医療大学附属病院〜城内比呂目線
城内比呂目線になります。職業的に怪我の描写があります。当方、差別意識はなく女言葉の男性師長が出てきます。苦手な方は気をつけて下さい。
「城内さん、午後1人新患さん入ります。」
今は朝のカンファレンスだ。私、城内比呂は国家試験を無事突破し作業療法士になりそのまま母校の県立医療大学の付属病院に就職した。
私は主に事故や病気で機能を失った人のリハビリ、社会復帰を手伝う仕事をしている。新規の人は事故後の急性期を扱う救急病院からこのリハビリ専門科のある病院に昨日から転院になったようで、事故やその後の手術、経過などが記されたカルテを確認する事から始まる。
「安積廣智…あ、同い年だ。1ヶ月前に突風でひっくり返ったサッカーゴールに巻き込まれ右前腕が挟まれ再建不可能により肘関節から切断。出血多量、頭部強打により意識不明期間が、…性格の急変、記憶の混濁から高次脳機能障害の疑い…」
嫌な予感がした。名前に覚えがあった。
「ちょっと待って。師長。この人知り合いかもしれないです。」
「あら、どれくらいの知り合い?元カレとか元カレとか元カレとか」
看護師長というと女の人が浮かびがちだが、ここは自分がオネエ口調よりである事に気づいていない40代の濃い顔の男の沢口さんが務めている。
「それ、選択肢なさすぎで、セクハラ的です。高校の同級生に同姓同名の人がおりました。担当、私で大丈夫ですかね?」
「最近の子は、セクハラの線引きが厳しいわよぉ。私があんたくらいの頃は少し触られてもセクハラなんて言わなかったし」
口尖らせて抗議されても。
「師長でも触られたりしたんですね」
「男女差別〜。ジェンダー的に問題あり〜。はい、城内さんからもセクハラ頂きました。」
このオジサンは。
「2人とも、いまカンファレンスです。」
こんな時、間に入ってくれるのは師長より経験豊富な年上のパート看護師の鈴木さんだったりする。
「安積さん、実のところは、心因性失声症か高次脳機能障害か判別がつかないらしいのよ。同級生ならちょうど良いじゃない。少しは解れるかも。かえってダメな時は早めに言ってね。」
師長はカルテに書いてない情報を投下してきた。患者の家族がこぼした話なども師長はきっちり拾って共有してくれる。いかんせんオネエ的話し方と見た目がムズムズしてつい塩対応気味になるのが師長には謎にツボらしく好き好んで絡んでくる。
午前中には他の患者さんがいる。新規の人に思考の時間をさくのは昼ごはんの時と決めて仕事に頭を切り替えた。