五年ぶりの再会〜城内比呂目線
「城内さん、新患さんどうだった?いけそう?」
業務日誌を仕上げ、定時で帰る支度をしていると沢口師長から声をかけられた。
いや、もう、叫び出したくなりながら、今日を終えたので、気にかけてもらって素直に嬉しい。
「城内、テンションMAXでいきました。安積さんの方から合わない等要望ありましたら、従います。」
思わず、敬礼をつけて報告をする。沢口師長は何かいいかけて口を開けるも閉じる。私のテンションMAXを想像しているものと見た。また、思い出し羞恥に襲われる。
五年ぶりの安積さんは手術のため髪の毛が剃られてて、側頭部からおでこにかけて縫合の跡が生々しかった。けどバスケ部氷のイケメン部長の異名通りの風貌のままで。表情が抜け落ちていて話さない分、氷の部分がかなり増しているようだった。
気まずく凄く寒い空気が漂っていた。私は作業療法士、コミュ力は磨いたと呪文を唱え、鼓舞し、自分のテンションを上げて話すしかない。切断面を褒めたり身体つきや肌を褒めたり、なんか痴女の領域に足を踏み入れた気分だ。
「お先に失礼します。」
脱兎の如く帰る。こんな日は帰る。
「帰ってペットのニャンコに癒されるんだー。お母さんー比呂は恥ずかしかったよぉ〜。」帰途、車を運転しながら心の中は何故か母への懺悔だ。実際は患者さんのプライバシーに関わる事は話せないので、どうして私が恥ずかしかったのか母には上手く伝えられないのだろうけど。大丈夫だ。思い直す。「猫のタマなら分かってくれるし黙っていてくれる。」ペットは偉大だ。