【04】
今だ現役儚い詐欺をはたらき続ける大統領――
秘書「そろそろ時間ですね」
儚い詐欺「そうか」
本日は執務室にミニ閣下が「お菓子持参」で訪ねてくることになっている
お菓子はもちろんイヴの手作り
儚い詐欺は立ち上がって、重い椅子を机の側面に設置して
再び席について仕事を再開
それから十分ほどしてドアがノックされ
儚い詐欺「いいぞ」
ミニ閣下「おじしゃん。きゅうけいのじかんです」
召使いと護衛とともにやってきたミニ閣下
儚い詐欺「もうそんな時間か」
机の上の書類をざっと脇に避け、白紙を乗せる
ミニ閣下、喋りはともかく、頭の良さは父親譲りで
普通に政策文書とか読めちゃうし、理解もできる
ただ閣下と違って口がちょっと軽い……いやかなり軽い
まあ、なんていうか「知ってる?」って聞かれたら「知ってる!」って答えちゃう
嘘をつけない……ところがイヴに似てるし、そんなお年頃なので
召使いがおやつが入った容れ物を儚い詐欺の机の上に
もちろん危険物ではないことは
入室前に確認されている
ミニ閣下「まって! まって!」
儚い詐欺「待ってるから、ゆっくりやれ」
ミニ閣下、儚い詐欺が用意した椅子に自力でよじ登り
イヴが作ってくれたフェルト靴を脱いで――大事なものなので、椅子の端にきっちりと乗せておく、出来る子
そしてミニ閣下は大統領机を攻略――見事机の上へ
すでに机の上に乗せられていた持参のお菓子の元へと近づき
蓋の把手をつかみ、力一杯蓋を引っ張った
ミニ閣下「おじしゃん、たべ! ああああああ!」
あまりにも勢いよく蒸籠の蓋を引っ張ったため
勢いが付きすぎて、後に飛んだ感じになったあと
後向きに数歩よたよたした後
そのままひっくり返る――机から落ちそう
儚い詐欺「パウル!」
立ち上がって手を伸ばす――儚い詐欺もかなり焦ったため
自分の太ももを強かに打つことに
もちろんそんなこと、気にするような人ではありません
しっかりとミニ閣下の前身ごろを掴んで、落下を阻止
途中、片腕を強く机に叩きつけたため
蒸籠が転がって中身も机に転がり出てしまいましたが
ミニ閣下「おじしゃん……」
儚い詐欺「痛いところはないか?」
ミニ閣下「ふくがよじれていたいです」
ミニ閣下を机に座らせてから
儚い詐欺「ならいい。年寄りに無理させるんじゃない。気を付けろ」
転がった中身を蒸籠に戻して――ソファーに移動して
ミニ閣下「おかあさまがつくってくれたのです」
儚い詐欺「(ツェサレーヴィチがギリギリしてんだろうなあ……知らんが)そうか。もらっていいのか?」
ミニ閣下「もちろんです、おじしゃん!」
ミニ閣下が食べやすいミニ中華まん
儚い詐欺「(ところでこれ、なんだ? クローヴィス発案の変わった菓子……なんだろうが……)ありがたくもらう(触った感じは中華まん……のようだが、色が……普通は白だよな。なんだこの色?)」
儚い詐欺、謎色の物体を手に取り――口へ
訳が分からないものですが、部下のイヴに対して絶対の信頼があるので
儚い詐欺「…………チョコレートか」
ミニ閣下「ちょこなんですか!」
儚い詐欺「知らなかったのか?」
ミニ閣下「うん。おかあさまが、ないしょって。ぱうゆ、ちょこしゅき!」
元気よく噛みついた結果、ミニ閣下はチョコまみれに
儚い詐欺「美味いな」
ミニ閣下「おかあさまがつくったおかしですから!」
自慢げに二個目のミニチョコまんを食べるミニ閣下
蒸籠に入っていたミニチョコまんは六個
体の大きさの違いはありますが、三個ずつ
食べた後、少し話をして
ミニ閣下「おじしゃん! こんどのおやしゅみ、あそびにきてね!」
儚い詐欺「ああ、分かった。お前のお母さんに、美味かったと伝えてくれ」
ミニ閣下「はい!」
儚い詐欺に雑に拭かれたミニ閣下が
蒸籠の蓋を手に退室――
儚い詐欺は「もう五、六個食いたかったな」と……お気に召したようです
室内にいた秘書とか護衛なんかは
その美味しい匂いに完全にやられておりました
秘書「チョコを練り込んだ生地の中にチョコかあ」
護衛「めっちゃ美味そう」
秘書「チョコがつあっちこっちについてた王子さま(ミニ閣下のこと)、見てたら舐めたくなった」
護衛「分かる。拭き取られちゃったけどなあ」
チョコ食いたさに、うっかり事案になりかけてるぞ
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ミニ閣下と儚い詐欺が秘密のお茶会中――
ミニ閣下「おじしゃんのひみつをおしえて!」
儚い詐欺は夜会前に部屋にもどって寛いでいた……ところに
カットされたバゲットを背負い
バター入りの小袋(バターナイフ付)を腰から下げたミニ閣下に突撃された
バター入りの小袋の反対側にはネギを佩いている――閣下が革職人に作らせた世界にたった一つのもの……まあ、誰もネギは佩きませんわな
ネギはいつものことなので儚い詐欺も特にはふれず
夜会まで時間があったので
バゲットを食べながら話をすることに――
飲み物は召使いに運ばせました
二人ともミルクです
大人とおなじものじゃないと納得しないお年頃なミニ閣下
(自我が芽生えてから、ずっとそんな感じですが)
儚い詐欺「秘密なあ…………他のヤツに絶対喋らないか?」
ミニ閣下「もちろん! ぱうゆはくちがかたいんです!」
もちろん幼児特有の暴露っぷりを発揮しておりますが
キラキラとした眼差し……儚い詐欺など特定の人間以外には
そうは見えませんが
「しんじてキラキラ」を前に微笑してから
ミニ閣下の耳元に口を寄せて
儚い詐欺「おじさん、実はパウルの兄のジークのこと、パウルと同じくらい大好きだ」
ミニ閣下「!」
ミニ閣下、兄が好きと言われて驚き……からの笑顔(見えないけど)
ミニ閣下「にいしゃまのこと、すきなのー! ぱうゆもだいすきなんだよ!」
上機嫌になり……ミニ閣下は秘密を明かすことなく
にいしゃまとの楽しい出来事を語り
ミニ閣下「おじしゃん、またねー!」
儚い詐欺「気を付けて帰れよ」
帰っていきました
その後、しばらくミニ閣下
ミニ閣下「にいしゃま、ぱうゆは、おじしゃんとにいしゃまのひみつを、しっているのです!」
懐刀「……え?(なに? なんだ? えっと……良識有る大人だから、変なこと言ってない……はず)」
ミニ閣下「おじしゃんとやくそくしたから、にいしゃまには、おしえられないのです」
教えられないなら、言わないでくれ……と思うも
子供ってそういうものなので
儚い詐欺「確かにパウルに秘密を教えたが、お前に教えるわけないだろう」
懐刀「そうですよね……お時間を取らせて済みませんでした」
聞きに来たけど相手にされず
ちなみに儚い詐欺、ぱうゆのにいしゃまジークは殴りません……が
儚い詐欺「サーシャは殴る」
そういう人ですよね
ミニ閣下はこの「内緒話」が好き
特に耳元で囁かれるくすぐったさ(物理)がお気に入り
自分が好きなことは
大好きな人にするのがミニ閣下
儚い詐欺とのミルクお茶会よりも前――まだちぇややや!だった頃
ミニ閣下「(パウルもにいさまに、内緒話する!)」
いつも通り「キリッ」と思い立ち、いつも通り懐刀をよじ登り
(登るのはいつものことなので、したいようにさせている)
耳元へ口を寄せ……ただ何をしているのか
はっきりとは分からないので(見えないから)
「こういうことされてるんじゃないかなー」という想像で
懐刀の耳に唇でかみついた
懐刀「パウ……うわ……みみ、噛むの……あ……」
まさかそんなことされるとは
思っていなかった懐刀
突然のことに硬直
(これが警戒している時ならされないし、ヤバイ時なら耳朶ちぎってでも逃げるのですが)
ミニ閣下「(内緒話できてる!)」
懐刀の反応を喜んでいると解釈し(話してないじゃないか)
更に耳を唇で咀嚼するミニ閣下
攻撃力の高さが尋常じゃない幼児と青年のある日の一コマでした
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ミニ閣下は懐刀のことがそれはそれは大好き
そして性根はまっすぐ(ただし鋒は触れるもの全てをスパッと切ってくる鋭さ)
されて嬉しいことは、自分もするサービス精神を持っている――
ミニ閣下(首に抱きついてぎゅってしたい!)
大人たちのハグとキスを見て
自分もやりたい!と強い希望を持ち
すぐに行動に移すのですが、なにせちぇやややや!時代
頑張って立って手を伸ばしても
股下が尋常じゃない空間にあっては
膝にすら届かず――
首に抱きつき、ぎゅっとしたくて
ミニ閣下「ちぇややややや!(にいしゃま、ぎゅっ!)」
訴えるも、残念ながら閣下が側にいないので理解できる人はいなかった
閣下「”ぎゅっ”は訳せぬな」←”ぎゅっ”が何を指すのか、閣下には分からない
ミニ閣下は「ぎゅっ!」ができず、欲求不満な日々を過ごすが
ミニ閣下「ちぇぃやややや!(絶対、ぎゅっ!する)」
決して忘れない
そしてある日、食後にまったりと懐刀と遊んでいるとき
懐刀が横になったんです
ミニ閣下に天啓――
ミニ閣下(この機会を逃さない!)「ちぇいぇやややや!(にいしゃま! 大好き!)」
超高速ハイハイで懐刀の首へと近づき
容赦なく首に手をかけて立ち上がり
そこからダイブ! 懐刀の首を見事に押さえつけ
首に腹を乗せ、それを支点にいきなり始まる屈伸運動
……ミニ閣下本人はハグしてるつもりなのですが
気道に容赦ない攻撃が
そして
ミニ閣下「ぐぼっ!」
懐刀の喉仏がミニ閣下のやわ腹に入って
食べたばかりの昼食が、懐刀の肩へ――
懐刀「ごふ……大丈夫、パウル……げほっ……」
ミニ閣下を取り外し、問いかける懐刀
ミニ閣下「ちぇいやややや!(大丈夫、問題ない!)」
どう見ても問題しかない――その後、二人は仲良く風呂に入りました