番外編 岩間の気持ちとボタン
城内へ同棲しないかといわば、プロポーズのような告白をするのに5年かけた。そう言ったのは、SNSのやり取りを個人的にできるようになって5年だからだ。高校2年で同じクラスになってからずっと好きだった。だから本当は想い続けて7年になる。
硬式野球部で坊主頭で日に焼けたニキビ面で図体がデカくて女子には見向きもされ無い見た目で野球に明け暮れてた2年の秋に野球肩を患った。俺から野球を取ったら何が残るんだと思いながら通っていた整形外科でクラスメイトの城内に会った。
「どこか悪いのか?」
びっくりして自分を棚に上げて聞くと、
「腱鞘炎を再発させちゃった。」
と言う。待ち時間の間お互いにポツポツと怪我の身の上を話した。
彼女は、吹奏楽部で痛めて動きにくくなった手を退部してからゆっくりと小さい頃から習っていたピアノをリハビリ代わりに治したこと。最近、難しい曲にハマってピアノを弾きすぎてまた痛めてしまったことなどを話してくれた。
「弱くなっちゃって。たったちょっとの無理がきかなくてイライラするの。」
手をグッパーさせながら言っていた。
「いいな。城内はピアノがあって。俺は野球をとったらなんにも残らない。しかも野球は1人じゃできない。この肩がこのままだったら俺なんかゴミみたいなもんだな。」
代わりがあった彼女が羨ましくて思わずそう言った。
「うーん。私まだ、高校生だから、上手い事は言えないんだけど、岩間くんの鍛えた身体は素敵だと思うよ。硬式野球部の人って姿勢もいいし礼儀正しいし、A1高校の看板背負って闘ってるのも凄く尊敬してる。だから、岩間くんが野球辞めることになってもすぐにはゴミに見えないから大丈夫だよ。」
「すぐにはって事は辞めてしばらく経ったらゴミってことか?最後がなんか説得力ないな。」
身体が素敵とか、硬式野球部の厳しさも知っていてくれて嬉しかったが、素直には返せなかった。
「私、人生経験足らないから、素晴らしい励ましは出てこないの。もう。じゃあ、」
そこで城内は一息吸うと、一段と高い可愛い声で、
「岩間さん、素敵、尊敬してる。大丈夫。」
元の声に戻ると、
「どう?渾身の女子高生よ!元気出たでしょ」
ドヤ顔をされた。
本当に元気でた。肩治って3年で引退するまで無事硬式野球部でいられたよ。ありがとう城内。
城内が卒業式の日に非難されていて凄く腹が立った。安積が第二ボタンを渡したせいで、似合わないとか、地味とかモブとか。僻んだ女子達が言いたい放題だ。何だそれ。そいつらも悪いが、キチンと告白したわけでもなく、皆が見てる所でただボタンを渡して逃げるってなんだよ、あれ。あんな事になってなければ俺だって同じ大学受かってたらいいなって言って城内に第二ボタンを渡したかったんだ。
野球の経験を活かす事と叔父さんの会社を考えて理学療法士になる道を選んだら、作業療法士を志望していた城内と偶々同じ大学を受けていた。合格を確認してから数日あけて高校に報告に行くと城内の合格札はすでに掲示されていた。自分の合格札を隣りに掛ける事が出来て嬉しかった。それも後からきた安積の姿に台無しにされた。
安積は体育が得意な奴だったら一度は憧れる大学に合格したと名前を掲げて城内の合格も確認して笑顔を浮かべていた。その顔を踏みにじってやりたいというどす黒い感情が浮かんできて、着ていた自分の学生服の目立たない下の方のボタンを取って奴に渡した。呆然とした顔を見て胸がすく思いだった。