【05】
ミニ閣下は賢い子です
アルファベットもすぐに読めるように……
ミニ閣下「ちぇややや!(Bですね!)」
読めてはいます
ほとんどの人は分かりませんが
閣下「正解だ」
自動翻訳機能が標準装備な閣下は息子の言葉を
ちゃんと理解します
とある日、イヴが「背中に文字を書いて当てる」というゲームを
イヴ「お母さんの背中に一文字ずつかいて」
閣下がミニ閣下を抱き、補助しながら
イヴの背中に大きく一文字書く……という遊び
イヴ「これは、PaulのPだね」
ミニ閣下「ちぇいやややや!(正解です! 母さま!)」
閣下「次はなにを書く?」
ミニ閣下「にしゃにしゃ! にしゃにしゃ!」
イヴ「(ジークの文字のどれかか)」
秘密のお話とか、まだ出来ないお年頃なので――
こんな感じで書き手と書かれる人を変えて遊ぶ
背中に書かれるミニ閣下、書く人は閣下
ミニ閣下「ちぇややややや! ちぇえええ!(これはPaulと父さま(アントン・Anton)のAです!)」
閣下「よく分かったな。Aで間違いない」
小文字と大文字の違いが分かる男、ミニ閣下
背中に書かれる閣下、書く人はミニ閣下と補助のイヴ……だったのですが
閣下はスタンダードが重装備の――シャツにベストにフロックコートで
ミニ閣下の小さく力が弱い指では、イヴが補助をしても伝わらないので
閣下「これで良かろう」
閣下、上半身の服を脱ぎ息子に背中を貸し出す
ミニ閣下、とっても喜んで字を書いて当ててもらっていたのですが
ちょっと失敗して
閣下の背中を軽く引っ掻いてしまった
イヴ「ああ!」
ミニ閣下「ちぇいやあああ!」
閣下「気にしなくてよい」
イヴ「いえいえ、閣下。傷つけておきながらですが、他人に怪我をさせてはいけないということを教える好機ですので」
閣下「……それもそうだな」
ミニ閣下とイヴ、閣下の背中を撫でてキスをする
イヴ「痛いの飛んでいけ」
ミニ閣下「ちぇいやややや!」
妻と息子に交互にキスされて――閣下はご機嫌に
という楽しい遊びを覚えたミニ閣下は
当然「にしゃにしゃ」こと懐刀とも遊ぶわけです
懐刀は前もって聞いていたので
上半身裸になり――ミニ閣下、皮膚を容赦なく掴んで立ち上がり
ミニ閣下「ちぇいやややや!(パウルのPを書くよ!)」
全くクイズになっていないのですが、懐刀は閣下のあのチート仕様翻訳機能は所持していない……が
懐刀「大きく書いてね(多分Paulだな)」
ミニ閣下の言動を大体理解しているの分かる――
懐刀はPもAもUも当て
ミニ閣下「ていややややややや!(最後はパウルのL!!)」
テンションが上がりきったミニ閣下……だがまだ足が弱いので
Lを書こうとした瞬間
足が力尽き、くにゅ……となって
ミニ閣下「ちぇいーーーああああーー」
書こうとしていた指だけではなく、全ての指で懐刀の背中に爪痕を
懐刀「いたっ! パウル大丈夫?」
予想していなかった痛み
唐突に脇から転がり出てきたパウル――そして背中に四本線(親指は短すぎた)
懐刀「いて……」
ミニ閣下「にしゃにしゃ! にしゃにしゃ!(兄さま、ごめんなさい!)」
泣きながら足にしがみついてくるミニ閣下――そして母親としたことを思い出す
傷口にはキスだ……と
ミニ閣下、疲れた足に鞭打って背伸びして
一生懸命キス――一生懸命すぎて、皮膚を洋服のように掴むので(幼児にありがち)被害が増す。でも一生懸命なので、被害が増していることに気付かない
懐刀「大丈夫、もう良くなったよ」
ミニ閣下「にしゃ!」
儚い詐欺「なにしてるんだ、お前等」
様子を見に来た儚い詐欺
美青年の背中に吸い付いている、不機嫌な幼児を発見
ミニ閣下「てやややや! ちぇやああー!(おじしゃんも、キスをするのです!)」
傷を叩いてはキスを繰り返すミニ閣下
察しのよいキースは気付き
執事「一体アレは何ごと?」
美青年の背中に交互にキスする、幼児と中年という謎の現場に遭遇
ミニ閣下「ちゃるーちゃるー」
そしてエンドレス、背中にキス――
懐刀「(なにこの状況……)」
ミニ閣下には善意しかありません
ちなみにイヴも洋服厚いのでは?――
自宅いるイヴは背中が大きく開いたドレスを着ております
最近は好きなカワイイドレスを着るようになったのですよ
**************
燕尾服にホワイトタイの中年紳士二名の元に
ミニ閣下「ちぇいやややや!」
ハイハイミニ閣下が突撃してきた
それもほとんど全裸
ミニ閣下「ちぇいやあああああ!(見るのです! 見るのです!)」
丸出しのケツを突き出すミニ閣下
儚い詐欺「何ごとだ」
閣下「見ろと言っている」
儚い詐欺「ケツを?」
閣下「分からん」
止まらないケツの突き出し!
そして駆け寄ってくる足音
懐刀「失礼します! パウル!」
ミニ閣下「にしゃにしゃ!」
二人が居る部屋に飛び込んできた懐刀――
風呂上がりで髪が濡れている
文句なしの良い男
ミニ閣下「にしゃにしゃ! ていややや!(兄さまとお揃いなんです!)」
息子の言葉を完全翻訳できる閣下
二人を見比べて
閣下「腰に巻いているタオルのことか」
ミニ閣下「ていやややや!(お揃いなんです!)」
懐刀「妃……お母さまが作ってくださったのです」
ミニ閣下と懐刀、巻きタオルを作ってくれた――そこに至る経緯ですが
閣下は全裸で入浴するので
ミニ閣下も真似をして全裸ですが
懐刀は腰にタオルを巻いてミニ閣下と一緒に入っていました
となると
ミニ閣下「ちぇいややややー!(パウルも巻く!)」
当然そうなる――
頑なに腰にタオルを巻くと言い張るので
懐刀、ミニ閣下の腰にタオルを巻いてみるも
ぎゅっ!と絞るのが怖くて(幼児の柔らかお腹なので)
軽く合わせることしかできず
すぐ「すとん」と落ちてしまい――ミニ閣下が大泣きする
それを知ったイヴが
ここでは高価なゴムを使って
二人のお揃いの巻きタオルを作った
ミニ閣下は小さいので本当は肩から覆うヤツにしたかったのですが
お揃いじゃないと駄目なので――懐刀はミニ閣下を洗うために
肩から被っているわけにはいかないため、腰巻きスタイル
今日は初着用で
懐刀とお揃いなのに気付いたミニ閣下
テンションが上がって
父親とおじさんがいる部屋に突進してきた……のだが
膝下丈の懐刀とは違い
申し訳程度のミニ閣下の巻きタオルは
ハイハイにより全部捲れてしまい
ミニ閣下(兄さまとお揃いの水玉柄の巻きタオル!)
自慢したものの
(殺意高めな)正装中年軍人にプリケツを見せつけるだけという
割と良くある謎儀式に
儚い詐欺「これから風呂か?」
懐刀「はい」
懐刀がミニ閣下を風呂に入れるので
前もって入浴していたため
髪が濡れていた
イヴ「お待たせしました……パウル!」
二人と一緒に夜会に出席するイヴが着替えを終えてやってきた
(二人はイヴの着替えを待っていた)
ミニ閣下「ちぇいやややや!(お母さま、抱っこ!)」
イヴ「タオル、気に入ってくれた?」
ミニ閣下「ちぇいややや!(もちろんです!)」
懐刀「はい」
イヴ「良かった」
気に入りすぎて、父親とおじさんに見せにきて
二人が「?」と――
夜会に出る両親とおじさん(赤の他人)を見送った二人は
入浴して一緒にお休み――ミニ閣下が寝たのを確認してから
懐刀は起きて、側で本を読む
ミニ閣下「にしゃ……にしゃ……」
悪夢にうなされているかのような表情と声で
寝言で懐刀を呼ぶミニ閣下だが
幸せな夢を見ているのはお約束
懐刀「にしゃは、ここだよ」
ミニ閣下「にしゃ……」(引きつっている/本人としては笑っている)
***************
儚い詐欺大統領と色男副大統領
会議休憩中――
ミニ閣下「おじしゃん! ただいま! れいも、ただいま!」
イヴの実家に一人でお泊まりしていたミニ閣下が帰宅
儚い詐欺「帰ってきたか」
色男「お帰りで」
ミニ閣下の両親はただ今外遊中――イヴは外務大臣も兼任している
来て欲しいような来て欲しくないようなパートナー付
閣下「わたしは、ただのイヴの付属品だ。気にするな(本心で言ってる)」
閣下はイヴがお仕事している姿を堪能「今日も朕のイヴが美しい」――余人には下々(王侯貴族)が、朕のイヴに無礼なことをしていないか?目を光らせているようにしか見えない
そんな超圧迫外遊はさておき――
両親がいないので寂しいけれど
皆さんが構ってくれるので
それは、それで楽しい
休憩中の儚い詐欺の膝に座り
お喋りしているミニ閣下
ミニ閣下「ぱうゆも、だいちょうりょうに、なる!」
儚い詐欺「そうか、なら色々と頑張らないとな」
儚い詐欺の本心としては
頑張らなくてもパウルならなれるだろうな……ですが
なにせ「ちぇややや!」時代から、類い稀な政治センスを見せていたので
「ちぇややや!」なので凡人(閣下以外)には理解できませんでしたが
唯一理解できる閣下が
腕に抱きながら、都市計画なんぞを話し合っている姿を
儚い詐欺副大統領は見ていたので
色男「将来の楽しみが増えましたな」
ミニ閣下「たのしみに、まってりゅといいよ! れいも!」
残念ながら、その未来はありませんが
**********
イヴは子供の頃から両親にそう育てられたので
「子供とは目の高さを合わせて話しをする」ことを
心がけています
心がけ過ぎて――リリエンタール城内
イヴ「楽しい? パウル」
ミニ閣下「ちぇいややややや!(たのしいですーーーー!!)」
ハイハイミニ閣下と、匍匐前進で目線を合わせて併走する――
産後なので「少しはセーブしたほうがいいかなあ」という速度での
匍匐前進ですが
元が常軌を逸したスピードなので
セーブしても、全力ハイハイする乳幼児を置き去り――
ミニ閣下のテンションが上がり、途中で転がったりしますが
ミニ閣下「ちぇいや! ちゃいやああ!(お母さま! お母さま!)」
すぐに起き上がって、笑顔(概念)でイヴの後を追いかけていきます
城の庭の芝生にて――
ミニ閣下がハイハイしても大丈夫なように
丹念に地面を均し、危険物がないかどうか確認されている
閣下も杖の先に磁石をつけ
金属片がないかどうかを確認しながら
息子・ミニ閣下と芝生を散歩
ミニ閣下「ちぇややや! ちゃいやああ!(お父さまも、お母さまのようにパウルについてきてください!)」
イヴに「パウルとは目の高さを合わせて会話したいんです」と言われた閣下
匍匐前進併走中のミニ閣下の楽しげな姿を見ているので
閣下「良かろう」
芝生の上で匍匐前進開始
ミニ閣下「ちぇやややや! ちゃややややや! ちぇやあああ!(パウル、負けない!)」
芝生をハイハイするミニ閣下は
幼児なので許容範囲内ですが
フロックコート姿で
シルクハットを被り、杖を持ったままの閣下
匍匐前進で芝生を高速移動
でもシルクハットは微動だにしない――
特注で閣下の頭にジャストフィットしているシルクハットの上に
閣下はあんまり頭を動かさないので
執事「パウルは相変わらず喜んでいますけど……怖いわー。シルクハットが飛んでくれたら、まだ恐ろしさも半減するのに。どうして……」
日の当たる庭の手入れされた芝の上を
この世の全てに倦んでいるかのような表情の二人が
這い回るというホラー映像が
太陽の下でもホラー映像はホラー映像
太陽の下で、恐怖を与えられない映像は恐怖ではない
……親子の楽しい時間なので、そんな恐怖はいらないのですが
大統領府にて――
ミニ閣下「ちぇやややや! ちぇやああ(おじしゃんも、いっしょに!)」
儚い詐欺「匍匐前進併走してるんだってな」
脅威の察しの良さに、子供に対する優しさ
儚い詐欺「ツェサレーヴィチもやったそうだしな(小声)」
そして負けず嫌い――軍服から勲章を外し
ブーツを履きマントを羽織ったまま
城の廊下で
ミニ閣下「つえややや! ちゃややや!(おじしゃん! おじしゃん!)」
儚い詐欺「楽しいか?」
ミニ閣下「てぃやややや!(楽しいです!)」
儚い詐欺「(なに言ってるのか分からんし、表情も……だが)楽しいか! そいつは良かった!」
ハイハイミニ閣下と匍匐前進する副大統領――
こんな感じで大体の人は匍匐前進しながら
お話してくれる
ミニ閣下「ちぇややや! ちゃやややや! ちぇ…………ちゃるー?」
運動神経凡人な美中年執事に匍匐前進併走をねだったミニ閣下
全く姿が見えないので振り返ると
ぴくりとも動かない行き倒れた(ように見える)執事がそこに!
ミニ閣下「ちゃるーちゃるー(シャルル? シャルル?)」
引き返すミニ閣下――そのまま横たわっている執事の体をよじ登り
ミニ閣下「ちぇやややや!(登り切るなど容易い!)」
執事「(いた! でも、匍匐前進はできないから、障害物として遊んでくれたほ…………!!)」
肩から登り背中を突き進み、臀部を越えて――股にずぼっ!と嵌まる
勢いがついていたので、腕が嵌まり、重めの頭が前のめりに!
このままでは、床に頭を強かに打ちつける! と執事が
苦しくないように加減して股ではさみ――ミニ閣下、顔を打ちつけずに済んだ
……のだが
執事「いてっ! あだだだ……ああああ」
執事、変なところに力を入れたため、内股がつるという悲劇
ミニ閣下「ちゃるー、ちゃるるるるるー(シャルル、大丈夫か!)」
ミニ閣下、インペリアル・スケキヨスタイルで、執事の身を案じる――お前が元凶だ、ミニ閣下
執事「いた! いたたた! あ……ああ、足の指までつってきたあぁぁぁ!」
股間で幼児がインペリアルスケキヨしながら暴れてる、ロイヤル美中年――絵面が事案になってる
ミニ閣下としては、いつものことですが
ミニ閣下「ちゃる! ちぇややややや!(シャルルを助けろ!)」
その後、無事に救出されました