【06】
ちぇやキヨ・ミニ閣下のその後――
無事救出された後
ミニ閣下「ちぇやややーちゃるーちゃるー(大丈夫か、シャルル)」
ミニ閣下は優しい子なので
シャルルのことを心配し――原因はミニ閣下なのですが
執事「もう大丈夫ですよ」
この顔を可愛いと思うのは!と、内心抵抗する執事
始終心配し続けて
執事「ほら、もう寝る時間ですよ。今日はジークと一緒に寝る日ですよ。早く準備なさい」
執事の足にしがみつき、行動妨害を続けていたミニ閣下
ミニ閣下「…………ううーーーーーー」
執事「なに、この世の全てを呪うような顔をして」
ミニ閣下「ちぇいやややや!」
執事「…………」
閣下「シャルルよ。パウルはお前が心配だから、一緒に寝ると言っている」
執事「はいい?…………ああ、そういうことか。わたしの心配は要りませんよ」
ミニ閣下、大好きな懐刀とのお休みタイムを捨て
痛いと叫んでいた執事の側についていると――
ミニ閣下「う゛う゛う…………ちぇややややややや!」
穢れなく、それでいて芯の強い瞳――
ミニ閣下「にしゃーにしゃー、ちぇや……」
執事「ジークのところに行っていいんですよ!」
ミニ閣下「ちぇちぇいいい!!!」
執事「何言ってるのか、まったく理解できないけど、心配されてることだけは分かる!」
懐刀「明日、一緒に過ごそうねパウル。もちろん一緒に眠ろうね」
ミニ閣下「ちぇや! ちぇえぇぇぇ!!! にしゃー! にしゃぁぁぁぁー!」
執事「(そこまで後ろ髪引かれるなら、我慢しなくていいんだけど。なにより、昼間の惨事が夜にも再び……の可能性が)」
色々考えたものの、ミニ閣下と一緒にベッドへ――寝かしつけたあと、超低めベッド脇でワインを嗜みながら書き物をして過ごしパウルの隣で横になる
眠ってしばらくし――ごそごそと起き上がるミニ閣下
執事、うっすらと気付く
ミニ閣下「ちゃるーちゃるー」
ミニ閣下、夜中に起きて執事が痛がっていた場所を
小さな手でさする
とても優しいミニ閣下……だが
人間の表裏といいますか
さしもの天才でも年齢と経験が不足しており
前面と背面の違いが今ひとつ
即ち――
執事「(そこは、さすっちゃだめなところ! パウル!!)」
執事のド・パレが武装蜂起(意訳)
……しかけたものの
眠くなったミニ閣下の手がとまり
そのまま執事に寄っかかって眠りに落ちる
武装蜂起が栄誉ある失敗に終わり
ミニ閣下「ちゃる…………る……」
ミニ閣下の背中を撫でながら幸せに浸ってしまう執事
*************
上流階級社会では
フォン・アントンと言えば閣下のこと
というような暗黙の了解があります
高貴な人とか有名人なんかは
そんな感じ
眼帯はフォン・ヴィルヘルム
阿片もフォン・アウグストで通じてしまう
間違いなくイヴはやっていけないが……そこは閣下の手厚いフォローがあるので
とくに問題なく――イヴが名前を間違ったら、その相手は、その日からイヴが呼んだ間違った名前が正しい名前になるくらいの、手厚いフォローがある
ただの専制君主や…………
閣下に関してはオブ・プリンスだけで「ああ、クリフォード殿下ね」
と分からなければ上流階級ではやっていけない
プリンスって顔かよ閣下……と言われると困るのだが
残念ながら、世界屈指のプリンスだ
そんな世界屈指のプリンスの息子パウル
父親が聖魔王……ではなく、有名人なので
ミニ閣下「ちゃいやあああ! ぱうーーー」
社交界に一切デビューしていない
はいはいの達人であろうとも
フォン・パウルと言えばミニ閣下のことを指す
名前の前に前置詞を置く、高貴な強者のみに許される表現を知ったミニ閣下
類い稀な頭脳で
ミニ閣下「ふぉおおおおーあややー(フォン・アントンって言うのですね!)」
理解したものの、舌足らずのため
ほとんど通じない
閣下「その通りだ」(唯一通じる父親)
ミニ閣下は通じないことを
全く気にしないので
みんなにそんな感じで話し掛け
めっちゃ良い笑顔(幻想)で、シャルルの名を呼びながら近づいてくるミニ閣下
博士「…………ぐっ……」
ミニ閣下「おちゃるー、おちゃるー」
執事「あれ、ド・シャルルって言ってるつもりなんでしょうね」
ノーセロートの廃太子シャルルこと「お・ちゃる」
博士「そうかと……ぶふっ……」
執事「口、縫い付けろ、ハインツ」
執事「裂けるかと」
ミニ閣下「おちゃる!! おちゃるーーー!!」
本人の中では素晴らしい発音で「ド・シャルル」と呼んでいるつもり
近づいて足にしがみつき抱っこをせがむミニ閣下
執事「あんたじゃなかったら、ただじゃおきませんよ。まあ、あんたは可愛いから許しますけど」
抱き上げ――
ミニ閣下「おちゃる!」
執事「はいはい、おちゃるですよ」
ミニ閣下「おちゃるるるるるーーーーにゅ!」
執事「いや、わたし、ド・シャルルマーニュじゃないから」
可愛いって認めちゃうんだ、その顔
博士「殿下。妃殿下考案の視力検査をなされたほうが……いや、脳?」
博士、いたって普通の感性――藪だけど
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五月五日はこどもの日
すなわち――
ミニ閣下「ちぇやややや!!(パウルの日ということですね!)」
――違います
ミニ閣下「ちぇやややや!!(パウルの日ということですね!)」
いつもながら穢れない瞳で、ねだってくるミニ閣下
……というわけで、ミニ閣下の日に(パウルの日じゃないじゃないですかー!)
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ミニ閣下「ちぇいやややややや! ちぇいやー!(パウルはワンオペで大変なのです!!)」
ミニ閣下のなにがワンオペなのかというと
阿片「パウル! いつ見ても、父親そっくりだな!」抱っこしてくる
眼帯「アウグスト、貸せ」ひったくって抱っこする
執事「もう少し優しくしなさい」取り上げて抱っこする
教皇「カルロス、わたしも抱っこしたいのですが」
執事「はいどうぞ、パパ」やはり抱っこされる
このほか、政界を引退したブリタニアスの元首相とか
自分が大統領していた国をひっくり返したアーリンゲの兄とか
遠巻きに眺めて――運が良ければ抱っこさせてもらえる
あとは眼帯と阿片の息子たち・カールズもいるのだが――十代でも、零歳から見たらおっさんなんなので仕方ない
もっと仕方ないのは、カールズたちは全員中身が父親似…………将来ミニ閣下を巻き込んでして、なにかするのは確実!と警戒されている始末
ミニ閣下、一人で三百人の高貴なおっさんども(子育て知識・経験皆無)を相手するという、過酷なミッションを課されて生まれてきた、高貴な子ども
ミニ閣下「ちぇやややややや!(パウルが十人は必要です!!)」
閣下の長男ゆえ、仕方ない
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エクスカリバーは石に突き刺さっていて
勇者しか抜けない……的なもの
ミニ閣下「ねぎゅかいばー!」(ネギ抜けた)
ミニ閣下、ネギ畑から自らの聖剣(長ネギ)を引っこ抜く
わりと毎朝――
(ちぇやややー時代は終わってからになりますが)
土付長ネギを振り回しますが
継母が作ってくれた麦わら帽子のつばが
ミニ閣下に降り注ぐ土を防ぐ!!
ちなみにネギ畑は、引退したヘラクレスがやっております
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長ネギを剣として日々、模擬戦を行うミニ閣下
ミニ閣下「ちぇちゃやや! ちぇややや!」
おむつをはいた大きなお尻で座り
長ネギを上下に勢いよく動かす素振り(ただし長ネギ)
決闘ごっこもかなり好き
テープカットの時のように持ち上げもらい
動力源を得て――
ミニ閣下「ちぇややや! ていやあやちゃーーー! ちぇや!!」
勇ましく戦う
本日ミニ閣下を抱き上げているのは
眼帯「勝つぞ、パウル」
ミニ閣下「ちぇや!(うん!)」
ミニ閣下を小脇に抱えて大統領室(閣下)に押し入ってきた大統領(眼帯)――
眼帯はイヴから預かったミニ閣下のミトン手袋(ガーゼ製)を
ミニ閣下に渡して
眼帯「足下に投げつけるのがマナーだ」
教えてくれ……るが
ミニ閣下「ちぇややややや!(分かった!)」
ミニ閣下、どうみても眼帯の足下に投げつけてる
だが今回眼帯は、ミニ閣下を動かす人
決闘を受けるのは
閣下「良かろう」
父親である閣下
椅子から立ち上がり
眼帯とミニ閣下の後をついてきた召使いが持ってきた
武器ケース――クリスタルガラス製で分厚くて重いに近づき
収められている長ネギを一本手に取る
ミニ閣下も武器ケースから選び
武器ケース持ちがミトンを拾い
両者根元を持ち、試合開始
ミニ閣下「ちぇいやあああああ!」
大きな声を上げ、長ネギを上下させるミニ閣下
そのミニ閣下を縦横無尽に動かす眼帯
宙に浮いている足もばたつき、持っている眼帯のそこかしこ――太ももに肩、腕などを蹴るが
眼帯がそんなことを気にするはずもなく
ミニ閣下「ちぇやややややや!(パウルは負けないのです!)」
閣下「良い動きだ、パウル」
短い腕で激しい上下運動
ちなみにこの決闘ごっこは
長ネギが体のどこかにあたったら負け
顔は禁止――イヴに「目に入ったら大変なので、気を付けて」と言われているので
厳守されております
閣下「(ヴィルヘルムめ、相変わらず、わたしの動きを的確に読むな)」
フロックコート姿の紳士二名、長ネギで真剣勝負――
二人とも、やたらと華麗なステップ
護衛(めっちゃ強ぇぇぇ)
クサーヴァー(いつまで強いんだよ……この人たち)
そしてやってきた、ノーセロートの特命大使
大国の大使のくせに、面会の約束の時間前にきちゃうという
小物っぽさを披露
ミニ閣下以外は気付いていますが
そんなの知ったことではない
ミニ閣下「ちぇいやああああ!(いまだ!ウィしゃん!)」
ミニ閣下と眼帯の動きが見事に合致……しただけではなく
いままで上下にしか長ネギを動かしていなかったミニ閣下
会心の突きを!
閣下なのでかわしてしまいましたが
閣下には珍しく
あからさまに避けている姿勢――閣下はいかにも避けるという動きはしない
そのくらい実力があるので
閣下「ほう……」
その的確さに、感心の声を上げる
もちろんその的確・九割は眼帯ですが……この年で一割を占めているだけで
凄いのですが
そして、相討ち――自らミニ閣下のネギ先に当たり
自らのネギ先も
ミニ閣下のぷにぷにお手々に
ミニ閣下「ちぇややややや!ちぇーやややや!(今日こそは勝てると!思ったのに)」
眼帯「いい動きだったぞ、パウル」
ミニ閣下「ちぇやややや! ちぇやあ!(ウィしゃんもな!)」
「ウィしゃん」とは、ヴィルヘルムを短くした・ウィルに、おじしゃんを付け、それが更に短くなったものです