師長の励まし〜城内比呂目線
怒りはやがて涙に変わった。たったあれだけのセリフに自分の高校時代を荒らされた気がして。天職だと思って突き進んできた作業療法士になるための努力も汚されたような気がして。「大したことじゃない」って自分に言い聞かせても悔しくて切なくて。
当然次の日は、目が腫れぼったいままで、お化粧しても隠れないしコンタクトもはまらなくてメガネで出勤だ。沢口師長には、失恋を疑われ、しぶしぶ安積さんの弟さんから担当を変わってくれといわれての悔し泣きだと告げた。
「あら、そう。安積さん本人の気持ちが1番なのに。今日はとりあえず気持ち切り替えて頑張って。仮義手初日よね。」
義肢装具士さんのスケジュールを横目で見ながら師長は続けた。
「声ねー。焦る家族かー。本人の気持ち次第って診断出たのに。最近ほら、安積さん、いろいろ出来るようになって表情豊かになってきたじゃない?恩田さんに懐いちゃって手振りとか筆談とかタブレット会話とかする様になったし。コミュニケーションを取りたい欲求が出てきてるからもう少しって認識だったのよね。大丈夫、あんたの頑張りは沢口には分かってるから。」
「師長〜。」
「泣かない。泣かない。ブスくなるから。まぶたひどいわよ。地雷メイクはね、目力上げないとただのものもらいなんだから。アイラインでもひいたら?あ、涙で流れるかー。もう仕方ない子ね。」
相変わらず謎の女子力をオジさん師長は発揮しながら慰めてくれた。そう、今日は安積1号(仮義手)を義肢装具士さんと一緒に試す日だった。