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転生勇者はいらない  作者: 玉響
3/6

狼狽

「此処ですよ、つきました。」


指のさされた方向の先にあったのは、岩と岩のはざまだった。どういうことかよくわからなかったが、よく近づいてみると、小さなけれど頑丈そうなドアが見えた。上手いように隠されているらしい。

秘密基地やアジトを見つけたといったような、なんともいえない高揚感に浸る。

カスミちゃんは驚いている私を見て微笑みながら、ゆっくりとリズムを刻むようにドアをノックした。


とん、ととん、とんとんととん。


すると重たそうなドアがゆっくりと開いた。

音に反応して開くような自動ドアかと思えば、そこには重たそうにドアを引いている少年の姿が見える。

「意外と原始的なんですね、もっと最新鋭なものかと思いました…」

最新的な設備ではないのだと、勝手に期待しておいて勝手にがっかりとしたものの、よく考えればこんな洞窟に最新鋭の技術が搭載されている方がいささかおかしいのではと考え直した。

「うーん、まあ洞窟ですしね…。ていうか、最新鋭とか知ってるあたり、ナズナちゃんもやっぱり自分自身やこの世界以外のことはきちんと覚えてるんですね。」

カスミちゃんに言われて初めて、私は私自身のことと此処に至る経緯以外の記憶はたしかに残っているんだ、ということに気づく。特にそんな事考えていなかった。


ナズナちゃん()ということはカスミちゃんもそういったことは覚えているのだろうか。


やっぱりこの世界はよくわからない。どういう仕組でどういう目的で動いているのか。

だが、今そんなことを聞いたところで納得するような答えは誰も持っていないということはもう分かっている。だから考えても仕方ないといえば仕方ないのだ。


そんなことを思いながら、とりあえず私はもう一つ気になったことを尋ねることにした。


「えっと、こちらの方は…?」

私の胸あたりより下ぐらいで背伸びしている少年。必死に視線を合わせようとしているその姿は微笑ましかった。私は少ししゃがんで少年と視線を合わせようとするが、そうすると少年はひどくふてくされた様子。

少しでも大人に近づきたいといったような、年頃の難しい少年のような感じがする。


「あ、この子は、私と一緒にこの世界に来た子です。名前はー」


「カエデ」

ナズナちゃんの声を遮るように、ぶっきらぼうにその声は響いた。

大人になりきれていないような、まだ高い声がしかめっ面に似合っていなくてやっぱりどこか微笑ましい。

もう一度その少年を見る。


被っているフードの服…パーカーだろうか。まだ大きさがあっていなくてぶかぶかだ。そこに膝より上の短パン。どこにも繋がっていない、首からかけているヘッドフォン。

うん、やっぱり幼さが拭えていない。

何度見てもやっぱり、少し大人ぶった少年という感じだ。

この子に伝えたら、怒られそうだけれど。


「えっと、カエデくん…?でいいのかな?」


とりあえず声をかける。

うんともううんとも言わないので、とりあえず肯定してくれたということにして私は進めた。

「私はナズナっていうの!カエデくん。これから、よろしくね!」

私はそう言って手を出した。カエデくんは少し困った顔をしたあと、私の手を握り返す。

握手の成立。少し距離は縮まったと思えた。

けれど、カエデくんはすぐに握手を終えると帰ってしまった。


「ごめんなさい…悪い子じゃないんです、本当に。いい子なんですけど、一寸人見知りで…」

「全然!人見知りなんですね!仲良くなれるといいなぁ〜」

心からの言葉だった。こんな何もわからない世界。せめて一緒にいる人達とぐらい仲良く楽しく過ごして行きたい。実際そんなに悪い子には思わなかったし。


「それならよかったです…!じゃあ、行きましょうか」


中は意外と広いようで、設備もきちんとしている。

通路のところどころに綺麗な花も飾られていて、此処だけ見れば少々のお金持ちの家の廊下のよう。

どうやってこの場所を整えたのか、気になるところだけれどとりあえず私は口をつぐんでついていくことにした。あんまり聞いてもカスミちゃんを困らせてしまうだけだろう。

カツカツと反響する足音、水がポタポタと落ちている音だけが此処に響く。

此処は静かだった。


どれくらい歩いただろうか。迷路のように入組だったところを進んだからか、すごく時間のかかったような錯覚に浸る。実際はそこまでかかっていないのだろうけれど、兎にも角にも広々としたところに出る。


「誰だ?」


低く体が震えるような声が部屋に響いた。突然のことに脳が対応できず、失礼なほど驚いてしまう。

ゆっくりと振り返ると、そこには綺麗な人が立っていた。もっと言うべきことはたくさんあるのだろうけれど、まるでバラの舞う騎士のような凛とした美しさが大きく印象に残ったのだから仕方ない。頬にある引掻かれたような傷跡も、どこか凛々しさを感じる。

現れたその人に私は混乱が隠せなかった。とはいえど、この洞窟自体が混乱の根源のようなものなのだが。

けれどカスミちゃんは落ち着いていて、至って普通にその人に声をかける。


「あれ、セリさん、ここにいるの珍しいですね。もう終わったんですか?」

「ああ、今回は少し手こずったがな」

「全然すごいですよ…!だって、Aランクの転生勇者ですよね?」


そう言うとカスミちゃんは、ゆっくりと息を呑んでそしてこう続けた。


「さすが、組織のトップです…!」

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