かもしれない〜城内比呂目線
「うん。間違えてない。あれは3年間の俺の片想いの不器用な告白のつもりだった。」
その言葉を補足するように安積さんは少し照れ臭そうにいろいろ話してくれた。
高一から私の事を好きだったこと。ボタンを返されて気持ち悪いと言われて(全部岩間くんの仕業だが)諦めたこと。事故にあって記憶が混濁したこと。高校生のはずだから、右手が無く頭に傷のある(当時は包帯ぐるぐるだったらしい。)少し老けた自分を鏡で見てびっくりしたこと。由美さんがカノジョだとは思えなかったこと。
「城内さんへの気持ちは記憶の底に仕舞い込んで忘れたはずだった。だけど、事故の後は城内さんの顔ばっかり思い出すんだ。それで、もう、元には戻れないって由美さんに別れてくれって何度も頼んだんだ。」
私に再会した時は記憶も戻り落ち着いたはずなのに、今度は幻覚を見るほど狂ったのかと思ったらしい。
でも、作業を通して利き手ではない左手でも出来ることが増えて、高校生の時より私と沢山話せて、心にいた氷のようなものが溶けて前向きになれたこと。そして、
「城内さんをずっと好きなままだったんだって気づいたんだ。ただこんなんだし。絶対に見込みが無いとか他に好きな人がいるとかだったらもうここではっきり諦めさせてくれないか?」
そう覚悟を決めたようなすっきりした顔で彼は私に告げた。
あの由美さんが隠していたプリントとずっと私が持っていた第二ボタン。岩間くんのやったこと。幾つかのピースがはまった様にすんなりと安積さんの気持ちは私の中に入ってきた。
「あの、安積さんの事好きかもしれないって自覚したの最近なんですけど、それでも大丈夫ですか?」
私は安積さんほど思い続けてきたとは言えない。だから聞いてみた。恥ずかしくて頬に両手をあてながら安積さんを見上げると、いつも白い彼の顔が熱でもあるのかと思うほど赤くなっていた。安積さんは一度深呼吸をすると、シャッツの胸の辺りを左手でがしっと掴みながら、
「全然、大丈夫。」
そう答えてくれた。
次回最終話です。