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碧い星の記憶

作者: N(えぬ)

 小学生時代のクラス会。

 といっても、きょう集まったのは5人だけ。幼なじみが偶然予定が合って、会えたからというものだった。

 皆、30才を少し過ぎたところだから、おおよそ20年ぶりと言うところだ。

 カズオ、エイジ、ユキオ、マリ、ミナコ。そして、仲がよかった仲間がもう一人、ユミがいた。けれどユミは連絡が付かなかった。それは特に、カズオにとって残念だった。


 皆、小さいころの思い出話に夢中になった。人生の中の、なんの利害もない人、時間の思い出。そう言うものが、懐かしさということばを実感させる。


「そういえば、変な遊びもずいぶんやったな。いま思うと、なんでそんなことがおもしろかったのかわからないようなこともしてたよ」

「子どもってそんなもんだよな。すごくくだらないことが、おかしくてしかたなくて、ずっと笑っていたり」

「ナントカ星人ごっこ、とかやらなかったか?」

 カズオが古い記憶をたどるように話した。

「ああ、やったなあ。ずいぶん小さいころだな」

 エイジはビールを口にしながら、頷いた。

「俺は火星人。火星人は、どんなに熱い火にも耐えられるんだ!とか、いってたな」

「ううん。金星人は、金星に金がたくさんあるから金持ちなんだとかぁ」

「そうだよ。カズオは火星人で熱さに強いのに、猫舌だとか。それはいまでも変わらずかい?なんかで試してみよう」

 ユキオが居酒屋のメニューから熱そうな食べ物を探しながらカズオに尋ねる。

「ははは。変わらないよ。いまでも熱いものはダメだなァ。成長してないのかな」

「やめてよねえ。そんなに懐かしむほど、みんな年寄りになったみたいな話しないでよ」

 マリが自分だけは違うと言わんばかりに、体をのけぞらせる。みんな、それを見てドッと笑った。

「ユミも来られればよかったのにねえ」

 ミナコが愛おしげに言った。何かそのあと、少ししんみりした感じがみんなを包んだ。特にカズオは。


 カズオはきょう、最初からけっこう飛ばして飲んでいるようだった。ユミが来ていたら、こうは飲まなかったかも知れないし、こんな話もしなかったかも知れない。カズオは、真面目な顔をしてなにか告白するごとくの調子で、

「俺、そのナントカ星人の遊びで、ユミと空を飛んだことがあるんだよ」

 カズオがそう言うと、皆、その話に先を続けろとばかり注目した。

「小学校の6年の時だった。夏休みにユミと、近所のお祭りに行って。そんで、その帰りに、ほら、いまは整備されて普通の歩道みたいになっちゃったけど、川沿いの土手の道を歩いて帰った。そしたらユミが土手を降りて川のふちまで行って。「どうした?」ってきいたら」

 そこまで来てカズオが一呼吸唾を飲むと、それでも皆、同じように黙って彼の話を聞いていた。

「そしたら「アタシは金星人なの。金星人は、空が飛べるのよ」って言って、アイツ、右手で急に俺の左手を握って「用意はいい?」って言って。俺、驚いて「ああ、ああ」ってそういったんだけど、そしたらフワッと体が浮いて、ユミと二人でほんとに空に舞い上がったんだ」

 カズオは大真面目にその話をしていた。それは顔を見ればわかった。酔った勢いで告白したようだった。ほかの4人は、彼の話を小さな恋のメロディでも聴くように、微笑ましく見ていた。

「ほんとだぞ。ほんとに飛んだんだ。空をよ。スゴイ勢いで。それでユミが、「アレが学校」「アレは駅ね」とかいろいろ教えてくれて。楽しかった」

「そんなことがあったのか。なんてうらやましい!」

 ユキオがおどけて、涙ぐむような格好をして見せて、皆、また笑った。

「でも、ほんとなんだ。ほんとなんだ」

「ああ、信じるよ。ほんとだと思う。だからお前の胸にしまっておけよ。ユミとお前の大切な思い出だろ?」

「ユミ、急にお父さんが亡くなって、夏休み前に引っ越していってしまったものね」

「ああ。ユミと会ったのは、その日が最後だったんだ」

 カズオが悔しそうに言う。

「ひぇー。ファンタジックな初恋物語、聞かされちまった」

「うるせぇ!」

 茶化したエイジにカズオもふざけてつかみかかる真似をしたところへ、店員がやってきた。

「熱々のけんちん汁で~す」

「おお、来た来た!カズオ様、どうぞ!」

「そんなの俺が喰えるわけねえだろ」

 皆、それを煽って、笑い合った。



 クラス会が終わり、皆それぞれに帰路に着いた。

 カズオ以外の4人は「アタマのナカ」で話し合った。

「ユミはカズオが好きだったもんね。金星に帰らなければならなくなったとき、お別れにカズオと一緒に飛んだのね」

「ユミのおやじさんは、政治家で、急死したあとに、周囲から、将来はぜひ娘さんに政治の道にって言われて、以来英才教育が始まって、ほかにもいろいろ忙しくなって、まるっきり地球には来られなくなっちまったんだよな」ユキオが悔しそうに言う。

「でも、カズオのことが好きだったのはわかってたけど、飛んだことがあるなんて、初耳」マリは笑った。

「ユミ、きっと誰にも言ったことが無いことだと思う。胸にしまっている思い出なのね。ユミ、自分の子どもに「地球の空はね、碧いのよ」って言ってるのを聞いたことあるワ……「その空をむかし、カズオという少年と一緒に手をつないで飛んだの」、って、きっとこころの中では話しているのね」

 ミナコの「アタマのナカ」の声は少し雑音が入って途切れがちになった。

「20年かぁ。俺たちは、方々の星へわりと簡単に行くけど、地球人はまだ、月より遠い星へ行ったことが無いもんナ」

「そのうちに、ユミも集まれるといいね」

「ああ。きっとまた」

 彼らは、それぞれに別れを言って、それぞれの星に戻っていった。

 カズオは、彼らの帰る姿を流れ星と思って見たのだろうか。




タイトル「碧い星の記憶」

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