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闇のような蒼の中で  作者: ミスターX
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白練に導かれ

惑星レジスタンス。

俺の出身の惑星よりは小さい上、地表は砂漠化しており、まさに砂の海の様相を呈し、新たな生態系を形成している。

砂漠の中に聳え立つ山脈を掻い潜り中央へ向かうと地面に巨大な円形の扉が出迎える。宇宙船の帰港場所だ。

人は地下に住み、まるで巨大なアリの巣穴を形成している。ガーラン曰く、惑星を見つけてから一年かけてなんとか建設した俺たちの基地だ、とのこと。

三番フロアと呼ばれている居室エリアを歩きながら見回す。たくさんの通路に部屋が立ち並び、中央には巨大なホールがある。ここだけでも巨大戦艦の中にいるかのようだ。いやしかし、一年でこれほどの環境を整えるのは驚嘆の技術力だな。


「できなきゃ死んでたし、それだけうちの妹は優秀だってことよ。」


行く宛もなく彷徨うくらいなら……ってことか。

結果できたのだから、その時の判断は正解だったということだろう。


「アンタの部屋はここよ。」


ネモは余程息苦しかったのか、到着するや否や車椅子から降り、渡された松葉杖を振り回しながら俺を案内してくれた。危ないからやめなさい。


「戦闘員はこの周辺に部屋があるから。アタシはアンタの隣。」


「防音はちゃんとしてんだろうな。」


ジロリと睨まれる。


「何を聞くつもりよ。」


「何も聞かれたくねーんだよ。」


面倒な誤解は困る。

こちとら【ブルー】の異世界通信システムのことは内緒にしてんだ。【アース】の存在がバレたら一騒動は免れないだろう。


「ちなみに逆隣はガーランの部屋だから。」


「聞いてねえ。」


単純に考えても、軽い監視みたいなものだろう。

一応ここでは完全に他所者な訳だし、まぁ一部屋もらえるだけでもありがたく思おう。


「ここにいる間は基本的に安全だから、アンタの仕事はシエラに一任してるわ。場所は【マシンズ】の格納庫よ。」


「【コノフォーロ】か?」


「レジスタンスのよ、ついてきなさい。」


また案内してくれるそうだ。

まぁ、元気そうに歩いてるから心配はないのだろうが、暇なのか?


「三番フロアだけでもかなり広いから部屋番、ぼーっとして忘れんじゃないわよ。」


また睨まれてしまったが、心は読まれてないと信じたい。

と、言いながら部屋の中へ移動していった。


「おっ、おい……。そこはお前の部屋だろ。」


「いいから。」


部屋に入ると、たくさんの本や雑誌、脱いだ服やさまざまな機材が散らかり、イメージ通りの部屋という感じだ。


「なぁ、なんで部屋に?」


ネモは、ん、と顎でとある大きめの丸窓を指す。


「あそこは格納庫まで直通の通路になってるわ。アンタの部屋にもあるけど、まだ部屋登録が終わってないからとりあえず一緒に入りなさい。」


「……なるほど。」


この個別通路は使用者の登録をしていないと起動が出来ない仕様になっているらしく、一緒に移動することにした。


「ここ滑るのか。」


「安全設計だから安心しなさい。」


いやこれ巨大な滑り台……じゃないんだよな。

もっと、こう……あったろ。


「ほんとはワープとかしたかったーって嘆いてたわ。本気なのかしら。」


本気だと思うよ。

短い付き合いだけど技術に関しては変態すぎるからな。

さて、たどり着いた格納庫。

【ブルー】たちも格納されてるらしいので見に行くと、ほんとに【ブルー】と【アイオロス】、あとは作業用の【マシンズ】が数機ある程度で、他はいろんなマシンズのパーツや素材が転がっていた。

後日、組み立てればよかったのでは?と聞いたところ、どうせネモちゃんしか動かせないからね、と言われてしまった。


「やぁ、出勤ご苦労様。」


出迎えてくれたのはグランさん。

知ってる顔でよかった。


「後ろからネモも来ますよ。」


「よっと。」


「ぐぇ。」


言うや否や降りてくるネモ。

早いんだよ、踏んでる踏んでる。


「あら、ごめんあそばせ。」


「うわ。」


頭をしっかり蹴ったあと、俺から降りるネモ。


「痛いんだが。」


「アタシの心のが痛いわ。……グランさん、こいつのことよろしくね。」


どうやら俺の上司はグランさんと言うことらしい。

苦笑いを浮かべたグランさんがこちらに手を差し伸べてくれる。

しっかり手を引いてもらい立ち上がる。

俺は身長もそれなりに高いのでグランさんを少し見下ろすくらいだ。


「よろしくね、ヴィルくん。」


「はい、よろしくお願いします、グランさん。」


整備の仕事をすれば【マシンズ】への愛も深まるだろう、と言うことでつかされた仕事らしい。


「アンタは【マシンズ】ちゃんの欠損を躊躇わなさすぎるのよ。」


愛があればもっと別の選択肢を取れるはず、とはいま急に目の前に現れたシエラの談である。

なんかまったく言い返せないので言うことに従うことにした。


「アンタはシミュレーション機に行って。たくさん戦闘データを取るのよ。」


これはありがたい。

俺も実力不足を痛感していたからな。様々な練習をこなしたいと考えてたところだ。


「アタシもやるわ!」


目を輝かせて手を挙げるネモ。

いや、子供か。


「姉さんはダメ。まだダメ。絶対ダメ。」


手でバッテンを作るシエラ。


「シエラは過保護よ!もう大丈夫だってば!」


地団駄を踏むネモ。


「あと10日は寝なさい!試験もせずに実戦投入したんだからね!姉さんが無理したってわかってるんだからね!」


「してないってば!ほんとに!」


おそらくネモもシエラも言ってることは本当なのだろう。

脳波で操るあの兵器を使用することが本来はかなりの負担なのは間違い無いだろう。しかし、それ以上にそれらに対するネモの耐性が高かったのだ。

動かしていたのが俺なら、シエラの言う通り10日は寝込んだかもしれない。

羨ましい才能だ。


「……もう!わかったわよ。10日ね!」


ネモが折れたようだ。

過去、庇ってもらってた負い目があるらしい。


「よろしい。」


満足して仕事に戻るシエラ。

そうしているとネモがこちらにコソコソと近づいてくる。


「ちょっと、一緒に連れてってよ。」


「ダメって言われてたろ。」


「アンタならわかるでしょ。アタシは大丈夫だから、ほら行くわよ。」


俺の手を引いて歩い出すネモ。

俺まで怒られるの嫌なんだが。


「目指すはシミュレーション室!あとは任せなさい!」


苦笑いを絶やさずこちらを見つめるグランさん。

止めてくれ、頼む。


「もう任せちゃっていい?」


話がちがうぞ!

グランさんが逃げてどうするんだ!


「そうなったら止められないから、よろしく。」


グランさんは整備に戻ってゆく。

あとで覚悟しておけよグラン!

シミュレーション室にはかなり古臭いタイプのシミュレータが一台置かれており、あまりパイロットには優しくなさそうだ。


「【アイオロス】のシートの方が座り心地良さそうね。」


そりゃそうだ。


「まぁ、こんなもんだろ。」


戦闘システムはお粗末と言う他ないものだった。

というのも、やはりデータ自体がほぼ失われていたと言うのが大きいのだろう。仮想の【マシンズ】の動きは大雑把すぎる。

二人で交代しながらある程度時間が経った。


「なぁによ、これ!ムズすぎだわ!」


幾度かの撃墜を繰り返し、嘆くネモ。


「戦闘の基本がなっちゃいない。実力者や思考する敵相手だと苦労するに決まってるだろ。」


「こんな取り回しの悪い武装なんて使ってらんないわよ!」


現在自機として登録されている機体はライフルとソードを装備した始まりの【マシンズ】、その名も【アケオクス】である。

中近距離対応であり、戦闘行動のみならずそのまま作業用としても使用されていた基本的な【マシンズ】だ。

ノーマルなライフルとソードを取り回し悪いとか言うな。


「スライス・ペタルに頼りすぎなんじゃないか。」


彼女の場合、初戦闘で乗った機体が特殊すぎるということもある。しかし、そればかりと言うわけにも行くまい。ほぼ武装のない【ブルー】に乗る俺が言えた義理ではないが、そもそも【アイオロス】の武装は両手のショットガンとスライス・ペタル、肩部のバルカンだけというなかなかピーキーな機体だ。これから先【アイオロス】だけしか乗らないわけでもないだろうし。


「一回の戦闘に頼り過ぎも何もないでしょ。使えるものは使う、それが闘いよね。」


「基本ができてからの話だぞオメー。」


そんなネモを横目で見ながら、コンピュータに自分自身の戦闘データや、【ブルー】に記録されていた【アブゾーヴ】の行動パターンデータを入力する。

【マシンズ】と戦うことはほぼなくなるだろうが、【マシンズ】を取り込んだ奴らなら戦うことはあるだろうし、いろんな状況を想定しておいた方がいいだろう。まさか、工業用コロニー相手に戦うとは思ってなかったわけで。


「基本の動きができるようになれば相手の動きも予想がつくようになる。武装の射程を考えたり、何を目的としているのかの判断が瞬時に行える……ま、習ったばっかの話だがな。」


戦術論は教官がとても熱心に語っていたが、あの頃の俺は【マシンズ】に乗りたい気持ちが強すぎたな。ギリギリ覚えてる程度だ。

そんなこんな話をしていると、自動扉が開く音が聞こえる。


「お昼ご飯持ってきましたよ〜!」


ボトルを二つ持ったルリィだ。【コノフォーロ】のナビゲーターを務めている彼女はやはりここではあまり仕事がないのだろうか。


「いえ、グレイグ先生とシエラさんに二人の様子を見てほしいって頼まれちゃって〜」


ネモがいるのバレてら。

それでも本人が来ないのは余程忙しいか、黙認してくれてるか。とはいえ、後で怒られるのは覚悟しておくべきだな。


「バレてんだったらそんな気にしてもしゃーないわね。ありがと、ルリィ。」


ルリィからボトルを受け取り、ストローに口につけるネモ。


「まっっっず!!」


咳き込むネモ。あれはゼリー状の完全栄養食か。

栄養価はバッチリだが味が悪いことで有名なやつだな。


「今後【マシンズ】に乗るなら慣れておけってことじゃないか。まぁ、言うこと聞いてくれなかった嫌がらせの可能性も否めないが。」


【マシンズ】での戦闘はかなりの衝撃を伴う。

長期間での戦闘だったりすると【マシンズ】のコクピット内で食事を取ることも多いが、固形物を食べてたりすると吐いちゃうのだ。

だからこそ、軍に属するものはこの食品に慣れている。


「ぜっっったい、嫌がらせよ!」


地団駄を踏みながら、ボトルを握り潰すネモ。え、その義手そんなパワーあったの。


「大変ですねぇ〜」


それを横目に甘い香りのするものを貪るルリィ。

なんだそれ、チョコレートか?

それあげてくれ、これ以上暴れる前に。


「ダメですよ。」


いつになく真剣な目で怒られた。

いつもの喋り方はどうした。


「ヴィルくんはいるか。」


入ってきたのはガーランだ。

ここにきてから随分と忙しそうだったが、急にどうしたんだ?


「おお、いたか。実はな、外層を泳ぐ怪物を一体鹵獲してもらいたい。出撃は今すぐだ。」


「ヤダ。」


またもや突然の依頼だったが、今度は断れた。人の成長とは素晴らしい。


「そうか!ありがとう!」


おかしい、返答が以前と変わってない。


「いやだってば。なんで毎度毎度事前に話してくれないんだ。」


ガーランは聞く耳持たず内容を話し出す。


「アレが食べれるようなら食料問題も多少は解決するかと思ってな。」


「浄水器はどうした、農業でも始めたらいいだろう。」


話を聞く気はないと意思表示するために、貰ったボトルに口をつける。うむ、まずい。


「すぐに成果が出たら苦労はしないさ。」


渋い顔で答えるガーラン。

そりゃそうだ、どれくらいの規模でやってるのかは知らないが、そんな簡単に収穫できるようなものでもないだろう。


「苦労するのは俺なんだろ?」


しかし、協力するとは言ったが、そんな未知の生物とばかり戦ってもいられない。

先日の傷も完全には癒えていないのだ。


「アタシが出てもいいわよ!」


意気揚々と前に出てくるネモ。

大型の敵や複数戦なら【アイオロス】の方が向いているだろうし、俺も任せたい。


「ネモくんはドクターストップがな……」


神妙な面持ちのガーラン。


「俺はいいのかよ!」


「グレイグから、ネモくんを出すくらいなら、と言われてる。」


グレイグのやろう、どうせネモを庇うために俺を売ったんだろう。いや、シエラがグレイグに言った可能性もあるな。

仕方ない。


「……【ブルー】はどれくらい直ってるんだ。」


その状況次第だと主張するが、まぁ相手はガーラン。どうせ直ってるんだろう。


「終わってるぞ。大型の生物と戦いやすいような装備も用意している。」


それは嬉しい話だ。

先日のコロニー以来、強力な武装が欲しいと思っていたところだった。


「どんな武器だ?」


「巨大な剣さ。まぁ、見た方が早いだろう。格納庫へいくぞ。」


踵を返し、格納庫へ向かうガーラン。

ついていくしかないが、ネモをここに放置していくのも良くない……あ、いや、ルリィがいたな。


「ルリィ、無茶しないようにネモを見ていてやってくれ。」


「がってんです!」


両手で敬礼をするルリィ。

なんだそりゃ。

少し笑ってしまったが、そのまま俺も格納庫は向かう。


「どんなバケモンと戦わされるのやら……」


これからのことを想像してため息が出てしまうのであった。

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