決心
「さすが、組織のトップです…!」
トップ…?どういうことだろう?
はっきりとしたことはわからないが、とりあえずすごい人なのだということは分かった。
漠然としか理解していないことを察したのか否か、カスミちゃんはこちらへと振り向くと説明してくれた。
「こちらの方はセリさんです…!とっても強い方で、この組織の責任者さんでもあります!すごいんですよ!どんな理不尽な人でも物ともせず華麗に倒して…!すっごくかっこいいんです!」
その説明にはかなり熱がこもっていて、カスミちゃんがかなりセリさんに対して敬意と羨望といった感情を持っている事が伝わってきた。セリさんは相変わらず涼しげな顔だが、頬は少し赤らめているあたり嬉しくないというわけではないのだろう。
私も自己紹介しなければ、ともう一度二人の方に向き直す。
「はじめまして。ナズナって言います。その、」
私は事情を説明しようと言葉を続ける。
が、セリさんの声に遮られてしまった。
「…組織に入りたいっていうなら、お断りだ。お前をこの組織にはいれるつもりはない」
「「え?」」
私とカスミちゃんの声が重なる。
カスミちゃんも私もセリさんの言葉に混乱していた。
まだ何も言っていないのにその前にはっきりと否定されてしまった驚きと、どうして突然そんな事を言うのかわからないといった様子の驚き。私達の似ているようで少し違う驚きが混じってなんともいえない声になる。
「ま、待ってください!セリさん。私の時は普通に入れてくださりましたよね?」
困ったようにカスミちゃんが聞き返す。
セリさんは、あのときはな、とそれ以上は語らずこちらを睨んでいる。
けれど、私もわかりました、と引き下がるわけにはいかない。
どうしたって、ここにおいてもらうしかこの洞窟での生きる道は今のところ無いのだから。
こんなところで”私”という生涯を終わらせたくはない。
「あの本当になんでもします!お荷物にならないように頑張るので、なので!」
「だめだ」
「転生勇者がどんなものかわかりませんけど・・・でも一生懸命、」
「だから、そういうことじゃないんだ・・・。」
先程までとは違いセリさんの声は強い拒否を交えたものではなく、唐突に弱々しいような辛さの滲んだ声へと変わった。
顔も苦しそうに歪んで、セリさんも私を心から疎ましく思っているわけではないのだとわかる。
そのまま数分。ようやく凛々しさを取り戻したかと思うと、セリさんは大きく息をついた。
そして重そうな口を開いて、続ける。
「そこまで言うのなら、分かった。試験をしよう。受かれば入ってもいいぞ」
「「試験?」」
またもやカスミちゃんと言葉が重なる。
けれど今度は私よりもカスミちゃんのほうが混乱していた。
「試験って…そんなのあったんですか?ここに」
「今作った。これに受からなければ、今すぐ元いた場所に帰ってもらう」
なんで私だけ、と若干納得できない部分も…いや納得できない感情しか無いけれど、
帰れと言われても帰る場所など無いのだし、受けないわけにも行かない。
「わかりました。受けます。」
そうはっきりと伝えると、セリさんは少し驚いたような、でも安堵したかのような顔を浮かべた。
「でもセリさん、どういった試験を行うですか?」
カスミちゃんの疑問は真っ当で、私も同様に気になる。
「それは、…実際に戦ってもらう。」
「へ?」
「だから、転生勇者と実際に戦ってもらうんだ。勝ったら合格ということにしよう。」
セリさんはなんてこと無いように言う。だが待ってほしい。
私に戦闘経験なんてほぼ無いも同然だし、いきなりそんなことを言われて勝てるわけがない。
だいたい、転生勇者と言っても話に聞いただけで実際会ったことすら無いのだ。
それを試験として出されるのは予想していなかったため、私はかなり激しく狼狽した。
「ま、待ってください!私、まだ一度も戦っているところとか見たことないですし、どうすればいいのか…」
「そうですよ!最近、勇者のランクが低くても転生付与とかでチートを使う人間だって増えてるのに…。初めてでそうそう勝てるわけないじゃないですか!」
私とカスミちゃんは当然抗議する。
が、あくまでもセリさんは冷静だった。その長身で私達を見下ろし、ただゆっくりとけれど体の芯から震えるような低音でなんてことなさそうに言う。
「できないなら入れないのみだ。たかがDランクの勇者。倒せるだろう。日時は明後日。それまで準備しておくこと。わかったな?」
そういうと、こちらの言葉も聞かず、スタスタと去っていってしまった。
「ど、どうしましょ!カスミちゃん!」
「私もわからないです…一体どうすれば勝てるんでしょうか…?」
途方に暮れる。とりあえず私達は腰を下ろした。考えても仕方ない。
とりあえず明後日までしかないのだから。なにか行動に移そう。
うーん、うーんと頭を悩ませていると、
「あ、じゃあ人間の弱点を知るっていうのは…?あんまり得策とは言えないですし、魔法とかのチートの直接的対処にはならないですけど、もしすきができれば倒せるかもしれないですし…」
思い出すように提案されたカスミちゃんの案は、確かにと納得できるものだった。
私は魔法使いではないから、そんな特別な能力を使ったりはできないし、剣を使いこなしたりなんてこともできない。なら、精一杯できることをやろう。
うん、と私はうなずく。カスミちゃんは微笑むと右奥あたりを指差した。
「あっちに本がいっぱいあるんです、いきましょ!」
手を引かれ走り出す。意外と力あるみたいで、私はただただひっぱられる。
ふと誰かに見られているような気がした。
「面白そうじゃん、俺そういうの好きだよ」
どうしてかどこからか遠く聞こえる。
けれど振り返っても誰もいない。なんだろう。
よくわからなかったが、この場でのわからないはもはや日常なのでとくには気にせず前へ進む。
頑張ろう。せっかくナズナちゃんと仲良くなれたのだし、カエデくんとも知り合えたのだから。
できる限りのことを、全力を尽くして、そして・・・。