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闇のような蒼の中で  作者: ミスターX
4/12

結成の旗印は緑色

暗闇の中、意識を取り戻す。

これが黒だよなぁとぼんやり思いながら

激痛の走る体に鞭を打ち身体を起こす。

どうやら【ブルー】のAIが電力の消費を抑えてくれていたようだ。

目覚めたことを感知したのか、コンソールに光が灯る。


『お早いお目覚めですね、ヴィル。』


「そりゃどーも。」


おそらく相当の間寝ていたのだろう。

AIからの軽い皮肉を聞き流しながら、経過時間やエネルギー残量、周辺地図を確認していく。


「三日も寝てたのか。」


『全身打撲と重度の疲労です。それよりも深刻なのはエネルギー残量かと。』


俺の身体の状態は死につながるものではないらしい。そこは一安心だが、それを言われたから楽になるわけではないし、宇宙漂流状態をなんとかしなければ結局は御陀仏だろう。


『近辺に人が住んでいるとされている惑星をチェックしましたが、軒並み生体反応がないようです。おそらく奴らかと』


「……随分と手の速い奴らだ。何処かの星に助けを求めるにせよ、急いでこの宙域を離脱しないとな。」


『自主航行できるエネルギーはありません。』 


つまり、どこかに流れ着くまで生き抜くか、誰かに助けてもらうしかないということだ。


「まーた運頼りかよ。ご都合主義も大概にしろよ。」


『そのご都合に頼らざるを得ないくらい追い詰められてることは自覚していただければ幸いです。』


そんなことはわかってる。

しかし、これが物語ならやりすぎだと怒られるぞ。


『アースでは、事実は小説よりも奇なりと言います。』


「奇跡はそう何度も起こらないから奇跡なんだよ。」


『有り得ないことが何度も起こるから、奇跡と呼ぶんですよ。』


抑揚がなく感情を感じさせないAIのくせにドヤ顔が見えてくる物言いに非常に腹が立つ。


「【マシンズ】のAIにしては随分とお喋りだな。その機能は必要か?」


『失礼致しました。パイロットはお一人では寂しいだろうという製作者の意思です。』


「面白い。会うことがあったらぶん殴ってやる。」


『お会いできるのは撃墜された時でしょうね。』


「……。」


AIとの会話に辟易した俺は、アースという単語からあの瞬間のことを思い出す。

橙の光が輝いたあの瞬間、俺の心は希望に満ちていた。

満ちていたのだ。


「そういえば、そのアースのことだが」


AIが残してくれたであろう戦闘記録を確認しながら尋ねる。


「あの歌の女神の名前とか、わかるか?」


『履歴は残してあります。チャンネル閲覧……可能。こちらです。』


「……綺麗な人だな。」


彼女が作成してるプロフィールだろうか。

笑顔が素敵な女の子が写っている。


「女神様の歌、ずっと流してくれ。いろんな歌があるんだろう?」


『精神値のチャージの為ですか?エネルギー量から考えても、現状では推奨できません。』


「いや……」


再び身体をシートに預け、目を瞑る。


「俺が聴きたいだけさ。」


『格好をつけたところ申し訳ありませんが、緊急事態です。作業用【マシンズ】を見つけました。周辺のデブリから資源を採取しているようです。』


謝るくらいなら最初からやらないでほしい。

仕方ないとはいえ、決めた台詞の後に言われるとやはり少しげんなりしてしまう。


「資源を採取してるなら、人間の可能性が高いな……星は軒並み死んでるのに。どこに住んでいる奴らなのやら。」


俺たちの惑星の周辺には宇宙海賊たちの存在報告も聞いたことがある。

資源運搬船を【マシンズ】を使って襲ったり、逆にそういうやつらを餌としている海賊もいるらしい。勝手にやってろって思う。


「戦闘になる可能性もある。異世界通信システムの準備もしとけよ。」


『これ以上は機体が保つとは思いません。仮に敵対存在でも大人しく捕虜になるのが宜しいかと。機体のブラックデータより、パイロットの生命を優先すべきです。』


「それはどうだろうな……まあ、仕方ないか。オープンチャンネルを開いてくれ。」


問題のない人間であってくれと

そう願った想いはどうやら女神まで届いたようだった。


「こちら、【マシンズ】パイロット。これ以上の航行はできない状態にあります。もし余裕があるのならば、救援をお願いします。」


すると間髪入れずに返答が返ってきた。


「!?……生存者確認!壊れた【マシンズ】とそのパイロットだ!やったぞ!」


何がやったぞ、なのか。

それを考えるとうんざりしてしまうが、

歓迎はされてるようで、やはり俺は運がいいのだろう。


「俺の名前はガーラン。ここの副リーダーをさせてもらってる。」


節約の為か照明は薄暗いがかなり片付いた部屋の中で俺は二人の人間と対峙していた。

身長も高く筋肉もかなりついているガタイの良いスキンヘッドで髭を生え散らかした男はガーランと名乗った。

かなり鍛えてそうだし、怪我人相手に負けるつもりはないのだろう。武装をしていない。


「アタシはネモ。ここ唯一の【マシンズ】パイロットよ。とは言っても作業用しか動かしたことないけど。」


ネモと名乗った女は対照的に身長はかなり低く、自尊心の高そうな表情をしている。ガーランのとなりにいると子供に見えそうだが、グラマラスな体系と美しい緑の髪と力強い瞳がそれをさせない。


「軍用の【マシンズ】はパイロット登録がされているからな……。」


作業用は誰でも操作できるから誰でも使うことができるが戦闘用はそうはいかない。

つまり、軍の人間ではなく、個人専用機がないということだろう。


「ところで、ここは?」


「ここは俺たちのチームがいま一時的に拠点にしている工業用コロニーの残骸さ。この辺はデブリが多くてね。最低限の資源があるからそれを取りに来てたのさ。俺たちの惑星での生活のためにね。」


なるほど、つまり惑星自体はこの辺にはないと言うことか。ならば奴らの脅威はまだ大丈夫なのだろうか。


「アンタの専用機、かなりボロかったけど。アンタ下手なのね。」


「おい、ネモ!失礼だろう。」


やったことのないやつはいつだって無責任なことを言う。それをなんでも気にしてられるほど、俺は馬鹿では……


「もっと繊細に操縦できないのかしら。戦闘記録見せてご覧なさいよ、アタシのがうまく戦えるわ。アレちょうだいよ。」


「黙って聞いてりゃあ、良い気になりやがって!【ブルー】は俺が託されたものだ!テメェなんかにやれるか!」


自分がどれだけ苦労したと思ってるのか。

そんな中、従軍経験もない奴に上から言われる筋合いはない。


「ふぅん。プライドはあるのね。」


ネモはすこしだけ驚いた顔をしたあと、にやりと笑いながらそのまま扉に向かう。


「ウチの整備士の腕はかなりのものだから、アンタの【ブルー】のことは安心して良いわ。ただ、データとかは貰うことになるけど。」


わざわざデータをもらうって言うってことは、俺にも手伝えと言うことだろう。

何者かわからない奴らにデータを渡すのはすこし怖いが、背に腹はかえられない。

出て行くネモを無言で見送りながら、ガーランに向き合う。


「本当は君の身体が完治してからの方が良いと思ったんだが……」


ガーランは椅子を指差し俺に座れと促す。

全身が痛いので遠慮なく座る。

できれば寝ていたいくらいだ。


「【アブゾーヴ】が近辺で暴れているようだからな。どうするにせよ、すぐに動けるようにしておいた方がいい。」


「【アブゾーヴ】?」


「ああ、奴らは戦闘能力のあるものを吸収し、その姿や力を乗っ取る。だから【アブゾーヴ】とウチの星の研究者が名付けたんだ。」


吸収し、乗っ取る。

つまり、【アブゾーヴ】ってのはおそらくあの化け物のことだ。


「なんであの化け物のことを知ってる……?」


一瞬陰った顔を上げながら、彼は答える。


「【アブゾーヴ】は外宇宙から来たんだが……元々はただのアメーバ状の物質だったんだ。奴らを意思を持つ怪物にしたのは俺たちの星の研究者なんだよ。」


「なんだと……!」


怒る前に驚く俺を見つめながらガーランは話を続ける。


「あれは事故だった、と言っても被害者は納得できないだろうが。償うために俺たちは現在奴らに襲われた人たちの救助を行っている。……あの【マシンズ】を見る限りアンタも襲われたんだろう。本当にすまない。」


「ガーラン、貴方に謝られたからと言って何が変わるわけでもない。それに俺だけでも助けてもらったんだ。文句は言わないさ。」


「……ありがとう。」


ガーランは涙を流し俯く。

彼自身も無関係というわけではないのだろう。

俺も怒りがないわけではないが、それ以上にこいつらのことは今のところは疑う必要はないと確信した。

直感のようなものだ。


「俺の名前はヴィル。ひとまずはアンタたちに協力させてくれ。【ブルー】が直れば反撃もできる。」


「あぁ、俺たちも【マシンズ】のパイロットが増えるのは助かる。ようこそ、我らレジスタンスへ。」

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