…その、よろしくお願いします…」
特に断る理由もないので結局私は厚意を受けとることにした。多少の怪しさは拭えないけれど。
ユズさんは私の返事を聞くと、さっきより一層にこやかに笑う。
「じゃあ、あっちで待ってるね」