安積さんの弟〜城内比呂目線
次の日、仕事を終え、病院の駐車場へ向かう途中で安積さんの弟さんとすれ違った。お見舞いかなと会釈して通りすぎようとすると声をかけられた。
「城内比呂さんって兄貴の同級生ですよね。
しかも高1の時同じクラス。入学式の写真見ちゃいましたよ。」
何事かと顔をあげると(兄弟揃って背が高い)
「話があるんだけど、」
話なら昨日の面会の時とか仕事時間にしてくれ、時間外労働だと心の中でつぶやくも足をとめてしまう私はお人好しだと思う。そして相変わらず目つき悪めの弟さんは、
「兄貴の担当やめてくれないかな?俺は城内さんじゃなく、もっと経験豊富な人が良い。」
凄く凄く失礼な大学生だった。
「患者さん本人のご希望なら従います。ですが、仮義手の方の調整もありますし、療法の方も大分進んでます。私の方から担当替えをお願いするつもりはありません。」
安積さんからは嫌がられていないと思う。それを盾にできるだけ柔らかく仕事として答えた。
大体こんな所でする話ではない。穏便に会釈して話を終わりにしようと歩きだすと、舌打ちをしながらついてきた。
「ほら。やっぱり。城内さん高校の時兄貴のファンのうちの1人だっただろう?兄貴モテたからな。で、フラれたくちで、今あんなんになってザマアミロとか。もしくは私が治してみせる?話されたらヤバい事でもあってわざと声の方治療させてないとか?やめてくれよな。私情を治療に挟むの。回復を待ってる家族からしたらいい迷惑なんだよ。」
思っても無いことを言われあまりのことに絶句して反撃に遅れると、
「じゃ、早いとこ担当おりてくれよ」
そう捨て台詞を残してさっさと病院に入って行ってしまった。
しまったー病院内まで追いかけて「違う」なんて言うわけにもいかない。あまりの一方的な弟さんの解釈を誤解だと言って正せる?ただ唇を噛み締めて帰る事しか出来なかった。