【01】
閣下とイヴの長男――閣下の子供なんて
知っている人は諦めていたので
それはもう!
更にこの時代で跡取りが必要な家柄に男児とか
最早パレードにつぐパレード
洗礼なんて盛大に五回してもまだ足りないレベル
閣下「教皇……」
教皇「もう教皇ではありませんよ」
教皇、生前退位して閣下の元へ身を寄せ
ミニ閣下を可愛がる
……で、閣下は世襲になっている騎士団団長でもあるし
世襲元の某帝国が崩壊したこともあり――閣下の息子に継いで欲しいな……と
閣下が持っているタイトルは全部継いで欲しいと思われているわけですがね
それで騎士を引退した人も閣下の家にいて
ミニ閣下に騎士としての動きを見せたりするわけです
0歳児に何をみせとんじゃ? ですが
昔風の盾を持っての戦いや
決闘の作法などを見せてるのですよ
ミニ閣下は閣下と同じで幼少期から天才なので
喋ったりはできないのですが
言われていることはほぼ理解できている
天才って凄いよね
……で、ようやく立てるようになった頃
イヴがキッチンに連れていき
作業台(めっちゃ広い)にミニ閣下を置いて
お話しながら危なくない行程の調理を
ミニ閣下「…………」
そのうちコンロに掛けた鍋がぐつぐつと音を立て
あれはなに? と指さして尋ねてくる
イヴ「じゃがいもを茹でてるんだよ。お湯が跳ねると危ないから、近づいちゃだめだよ」
イヴの台詞を聞いたミニ閣下は賢いので色々と考えて
ミニ閣下「(お母さまの身に迫る危険はわたしが倒す! 遠距離から!)」
側にあった落としぶた用の木製の蓋と長ネギを持ち
蓋を盾のように構え
長ネギをレイピアのように突き出し
ミニ閣下「ちぇあ! ちぇあ! ちぇややや!」(てやー!とか、うおりゃああ!という掛け声を出したかったっぽいが、声帯と舌が未発達なもので)
攻撃を開始
めっちゃ接近戦です、ミニ閣下
まだそれほどバランスが良くないので(蓋とネギ持って立ち上がれる時点、凄いけど、そこはイヴ譲り)「ぽてっ」と何度もおむつに包まれた尻餅をつく
でもミニ閣下、諦めないで立ち上がり
長ネギレイピアで必死に攻撃を繰り返しつつ
見えない敵を鍋蓋で躱しイヴを守ろうとする
もの凄い頑張って戦ってくれている息子を前に
イヴ、可愛くて死にそうになりつつ
カメラを用意して写真撮影に成功
コンロの火を止めて鍋が静かになると共に
戦い抜いたミニ閣下
ミニ閣下「(危険は去った。お父さま、パウルは頑張アノマロカリ……スやすや)」
長ネギと蓋を握ったまま満たされた眠りに
こうしてミニ閣下は「聖剣エクスカリバー(長ネギ)」で攻撃することを覚え、かなりの頻度で戦った。偶に盾を捨てて二刀流になったり――使用した長ネギはイヴと閣下と懐刀と一緒に焼いて食べました
ミニ閣下(成長)「わたしの体は聖剣(長ネギ)でできている」(めっちゃ長ネギ振り回した皇子さま)
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閣下とイヴと息子達(懐刀とミニ)が暮らす城には
色々な設備があります
その一つにバーも
シックな作りのバーで(城の中にあるのですから、そうなります)
バーテンダーは懐刀
開店時間などはなく
懐刀がいれば
イヴが望んだ時間に開店
ミニ閣下が生まれてからは
ミニ閣下連れで昼間にジュースで楽しんだり
ミニ閣下用に粉ミルクなども常備されております
懐刀はそれを専用のシェイカーで混ぜて
木製マグカップに注ぎ
ミニ閣下はご満悦な感じで飲まれるわけですよ
その姿を見てイヴと懐刀は楽しむ
ある日、ミニ閣下、シェイカーを振りたくなった
正確にいうと「お母さまとお父さまと兄しゃまに、パウルが美味しい飲み物を作ってあげる」という非常に子供らしい発想
カウンターに座ってミルクを楽しんだミニ閣下
懐刀に「それを貸すのだ!」と手を伸ばし――
懐刀「どうぞ、パウル」(←イヴの方針で、兄弟だから敬称なし・敬称つけたら懐刀、ガチ殿下になる刑が執行される)
懐刀はもちろん空のシェイカーを貸しました
きっと遊びたいのだろうと
イヴも同じに思いながら見守る
ミニ閣下も賢いとはいえまだ乳幼児なので
「振ればミルクが出てくる」
と思っている状態
シェイカーを手に入れたミニ閣下は
懐刀がいつもしているように振った……ところ
ミニ閣下「……!」
「ごつん!」という異音とともに声にならない声が
ミニ閣下、自らの手の短さを理解せずに振ったため
額近くにシェイカーをぶつける
ミニ閣下「…………」
それでも諦めずに再び懐刀のように
格好良く振ろうとするも同じ場所に――
泣き出しそうなんだけど悔しさが上回って
涙目で頬を膨らませて
泣きもせず叫びもしないが、全身から「思い通りにならない悔しさ」オーラが
イヴ「悔しくて泣きそうになるけど、負けるもんか! って表情、カリナそっくりだ」
頬を撫でながら抱っこする……と泣き出す
ミニ閣下「うわあああ!(パウル、美味しい飲み物をみんなに作ってあげるつもりだったのに!!!)」
イヴ「痛かったね」
ミニ閣下「うわあああん!(痛いのはいいのです!パウルは!パウルは!……うわああん! 兄しゃまは格好良く振ってたのにぃぃ!)」
ミニ閣下の敗因・腕の短さ
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前回のあらすじ
パウルは激怒した「ちぇやややや!」
必ず、かのシェイカーを振って「ちぇああああ」
パウルには己の腕の長さがわからぬ「ちゃあちぇあああ!」
以上
ミニ閣下がシェイカーを振ってカクテルを作りたかったことを察したイヴと懐刀は
「これならできるよ」
腰の位置で振って見せて――ミニ閣下も腰の位置で振ることを覚える
大人と同じことをしたいお年頃なので
立てはするが歩けないミニ閣下ですが
全力でシェイカーを振るので
ぽてっと尻餅をついたり
どてっと前に転んだりと大変なのですが
そのくらいではめげないのがミニ閣下
不屈の闘志はきっとリューネブ……殺気!
どの血筋由来かはさておき
諦めないミニ閣下はジュースと牛乳を混ぜ
ミニ閣下「ちぇやややや!(ご注文の品です!/誰もしてないけど)」
みんなに振る舞う……のですが
シェイカーを傾けることができない
コップに注ごうとすると前に出しちゃう
そこで懐刀がミニ閣下を抱き上げ
シェイカーを持っているミニ閣下ごと傾けてグラスに注ぐことに
元教皇「ありがとう、パウル」(オレンジ牛乳)
ミニ閣下「ちぇああああ(美味しい?)」
穢れない瞳で「美味しい」を強請るスタイル
元教皇「とても美味しいですよ。また作ってくれますか? パウル」
ミニ閣下「ちぇやややややや、やぁーーー!(いいぞ。だから褒めろ)」
お褒めしろと強要するスタイル
元教皇「本当に可愛らしいですね」
元教皇頭を撫でて褒める
褒めてもらうとやる気が出るので
みんなに振る舞って褒めてもらうを繰り返す
シェイカーに牛乳とジュースを注ぐのは懐刀で
混ぜられたのを(ミニ閣下ごと)グラスに注ぐのも懐刀ですが
調子よく作っていたのですが
体力が付き
完全に電池切れの勢いでシェイカーを持ったまま崩れおち
ミニ閣下「すやすや(バー パウルは閉店です)」
バーパウルの開店時間は「体力」
すやすやと眠っていると仕事を終えた閣下が戻ってきた
本日はイヴは夜勤なので
父と息子二人きり(周囲に大勢いるけどね)
閣下「寝ているのか」
シェイカーを抱きしめたまま寝ていたミニ閣下
閣下の声に目を覚まし弾かれたようにシェイカーを振り出す
ミニ閣下「ちぇやややや!(お父さまに作ってあげる!)」
悪くなっている可能性もあるので懐刀がシェイカーを新しいものに取り替え
更に振る
満足ゆくまで振ったミニ閣下が
ミニ閣下「にしゃにしゃ(兄しゃま、蓋を開けて)」
懐刀「はいはい。お待ちくださいね」
いつも通りミニ閣下ごと注ぐ――本日閣下に提供されたのはいちごミルク
閣下、一口飲んで
閣下「美味しいぞ、パウル。あまりにも美味しいから、もう一杯欲しいのだが、作ってもらえるだろうか?」
ミニ閣下「ちぇちゃやや!!!」
喜びのあまり蓋が閉まっていないシェイカーを振り出す――もちろん最初からトップスピード
懐刀「お待ちください、パウル!」
ミニ閣下「ちぇやややややや!(パウル待たない!)」
閣下「気にするな、ジーク」(息子が混乱しないよう、息子の前ではジークと呼んでいる)
閣下、わりとよいお父さましていらっしゃいます――
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前回までのあらすじ
大聖堂の鐘の声、ちぇややややー!の響きあり
ストロベリーの実の色、ちぇやややー!の理を表す
奢れるものはさらに奢り――
ミニ閣下「ちぇややややー!(お父さま、もう一杯飲みますか!)」
閣下、この時点でいちごミルク四杯飲んでいる
閣下「うむ。もう少し飲みたいところだが、また今度にしておこうか。次を楽しみにしているぞ、パウル」
ミニ閣下「ちぇぃやややぃややあ!(おかわりですね!作りますね!)」
ただ苺の世の夢のごとし――要するに閣下はいちごミルクを五杯飲んだ
その後ですが
この日はイヴが夜勤のため
日中休憩していた?
休憩できてたの?
本当に休憩してたの?……さておき
懐刀が夜勤のイヴの護衛のために外出
懐刀「行ってきますね」
ミニ閣下「ちぇあ、にしゃ!ちぇあ、にしゃ!」
閣下「イヴを頼むぞ」
懐刀「はい、閣下」
ミニ閣下を抱いた閣下に見送られ……気づいた! ミニ閣下って、本名のパウルって書いたほうが短くて楽だということに! キースこと儚い詐欺と同じ現象!
でもミニ閣下って書く!
……で、見送ったあと
閣下とミニ閣下は夕食に
もともと食が細い閣下
いちごミルク五杯も飲んだので
そんなに食欲はないのですが
ミニ閣下と共に食卓を囲むという
イヴより与えられし崇高な使命が!!
もちろんイヴは「お暇な時、良かったら……」程度ですが
イヴに頼まれたら全力出すのが閣下の流儀
(全力の千分の一くらいで世界征服できる男)
ミニ閣下、王族らしく燕尾服に着替え
閣下と同じテーブルにつき
イヴが考案した離乳食をプロフェッショナルたちが作る
本日の夕食は
・薄味白身魚のコンソメゼリー寄せ
・薄味ライスプディング
・薄味コンポート
の三品
父親である閣下と同じ皿に
綺麗に飾り付けられて出される
ついでに閣下もほぼ同じもの(味は複雑ですが)
見た目は完璧に同じ
閣下としては離乳食そのまま出されても平気なのですが
(食に対する興味が極めて薄い)
そこは料理人が許さないので
スプーンしか使えないミニ閣下に配慮し
閣下もスプーンのみで食事を
もちろん上手に食べられず――閣下が口に運んでやっている状態ですが
でもミニ閣下は食後「自分で食べた!」という表情に
閣下「座っている姿勢も良くなってきたな、パウル」
ミニ閣下「ちぇややや(もちろんです!)」
閣下「少し休憩したら風呂だ」
ミニ閣下「ちちゅーちゃああ(はい!)」
なぜいちごミルクのとき通じなかった……のだ……
閣下とともに、犬たち(一匹狼)に囲まれ
管弦楽四重奏の生演奏を聴きながら過ごし――それはノーブルな雰囲気……こいつらはロイヤルでインペリアルですが
そして風呂へ――