かすみ草のミーナ
ぼくが来たとき、ミーナはちょっと変な子だった。みんながぼくをめずらしいものを見るように見てたのに、ミーナだけはもう友だちみたいに話かけてきたんだ。
ひとりぼっちになっていたぼくは、ミーナとすぐなかよしになった。ミーナはしっぽの先にちょっとだけ黒い毛のある白いネコで、とってもきれいだった。でも、ミーナは自分のしっぽが嫌いみたいだった。だって、いっつもぼくの見えない方にしっぽをかくしてしまっていたから。
ぼくはよく、ミーナといっしょにかすみ草の丘にのぼった。あそこの白い花のじゅうたんは、それまでぼくがいた所のどこかににているような気がして、ふしぎとぼくをおちつかせてくれた。そのじゅうたんの上にいると、白いミーナも花になってしまったようだった。いいや、丘がぜんぶミーナになってしまったのかもしれない。
「ねぇミーナ、どうしてしっぽをかくすの?」
ぼくがきくと、ミーナは目をおっきく開いて言った。
「かくしてた?」
「うん。ずっとかくしてる」
「そんなことないよ」
でも、ミーナからしっぽを見せるようなことはぜったいになかった。
ぼくだってりっぱなしっぽとは言えないけど、人からかくしたりはしなかった。
なのにミーナはしっぽをかくしている。そんなふうだったから、ぼくはどうしてもミーナのしっぽが気になってしかたがなかった。
ある日ぼくがひとりで歩いていると、あたまの上からお月さまが話しかけてきた。
「あら、今日はひとりなんだね? あの子はどうしたんだい?」
「やあ、お月さま。ミーナは熱があるんだ」
「それはざんねんだったねえ」
「そうだ。お月さま? どうしてミーナがしっぽをかくすのか知りませんか?」
「おや、そんな事も知らなかったのかい。」
「そんなにかんたんな事なの?」
「もちろん」
「じゃあ、なんで?」
「自分のしっぽがみにくいと思っているからさ。じっさいあの子のしっぽは少し変だけどね」
だからぼくは、お月さまにこう言ったんだ。
「ミーナはあんたなんかよりずーっときれいさ!」
そしたらお月さまは顔をしかめて、
「それは本当かい? わたしよりきれいだなんて、なんていやなネコなんだろう」
って言ったんだ。
だからぼくは、お月さまとはもうお話ししないことにしたんだ。
なぜって、ミーナをきらいなお月さまなんかとは、なにも話すことはないからさ。
その次の日、ぼくはミーナに言った。
「ミーナ、きみのしっぽはとってもきれいだよ」
そうしたらミーナはやっぱり目をおっきく開いて言った。
「どうして?」
ぼくはこたえられなかった。
ミーナは目にいっぱい涙をためて、もう一度言った。
「どうして? そんな事言うの?」
やっぱりぼくは何も言えなかった。
「あなたにわかるわけない。わたしじゃないあなたに」
それからミーナはぼくに会わなくなった。
かすみ草の丘に行っても、もうミーナはいなかった。
あとできいたら、ミーナはもうぼくの手の届かないところへ行ってしまったらしかった。
これでミーナの話はおしまい。また話したくなったら話すかもしれないけど、今はここまで……。それじゃあね。