【07】
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イヴはミニ閣下を抱っこしながら
スクワットなどをしておりました
ミニ閣下に関してはイヴが全権を握っている……というか
周囲にいる男性たちは
子どもの世話などしたことがないので
イヴに倣うのが最良――
というわけで、皆、ミニ閣下を抱き上げゆっくりスクワット
燕尾服姿の閣下(閣下の平服なんですが)
そっくりな息子を抱っこしてスクワット
ただスクワットしているだけなのに
妖しい儀式にしか見えない
聖職者たち――DTが抱っこしながら
イヴと同じようにスクワット
若い異端審問官たちも一緒にスクワット
そして聖歌隊が祈りの聖歌を合唱――完全に儀式
なんの儀式かは不明
そうしているうちに
ミニ閣下はスクワットというものを認識し
ミニ閣下「(楽しそう!パウルもする!)」
自らのスクワットをしようと…………したのですが
オムツ着用で立つのもやっとの時期なので
ミニ閣下「ちぇやああああ! あああああーーー!」(立とうとして、転がる)
根性があるというか
諦めない性質なので
何度もトライし――
ミニ閣下「うわああああん!!」
自分の体が思うように動かないことに腹を立て
泣き出す――
その後
ミニ閣下「ちぇややややゃ! ちぇいい!」
閣下「なるほど。ということは――」
ミニ閣下「ちぇやややややああああ!!!!」
閣下「希望は分かった」
超高性能自動翻訳機能を所有している閣下(多分異世界だろうが、異星人だろうが、十分も話せば理解しそう)が、ミニ閣下の希望を聞き取り
ミニ閣下「ちぇやや! ちぇやあ!(これです! これ!)」
補助付(99.9%を補ってる)でスクワットができるように
もちろん補助なしでスクワットが出来るその日まで
ミニ閣下「ちぇいややややややや!!」
ミニ閣下は諦めない
……で、諦めなかった結果
ミニ閣下「(今、出来るような気がする!!)」
大統領府の廊下で天啓を受け、立ち上がり
両手を横に伸ばして
ミニ閣下「ちぇいーーーーーやああああーー!(出来た!)」
初めて一人でスクワット
母親譲りの脅威の体幹で魅せる
ミニ閣下「ちぇやややや!(みたか! 美中年!)」
用事があって、大統領府を訪れていた不憫に初披露
不憫「おま……」
ミニ閣下の初めてを見せつけられることに定評のある不憫
ミニ閣下「ちぇややややや!(褒めていいんだぞ!)」
不憫「(なにを言われているのかは分からねえが……!)すげーじゃねえか、パウル」
総司令官まで出世出来る人だもの、察する能力だって人並み以上
ミニ閣下「ちぇいいいいい!(褒められた!)」
不憫「ただ、顎は引け」
めっちゃ小さい顎を、軽く押す
ミニ閣下「ちぇややややややや!(さすが鬼教官美中年! 負けないぞ!)」
……この先も
イヴ「そろそろ出来そうなんですよね」――からの
ミニ閣下「ていやややややや!(みるがいい、美中年!)」
ミニ閣下の初めてを、概ね捧げられてしまう美中年不憫
不憫「クローヴィスに一番に見せてやれよ。ツェサレーヴィチはどうでもいいけどよ」
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儚い詐欺を働きつづける儚い詐欺
ミニ閣下のことは気に入っている……というか
意外と子ども好きだったことに
儚い詐欺自身驚いている
儚い詐欺がミニ閣下を片腕で抱いている姿とか
女性士官たちが「儚さが極まる」と……
男性の目から見ると「格好良い中年の総司令官が、長年の仇敵に瓜二つで不機嫌そうな赤子を抱き上げている」――微笑ましさもなければ、儚さなんて皆無
不機嫌そうな赤子ですが、実際は満面の笑み(多層世界)を浮かべているのです
男性と女性の差はさておいて――
ミニ閣下は「おじしゃん」のことも大好き
おじしゃんこと儚い詐欺と一緒に休むことも
ベッドに入ったミニ閣下
幼稚園であったことを楽しく語る
「おじしゃん」
「なんだ?」
「おじしゃんの子どもはいないの」
誰もが触れないので――鋭く切り込むミニ閣下
「いきなりどうした?」
「おじしゃんの子どもとぱうゆ、なかよしになるよ。おともだちになりたいの」
とっても嬉しそうに話してくれるミニ閣下
おじしゃんこと、儚い詐欺のことが大好きなので
儚い詐欺の子どもがいたら
きっと親友になれると――
「そうか。そうだろうな。でも、残念ながら、おじさんには、子どもいないんだ。結婚もしてないしな」
「おじしゃん”も”……もてなかったのか」
世界がバグるくらいにはもててるぞ、そいつ
そしてミニ閣下さん”も”って……
多分”も”の原因の五割以上は、君のお母さんだよ
「ははははは。そうだな」
なにが「そうだな」なんだ? 儚い詐欺
「おじしゃんの子と、ぱうゆ、なかよく……」
睡魔に逆らうことなく眠りに落ちたミニ閣下
儚い詐欺はなんとも表現しがたい表情で
ミニ閣下の額のあたりをそっと撫でながら
「……もしも会えたら、夢のなかで遊んでやってくれ」
そんなことを呟いて、自分も目を閉じる
ミニ閣下よ、君とパウルとオスカーは同じ世界線にはいないのだ
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長ネギの貴公子パウル
読んで字のごとく……と言われても
理解しがたい二つ名(?)ですが
お湯からイヴを守って以来、長ネギは相棒として携帯するように
ロスカネフにいる阿片は
閣下そっくりで、そっくりじゃないミニ閣下が面白くて
よくからかう訳です
そのからかいには、たっぷりの愛情が含まれている……かどうかは分かりませんが
悪意とかそういうのはないので
ミニ閣下は素直に受け取るわけです
阿片「元気か、パウル」
ミニ閣下「ちぇいよー」(頬を指で押されているため、喋りづらい)
ミニ閣下、喋りづらくても気にならない
むしろ「楽しい!」
そしてミニ閣下は「楽しいことはお返しする」というサービス精神の持ち主
よって
ミニ閣下(パウルもアウグストのほっぺ、ぐりぐりする!)
純粋な気持ちだけで頬を押すことを決意
だがミニ閣下はミニ故――阿片は身長高くはないのですが
低いわけでもない
そしてミニ閣下は神がパラメーターの最大値を
余裕で人間振り切る設定にしたイヴの息子にして
神の寵愛受けし男の息子
ミニ閣下「ちぇい、やーーーーー!」
頬を突こう!としたとき、ミニ閣下の周囲から重力が消えた
もしくは天使たちが背中を掴んで持ち上げてくれたのか?というような上手にジャンプできてしまい
阿片「ずぼって音が頭に響いたぞ」
椅子に座っていた阿片の鼻穴に見事に突き刺さる
ミニ閣下「ちぇいややや!(楽しい?アウグスト)」
懐刀「アウグストさま!」
側にいた懐刀が、その地獄にも似た絵面に奇声を
阿片「きにすんな、さーしゃ」
次期皇帝ともあろうものが
鼻穴から長ネギぶら下げて言って良い台詞じゃない
まあ……ここでは次期皇帝なんて
ミニ閣下「ちぇいややや!(似合ってるぞ!)」
珍しくはないのですが
長ネギはあまりにもジャストフィットしたため
博士が呼ばれてきました
ちなみに藪博士
博士「入ったなら抜ける」
で、ずぼっと抜いた。そりゃもう容赦なく
阿片「鼻穴、切り裂かれるかとおもって、ドキドキしたな。なかなか味わえないスリルをありがとうな、パウル」
ミニ閣下、褒められたとばかりに胸を張る
ミニ閣下「ちぇいややややや!(もっと褒めていいんだぞ!)」
懐刀「パウル……」
阿片の鼻に突き刺さった長ネギは、懐刀がそっとミニ閣下から遠ざけ、土に還しました
できる男です、懐刀
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儚い詐欺が二代目大統領に就任――
就任式終了後
緩めのパーティー(招待客は厳選――即ち、ほぼ男だけ)が始まり
花束贈呈が行われることに
儚い詐欺「……パウルか?」
そこに現れたのは私服姿の閣下と
ミニ閣下「おじしゃん! ぱうゆですよ!」
ミニ閣下――ただし見えているのは、足だけ
体のほとんどが、大きな花束により隠され
不憫「花束に短い脚が生えているようにしか見えん」
明らかにイヴが両手で持つサイズの花束を抱えているため
不憫の言う通り、足しか見えない
もちろん幼児には抱え上げることの出来ない重さですが
花束に針金の芯を通して、上部に輪を作り
斜め後を歩いている閣下がつまんで支えている――もちろんミニ閣下には秘密です
ミニ閣下は「ひとりでできゆから!」と熱いプレゼンで勝ち取った花束贈呈
ゆえに
ミニ閣下「一人でやり切るのです!(キリッ)」
閣下は「ある程度の重みは必要だろうな」と
繊細なタッチで花束を支えて、よろよろミニ閣下の側を付いていきます
ミニ閣下「おじしゃん! どこにいるの!」
花束で視界ゼロ――
そもそもミニ閣下用の小さな花束を用意したら良かったのでは?
と言われそうですが
イヴが贈呈予定だったため
予備の花束も、全部イヴサイズ
ミニ閣下の熱いプレゼン(ぱうゆ、おじしゃん、だいしゅき!!)の結果――ギリギリで変更に
それ自体、儚い詐欺は、怒りはしません
儚い詐欺「こっちだ、パウル!」
近づいていってもいいのですが
やはり、そこはやり切らせてやるのが大人というもの
儚い詐欺、手を叩いて、声を掛けてやる
ミニ閣下「まっててね! いますぐいくからね、おじしゃん!」
蛇行を繰り返しつつ
ミニ閣下の腕の力も尽きかけ――でも諦めないのがミニ閣下
ミニ閣下「おじしゃん! おじしゃん!」
儚い詐欺「こっちだ、パウル! いいぞ、そのまま、まっすぐだ!」
(注・ここはパーティー会場です)
近づいてくると、儚い詐欺は片膝を折って待ち構え
手が届く範囲にやってきたところで
花束ごとミニ閣下を抱き上げる――閣下は上手に針金から手を離す
ミニ閣下「おじしゃん! だいちょうりょう、ちゅうにん、おめでとう!」
儚い詐欺「ありがとうな」
やりきったミニ閣下の笑顔
そして
ミニ閣下「おじしゃん! このはな、ながねぎなんだよ! ながねぎのはななんだよ!」
自慢げに教えてくれる
長ネギ公は長ネギを忘れない――完成していた花束を見て
急いで切ってもってきてねじ込んだ
ミニ閣下、長ネギへの(謎の)篤い信頼
儚い詐欺「そうなのか」
ミニ閣下「おじしゃんに、みせてあげようとおもって!」
もちろん儚い詐欺は、長ネギの花(葱坊主)は知っております
なにせ短い期間ながらも、専門家の元で育った人だから
儚い詐欺「わざわざありがとうな」
そう言って、ミニ閣下の頭を撫でる
謎の拍手が会場を席巻し――何ごともなかったかのように
パーティーは進みました