1.君との出会い
初めての投稿です。
よければ、読んでいただければ、幸いです。
これは、フィクションです。
今日もいつもと変わらない日常を過ごす。
何がしたいわけでもなく、何も考えずに遠くを眺める時間が好きだ。
僕は、いつもと同じ学校の帰り道の途中にある河川敷の階段に座って、一人でいる。
河川敷にあるグラウンドでは、野球をやっている中学生ぐらいの子どもたちが、汗をかき、息切れをしているのを見ていると、自分もあんなに必死になって頑張っていた時があったなと、懐かしさを思い出して、今の自分が、何の力もなく、何もできない無能であることを叩きつけられる気がする。
「そこに、いるのは…、同じクラスの宮本くん?」
声をかけてきたのは、自分とは全くと言っていいほどの接点のない、僕が陰キャラならば、ぴかぴかに輝いた陽キャラのクラスメイト。
名前は確か、森だったかな?
「宮本くんだよね。何しているんだ?」
「見ての通りだよ。何もしていない、逆に君の帰り道もこっちだったっけ?」
「あー。別の道からも帰れるけど、今日の気分的にこっちの道で帰りたかったんだ。」
あー、やばい。
仲の良くない人との会話で一番厄介なのは、この沈黙だと思う。
仲のいい友達との沈黙は大丈夫とよく聞くし、恋人の条件として「沈黙の時間も大丈夫だと思う人」と挙げる人もいるらしい。まぁ、そんな友達も恋人も出会ったことないんだけど。
そんなことを考えていると、森くんは僕から少し離れて、階段に座った。
「帰らなくていいのか?君は部活をやっていたと思うんだけど。」
「大丈夫。今日って言うか、さっき辞めてきたんだ。」
おいおい。やめてくれよ。初めて話したのに、そんな重たい雰囲気で話しかけてくるんじゃねーよ。
部活の話題が地雷だったなんて気づく訳ないだろう。俺は一人の時間が好きだから、早く帰って欲しくて遠回りに帰れってことに気づいてくれよ。
「少しだけ、愚痴を言ってもいいか?」
その聞き方はずるいんじゃないか。この状況で、「無理でーす。お前の重たい話なんて聞きたいわけないだろ。そんなのは、お前のことが好きなクラスの頭の悪い人間どもに話せばいいじゃないか。」って言える奴がいるのか?
「いいよ。何があったんだ。」
「ありがと。俺さ、部活のマネージャーに告白されたんだ。俺は、その子のことを人として好きだけど、恋人みたいに見れないんだ。だから、付き合いたくなかったんだけど。他のマネージャーの奴らが、「告白されたらしいね。いいじゃん。付き合いなよ。って言うか、断る理由ないよね。断ったら、あの子泣いちゃうよ。」って言われて、泣かれるのは嫌だし、部活内の空気を悪くしたくなかったから、その告白を受けたんだ。」
なんだよ、それ。いきなり自慢か?俺なんか告白も好きの二文字も言われたことないんだぞ。これだから、陽キャのリア充は。
「それで?付き合えたんだからいいんじゃないのか?俺は、そんな経験ないから。いい助言なんてできないよ。」
「そうなんだ、なんかごめん。」
謝ってんじゃねーよ。俺が惨めになるだろうが。お前はもしかして、自慢がしたくて俺に話し出したのか?はぁ?お前の幸せ自慢を聞くために俺はここにいるんじゃねーよ。
「話には続きがあるんだ。付き合ったはいいものの、手をつなぐのも何をするのもダメで、電話すらしてくれなかったんだ。学校で会っても、ほとんど無視。話しかけないでよ、と言われる始末。けど、別れるってなると部活内の雰囲気が悪くなっちゃうから、別れることもできないし。少しづつ話すことが無くなってきて、1か月もしない内に別れることになったんだ。」
「お、おう。別れたんだ。良かったじゃないか。もともと、別れたかったんだろ?」
「それはそうなんだけど。別れるまではいいんだけど。彼女が俺の悪口を広めてるらしいんだ。もしかしたら知っているかもしれないけど、付き合った時は良かったけど、愛が重たくてしんどいとか、束縛が激しいとか、付き合うまでは紳士的だったのに、付き合ったらめちゃくちゃ冷たい、とかね。」
「え。なにそれ、怖い。女子ってよく怖いって言うけど、本当だったんだ。」
「女子同士で言っているだけだったんだけど、部活のチームメイトにも、悪口を話しているらしいんだ。彼女は、すごいモテるんだよ。チームメイトの内の8割はそいつのことが好きなんだよ。だから、彼女のことが好きな人は、このタイミングで、付き合っていた俺に怒りをぶつけるようになったんだ。」
そんなの知らなかった。僕はクラスから孤立している。
孤立しているということは、馬鹿にされたり、可哀そうに思われるデメリットはあるけど、それ以上のメリットがあると思っている。
その一つとして、初めは悪口や馬鹿にされるが、時間が経つと空気のように扱われるのでいじめのターゲットから外れることが出来る。ただ、情報からも隔離されてしまうんだけど。
「君はいじめられるようには見えないけど?どちらかと言えば、いじめる側の人間だと思うんだけど。」
「昔はね。いじめていたというより、いじめられている人を見ても何も感じなかったんだ。最低なやつだろ。高校に上がる時に、中学3年間のことを思い返してみたら、俺は何をしていたんだろうって思って。みんなで仲良くすればいいものを、わざわざ反抗しない人に向かって馬鹿にしていい気になって。ほんとにダサいことをしてしまったなって。だから、高校に上がったら、そんなことはしないって。している奴がいたら、止めようって考えていたんだ。」
そういえば、こいつが馬鹿にしたり、悪口を言っているのを見たことがない。友達が言っているのを止めているところがとても印象的だった。グループに1人は欲しい、ブレーキをちゃんとかけてくれる人のイメージが強いことを思い出した。昔のことは、いじめられていた側からすると、腹が立って許せないと思うけど、自分が犯した過ちを振り返り、改善しようと頑張っているのは、えらいと思う。同級生ながら、大人っぽさを感じていた。これは、もしかして俗に言う、映画版ジャイアンなのでは?
「話を戻すよ。怒りをぶつけられるようになったんだけど。それが、陰湿で。部活内では、俺の発言は全部無視されるし、試合中にシュートを外せば馬鹿にされ、パスもめったに来ない。シュートを決めても、悪口を言われるようになった。だから、逃げるように部活を休むようになったんだ。かっこ悪いよな。」
こんなに悲しそうにしている彼を見るのは、初めてだ。いつも笑顔を振りまいていて、彼がいると、そこの雰囲気が明るくなるってみんなが言っていたのに、今の彼には、それを全く感じさせない。
僕は、どうにかして彼を慰めたいと思うようになっていた。可笑しいな。自分でも可笑しいのは分かっている。だって、彼と話したのは今日が初めてなのに、彼はほっとけない空気を持っている。多分、このまま、僕が彼に罵声を浴びせたら、そのまま家に帰って、自殺してしまうのではないかと思うぐらい彼は悲しそうな顔をしている。
「かっこ悪いとは思わないよ。それよりも、クラスメイトにも同じ部活の奴がいたと思うんだけど、クラスでも悪口とか言われているのか?」
「ううん。言われてないよ。あいつは、悪口を言わないでいてくれるし、彼女のことを好きにならない2割の人間だから、別に今までと変わらないよ。」
「そうなんだ。先に言っておくけど、死ぬのだけはやめておいた方がいいぞ。いじめている奴らは、君が死んだところで、何も反省しないから。親や友達の中の優しい人間を追い込むだけだから。」
「はは。宮本は面白いことを言うな。さすがに、死なないよ。死ぬ前に、やりたいことがいっぱいあるから、こんなところで死ねないよ。」
彼は笑いながら、それでいて悲しそうな表情を見せる。
「それじゃあ、俺は帰ろうかな。ごめんな。いきなりこんなこと話して気分悪いかもしれないよな。遅くなる前に家に帰れよ。また明日。」
また明日という姿が、消えてしまいそうで、後味が悪すぎる。僕は、いじめられるのは嫌だけど、いじめられているって分かっているのに、支えてあげられない人間になりたくない。助けたい。
「明日も部活やすむんだよな?いつでもここにいると思うから、話し相手ぐらいにはなってあげなくもない」
ありがとう。と言葉を残して、帰っていく後ろ姿は、心なしか楽しそうに見えた。
読んでいただき、ありがとうございます。
良ければ、次の話も読んでほしいです。