安積さんとお茶を〜城内比呂目線
仕事を終えてタイムカードをきってから安積さんと病院内の喫茶店で待ち合わせた。
こんな事ならお洒落してくるんだったと思いながら化粧を直してまとめてた髪をおろして少し気分を切り替えて向かうと安積さんが席をとって待っていてくれた。目が合うとふわりと優しく微笑んでくれて、ちょっとドキッとしてしまうが、待ち合わせた内容が内容だ。
喫茶店と言ってもセルフ式だ。もう安積さんは何かを手にしていたので、私はカフェオレを買って向かいの席に腰をおろした。
「これなんだけど。」
安積さんがスマホをだしてきて画面を見せてくれた。高校生の私が文化祭で店番をしている合間の昼ごはんシーンだ。
「いや、ちょっと待って、ご飯食べてるとことか。恥ずかしいんだけど。これだけ?」
食い気味に問うと
「まだ、あと20枚くらい、アルバムにして送られてきた。」
ボソボソとした悪いことをしましたみたいな口調の割には、安積さんはあと20枚をみせずにさっとスマホを引っ込めてしまった。
「全部みる。みせて。このままだと安積さんは柿岡さんの共犯者とみなします。」
怒りは柿岡さん行きなのだが、ちょっと睨みながら言うと
「分かった。送る。SNS追加して。」
と大人しく従ってくれた。トーク画面に送られてきた写真をぶつぶつ怒りながらチェックした。まあ、2年間柿岡さんとはクラスが一緒だったから行事毎に写真を撮ったものを私中心に集めればこんな感じに仕上がってしまうのかと納得してしまうような内容ではあった。
「いや、でも、私をアップにしてまとめるとか悪趣味でしょ。柿岡さんめっ。安積さん、城内は怒っていたって抗議しといてね。あと拡散しないでよ。できれば消去で。安積さんも。」
「拡散なんてしない。しない。俺が頭打って一時、高校生みたいな感じになったりしたって聞いたらしくて、柿岡気にしてるだけだから」
安積さんが頭の傷をそっと左手でなぞりながらそう答えた。それはずるい。思わず黙ると、
「でも楽しかった。昨日、見舞いにきてくれたんだ。城内さんにも会いたがってた。同窓会に城内さんが来ないから、勤務姿を本当に盗撮して帰るとか物騒な事を言っていたから嗜めといたけど。城内さんお休みで良かったよ。」
話すようになって、今は外してるけど、仮義手を使うようになって大分穏やかに安積さんは微笑むようになった。その表情を見ることが出来て嬉しかった。多分私も思わず微笑んでいた。その穏やかな空気をキツい女の人の声が突然割いた。
「廣、こんな所で、逆ナンされてるわけ?そんなになってもモテるなんて。だから私と別れても平気なんだ。」
安積さんの後ろから茶色くした髪を巻いて、化粧を上手にした女性が現れて声をかけてきた。言ってる内容にも随分棘がある。
「由美さん」
振り返った安積さんはそう言って彼女を凝視した。
解説を活動報告に入れてます。