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封のない手紙〜城内比呂目線

 封筒には封はしておらず、こちらが目を通す事はあらかじめ分かっていたようだった。中には感情のない白い便箋とプリント用紙が入っていた。


 人の手紙を読む、しかも元カノから元カレ宛てで別れたてほやほや。目の前には書いた本人。柿岡さん。岩間くん。3人を見渡すと固唾(かたず)を呑んでこちらを見ているし、えいやと便箋を開いた。


『安積さんの部屋から勝手に持っていったものです。ごめんなさい。お返しします。ひどい事を言ってごめんなさい。さようなら』


そう書いてあった。多分選びに選んで短くなのだと思った。長く書けば何を書いてしまうか分からない。そんな恐れを感じてなんか私は勝手にどこかで武原さんを許してしまっていた。


 立ち会いに来ているわけだから、岩間くんと柿岡さんにもその手紙を読んでもらった。2人は黙って目を通してうなづいて返してきたので、封筒にしまう。もう一つの折りたたまれたプリント用紙を開いて


「えっ」


思わず声が漏れた。それは『1年4組 安積廣智、城内比呂』と書かれた高校1年の時の英語のグループ学習のプリント用紙だった。2人で相談して書いた英文や、授業中の筆談による雑談メモまで残されていた。多分一枚は清書して提出していてこれは下書きのいらない方だ。


 顔をあげると覗き込んでいた柿岡さんと岩間くんはなんとも言えない神妙な顔をしており、武原さんは下を向いていた。


「あの、武原さん、これはあの」


説明をお願いします。と上手く言えなかった。


「3年前くらいに柿岡くんの彼女に『安積さんは高校の時からずっと一途に好きな子がいる。全然違うタイプだし、本当に愛されてるの?』って言われたんです。」


武原さんが少し泣きそうな声で打ち明けてきた。柿岡さんはあちゃーと上を向いている。


「悔しくて、でも気になって。廣、安積さんの部屋に上がらせてもらった時に隙を見て卒業アルバムを覗きました。手掛かりはないかなって。誰だろって。バスケ部のマネージャーの顔と名前を確認したりして。でも、最後の寄せ書きの部分にメッセージを書いていた女子は城内さんだけで、そのページにその紙が挟まっていて。とっさに持って帰ってしまって。ずっと持ってました。」


廣といつも呼んでいたのだろう。それを安積さんと言い替えていた。かなり気を遣っているようだった。


「私は安積さんが混乱して別れを切り出しただけで落ち着いたらまたやり直せると思ってたんです。でも、連絡取れなくて。会いに行く理由を探して思い切って訪ねてみたら、あなたと笑ってる安積さんを見てしまった。カッとなって取り返しの付かない事をしました。」


そう言ってまた頭を下げてきた。私に頭を下げられても困って岩間くんを見ると岩間くんも困っていた。柿岡さんはその爆弾発言をした彼女を思い出しているんだろうか天井を向いたままだ。帰ってこい、柿岡さん。


「この前、柿岡くんから安積さんが失声症になっていたって聞いて。柿岡くんですら連絡断たれててつい最近会えたばかりって聞いて。声を取りもどさせたのはあなただってきいて。やっと前進しはじめたばかりだって。そこになんて酷いことを言ったんだろって。ようやく私じゃダメなんだって諦めがつきました。でも、もう謝る事もできなくて。」


あれだけ酷いことを言ったのだ。仕方ないとは思ったが、ここで私が受け取らなければ由美さんも前に進めない気がした。


「お預かりします。ただ、安積さんに渡すかは主治医と親御さんの判断も必要かと思います。もし、安積さんに渡さないって判断をされたらどうすれば良いですか?」


由美さんは私に目線を向けて


「城内さんが廃棄して下さい。」


と言うとさらに頭を下げた。

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