表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

かすみ草のミーナ

作者: 黒輝 沖

 ぼくが来たとき、ミーナはちょっと変な子だった。みんながぼくをめずらしいものを見るように見てたのに、ミーナだけはもう友だちみたいに話かけてきたんだ。

 ひとりぼっちになっていたぼくは、ミーナとすぐなかよしになった。ミーナはしっぽの先にちょっとだけ黒い毛のある白いネコで、とってもきれいだった。でも、ミーナは自分のしっぽが嫌いみたいだった。だって、いっつもぼくの見えない方にしっぽをかくしてしまっていたから。

 ぼくはよく、ミーナといっしょにかすみ草の丘にのぼった。あそこの白い花のじゅうたんは、それまでぼくがいた所のどこかににているような気がして、ふしぎとぼくをおちつかせてくれた。そのじゅうたんの上にいると、白いミーナも花になってしまったようだった。いいや、丘がぜんぶミーナになってしまったのかもしれない。

「ねぇミーナ、どうしてしっぽをかくすの?」

 ぼくがきくと、ミーナは目をおっきく開いて言った。

「かくしてた?」

「うん。ずっとかくしてる」

「そんなことないよ」

 でも、ミーナからしっぽを見せるようなことはぜったいになかった。

 ぼくだってりっぱなしっぽとは言えないけど、人からかくしたりはしなかった。

 なのにミーナはしっぽをかくしている。そんなふうだったから、ぼくはどうしてもミーナのしっぽが気になってしかたがなかった。

 ある日ぼくがひとりで歩いていると、あたまの上からお月さまが話しかけてきた。

「あら、今日はひとりなんだね? あの子はどうしたんだい?」

「やあ、お月さま。ミーナは熱があるんだ」

「それはざんねんだったねえ」

「そうだ。お月さま? どうしてミーナがしっぽをかくすのか知りませんか?」

「おや、そんな事も知らなかったのかい。」

「そんなにかんたんな事なの?」

「もちろん」

「じゃあ、なんで?」

「自分のしっぽがみにくいと思っているからさ。じっさいあの子のしっぽは少し変だけどね」

 だからぼくは、お月さまにこう言ったんだ。

「ミーナはあんたなんかよりずーっときれいさ!」

 そしたらお月さまは顔をしかめて、

「それは本当かい? わたしよりきれいだなんて、なんていやなネコなんだろう」

 って言ったんだ。

 だからぼくは、お月さまとはもうお話ししないことにしたんだ。

 なぜって、ミーナをきらいなお月さまなんかとは、なにも話すことはないからさ。

 その次の日、ぼくはミーナに言った。

「ミーナ、きみのしっぽはとってもきれいだよ」

 そうしたらミーナはやっぱり目をおっきく開いて言った。

「どうして?」

 ぼくはこたえられなかった。

 ミーナは目にいっぱい涙をためて、もう一度言った。

「どうして? そんな事言うの?」

 やっぱりぼくは何も言えなかった。

「あなたにわかるわけない。わたしじゃないあなたに」

 それからミーナはぼくに会わなくなった。

 かすみ草の丘に行っても、もうミーナはいなかった。

 あとできいたら、ミーナはもうぼくの手の届かないところへ行ってしまったらしかった。

 これでミーナの話はおしまい。また話したくなったら話すかもしれないけど、今はここまで……。それじゃあね。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ