お見舞い〜安積廣智目線
『今日の夕方、私の仕事が終わってから、安積さんの病室にお見舞いに行かせてください。話したいことがあるんです。』
朝そんなメッセージが城内さんから入っていた。スマホで言いにくい事かと思うと心配になった。書写をやっていても集中を欠いていた。今は漢字の練習をしている。階段トレーニングに切り替えるかとかわさわさしていると母からSNSが入った。
『今日は仕事が遅くなりそう。明日洗濯物取りに行くからまとめときなさいね。』
『了解』
『今日は誰も行けないけど、寂しがらないでね。』
『大丈夫。いくつだと思ってんの?』
『永遠の5歳』
『うざっ』
そんなやり取りを交わしていると夕方5時の音楽が流れる。スピーカーが近いのか良く聞こえる。これ、俺の出身小学校の下校の音楽と同じかも。とぼんやりしているとノックの音がした。返事をすると、
「失礼します。」
私服で、鞄を持ってすっかり帰る支度の姿で城内さんが現れた。由美さんの件があってからは個室に移された。見舞い客の管理がしやすいようにとの事だった。
「お見舞いだから、安積さんにコーヒーを。私はミルクティー。」
ニコッと彼女が笑った。あの自販機で買ってきたのだろう。
「これ使いやすいよ。足出ちゃう時もあるけど。」
机には彼女が作ってくれた自助具がある。片手でも蓋を開けたり出来るように工夫されたものだ。義手もだけど、これからはこういう工夫の試しも必要だ。コーヒーの缶の蓋をそれを使って開けてみせた。
「良かった。」
彼女は自助具に満足そうにうなづきながら言うと
「これを安積さんに渡して欲しいと頼まれたんです。」
通勤用のバックとおぼしき中から白い封筒を出して机の上に置いた。
「封筒の中身は私と柿岡さん、主治医の松坂先生と安積さんのご両親も目を通してます。その上で私が渡すことになりました。武原由美さんから預かりました。」
息を呑んだ。化け物と言った由美さんの顔が浮かんで思わず目を瞑った。
「嫌だったら私持ち帰ります。」
幾分慌てた彼女の声が聞こえて目を開けた。封筒を鞄にしまおうとして手を出した彼女を止めた。
「大丈夫だ。柿岡がからんでるのか?」
「武原さんが柿岡さんに頼んだそうです。」