気持ちの整理を〜城内比呂目線
お断りをするというのは大変勇気がいるものだ。
『お返事をしたいので会えますか?』
とかSNSを送ったら私だったとしたら幾分かの期待を持ってしまう。
『ごめんお断りします。岩間くんとは住めない。』
こんなメッセージ直球すぎる。なんて連絡をしたら良いか分からず休み時間にもスマホを出したりしまったり。画面を開いたり閉じたり。そうこうするうちに安積さんのリハビリの時間が近づく。今はもう、自分からリハビリ室に現れるようになったので気持ちを切り替えておかないといけない。でも、気付いたばかりの感情をどう処理したらよいか分からなかった。
普通に話せるようになった安積さんとのリハビリは随分スムーズになった。本義手の目処がついたら退院となるだろう。それは喜ばしいことで、会えなくなっていくなんて思ってしまったらまるで、弟さんの思うとおりの私情を仕事に持ち込む人間だ。
いつから私は安積さんを好きだったんだろう。高校の時は違う。話しかけられるのも困った。むしろ、面倒事の塊に見えていた。助けてもらったのには感謝してた。ボタンをもらったから?それは嬉しかったけど回りの騒ぎからやっぱり私なんかが相手ではおかしいし釣り合わないんだって思った。それからは再会するまで高校時代の思い出の中の人ぐらいの存在であった。
仕事だからよく観察する。最初は話せなかったから表情を気にした。右側頭部からおでこにかけて傷ができてしまったけど、相変わらず綺麗な顔をしていて、ただ時々髭があるのにはびっくりした。そりゃ剃らなきゃ生えるわけで、男の人だったんだなと実感したり。困ると眉間に皺がよって下向いてしまったり笑うとほぐれる口元とか。大きな綺麗な左手を見て失った右手の尊さを思った。声を出して笑った時は見惚れてしまったし。
真面目な姿勢にも感服した。そりゃ文武両道のあの大学の体育学科に入れるわけだ。こんな先生に中学生で会ったらトラウマになるほど憧れるわとか。でもシャイな所もあってそれがギャップ萌えを呼ぶというか。
そこまで思考して落ち込んだ。仕事でイケメンを観察しすぎて恋に落ちるとか駄目すぎでしょ、私。
「私は冷静な優秀なプロの作業療法士」と呪文を呟きながら冷静に安積さんのリハビリを終えると、なんと安積さんがちょっと困った顔をしながらこんな誘いをかけてきた。
「柿岡って覚えてる?同じクラスだっただろ?柿岡が城内さんの《《盗撮》》写真集くれたんだけど、見る?」