宝物〜安積廣智目線
封はされていなくて、封筒を逆さにしてふるとカサッと中から紙が2枚出てきた。手紙は簡単なものだった。ここまでして返すものとは何だともう一枚を開いて思わず手で顔を隠した。
できれば両手で覆いたい。自分が仕舞い込んでいたものがこんな形で暴露されるとは思わなかったからだ。しかも、柿岡から城内さんから両親から主治医。
そして、これは由美さんが俺の気持ちを知っていたと示唆したかったのだとも思った。
「これは、なんだか捨てるのもあれで、なんとなく。」
もうここでケリをつけなくてはいけないと分かりつつも、ようやく出た言葉はそんなしどろもどろな言い訳だった。そして深呼吸をして気持ちを切り替えてようやく、
「卒業式のボタンといい、俺、気持ち悪いことばかりしてる。ごめん。」
謝ることができた。頭も下げた。一方的な想いは迷惑になりうるのだ。
「顔、あげて下さい。全然、気持ち悪いなんて思ってないです。安積さんから貰ったボタン、私ずっと宝物にしてるぐらいだから。」
否定するのは社交辞令かと思ったけど、城内さんの顔は無理をしている感じでもなく、何より宝物のあたりが分からなかった。
「俺、人伝てに気持ち悪いってボタン返されたんだ。」
俺は、柿岡に岩間とやらの高校時代の写真を見せてもらってやっと一致したのだ。城内さんに返すように頼まれたのは同じクラスで進学先が一緒の彼だったのだと。
「私は返して無いです。安積さんは覚えてないかも知れませんが、吹奏楽部を辞めた時に受けたいじめから安積さんが助けてくれたことがありました。あのまま続いていたら、体調が戻らなくて高校を辞めていたかもしれません。だから私は安積さんから貰ったボタンはお守りにしてました。」
あの時、彼女の助けになれていたと聞いてほっとした。そして不思議に思った。
「じゃあ俺に返ってきたボタンはどういうことだ?」
「つい最近、安積さんに私からの振りをして自分のボタンを勝手に渡したって犯人に自供されました。」
「なんで、彼はそんな事をしたんだろう?」
城内さんはボタンを俺に返してない。気持ち悪いとも言ってなかった。そう何度も繰り返し頭の中で唱えていた。
「実は、安積さんが私にボタンを渡していなくなったあと、クラスにいたバスケ部マネージャーの沼田さんが騒いだんです。柿岡さんのせいで、安積さんが困って間違えて第二ボタンを渡してしまったって。城内さんに渡すなんておかしいから返してきなさいって。」
沼田さん。ちょっとキツめのやたらボディタッチの多い苦手な女子の顔が浮かんできた。
「私は、アルバムにメッセージを書いた御礼だと、第二ボタンだったのは気まぐれかなとは思ったけど間違えたとまでは思わなくて。周りが私と安積さんは釣り合わないって騒いでもボタンをそのまま持ってるくらい許されると思って聞こえないふりをしてそのまま宝物にしちゃいました。」
「うん。間違えてない。あれは3年間の俺の片想いの不器用な告白のつもりだった。」
自戒もこめてそう言った。
「犯人は私が騒がれてて可哀想だったって。安積さんに腹が立って、たまたま合格を報告しに行った時に安積さんを見かけて魔がさした。そう言ってました。」
城内さんは岩間の名前は出さなかった。
安積さん目線最終話になります。シメは城内目線で。