五年ぶりの再会〜安積廣智目線
サッカーゴールが飛んできた時死ぬかもしれないと思った。そして目が覚めたら、右手が無かった。無いのに毎晩右手が痛い。バスケで3点シュートを決めた時、手がついでにもぎれる夢を見て起きると本当に手が無いとか何パターンかの手がもぎれる夢がある。返された制服のボタンが重くて、手が落ちてしまうというのもあった。
頭を打ったせいか、高校時代ばかりが蘇ってきて気がつくと涙が流れることがよくあった。実際、初めは由美さんを見ても誰だか分からなかった。4年も付き合ったカノジョだって言われても信じられなかった。
ジタバタとした日々を過ごす中で、徐々に実年齢の自分を受け入れても、由美さんを好きだとはどうしても思えなかった。まるで、右手とともに気持ちを失くしたみたいだった。とうとう自分から、
「どうなるか分からないから、別れて欲しい。」
と切り出した。最初は抵抗された。
「大怪我をしたから別れるなんて私がそんな非情な人だと思うの?」
って。そうは思わない。でも彼女は俺の無い右手をいつも見ないようにしていた。それが、今の状態を彼女が受け入れられてない証拠の様に俺には思えた。気持ちが戻ったとしても俺の右手は元には戻らない。彼女と描いたかもしれない未来も戻らない。
結局、何度目かのやりとりの後、
「廣は私より高校時代の思い出の方が大事なんだよ。」
と言ってそれから顔を出さなくなり、連絡もよこさなくなった。
由美さんを先行き不明な未来に巻き込まないための別れの選択だった。けれど、彼女が別れ際に残した言葉に過去と現在の区別が曖昧な俺の話や態度がいかに彼女を傷つけてしまったことか思い知らされた。これ以上、変な事を言ってしまって他の人も傷つけるのではないかと口を噤んでいるうちに本当に話せなくなった。耳鼻科だ、精神科だ脳外科だと回されるのを拒否していたら、転院の運びとなったみたいだった。
転院2日目の昼食後、この病院に移った理由になる作業療法を受ける時間になって担当の作業療法士が病室に迎えにきた。
「安積さん、作業療法士の城内です。今から作業療法室へ案内しますね。歩いていけますか?車椅子にしますか?」
現れたのは城内比呂だった。事故後すっかりよく思い出すようになったあの彼女が居た。とうとう幻まで見るようになっていよいよ狂ったかと思った。名札は城内だし声も記憶にあるままだった。