どうして〜城内比呂目線
これは、修羅場ってやつでは?と思い、私は席を外すべきか悩んだ。事実、さも邪魔だと言う目線を私に投げてから由美さんとやらは私達のテーブルの空いてる席へ座ったからだ。
だけど、さっきの別れても平気云々という棘のあるセリフ。安積さんは患者さんだ。もしここで私が席を外して安積さんがケガをしてしまったら?言動が穏やかじゃない彼女に心を傷つけられてしまったら?私は今、医療従事者として現場に留まるべきだと判断して、ゆっくりとカフェオレを一口飲み退かない意思を示した。
それにはちょっとムッとした様子の由美さんとやらだったが、私を無視するように鞄からクリアファイルを出して安積さんに話しかけた。
「廣、全然返事よこさないから、私が書類持ってきたわ。塾の上層部には話通してあるから。ここで働けば良いわ。面接の日程調整しましょう。退院いつごろになりそう?」
あれ?安積さんは小学校の先生として復帰するつもりだと聞いている。その希望に沿ってリハビリメニューも組んでいる。労災だし、焦って仕事復帰しなくても大丈夫だと親御さんも言っていた。
「返事も何も、面接とか塾とか何の話だ?俺は教師辞めないし。辞めなくて良いって言われてる。勤められないほど身体やられたわけじゃないから。仕事の世話なんかしなくて大丈夫だ。その話なら必要ない。」
安積さんははっきりと答えた。取り付く島もない感じだ。そして付け足した。
「大体、今は俺が誘って彼女とお茶を楽しんでいた。突然来て、逆ナンとか了解も求めず話をしてきて由美さんは失礼だと思う。」
いや、嬉しいですしカッコ良いですけど、火に油だと思います。実際由美さんが怒りで赤くなって見えます。
「だってそんな身体で体育教師なんて務まらないじゃない。あなたの夢はバスケの指導を行き届かせる事だったでしょ。でも右手がなきゃバスケなんかできないじゃない。方向転換は必要よ。」
「小学校で教えられるようになるためにリハビリしてる。校長にもそう打診されている。バスケもプレーはできないけど、口で指導はできる。全く何もできないわけじゃない。」
かなりずけずけと言う由美さんに対して安積さんはあくまでも冷静だ。でも多分針は沢山刺さっている。どこでこの場を収集すべきかと思いあぐねているうちに
「そんな化け物みたいな小学校教師なんて怖くていらないわよ。ここなら姿を外に晒さなくてよいのよ。オンラインで体育学科を受ける人の相談にものれる事務の仕事なんだから。授業をしたかったら映像なんかいくらでも加工できるからオンライン授業担当になれば良いのよ。なんで分からないの?私、あなたのために」
これ以上何が続くか分からない彼女のセリフを断ち切るべく
「化け物ってなんですか?色んな人がいます。怖くていらないとか、偏見です。」
口を挟んだ。多分私の怒ったドスの効いた声は安積さんも初めで聞いただろう。びっくりしていらっしゃる。低い声もでるのよ。私。由美さんは突然の横槍にちょっと怯んだようだ。
「安積さん、病室戻りましょう。」
安積さんはこくりと頷いた。
「お引き取り願います。私達もここ失礼しますので。三鷹さん、片付け申し訳ないです。よろしくお願いします。」
喫茶スタッフの三鷹さんに声をかけると、分かったというふうにうなづいてくれた。頭に血が登ってる私は立ち上がった安積さんの左側に立つと安積さんの左手をとり私の肩に勝手にのせた。安積さんはそのままそっと私の肩を掴んでくれて、私達はそのまま一緒に病室へ向かった。
三人三様の「どうして」をサブタイトルに。