9、ちょっとやりすぎたかもしれない
オレはヤツの前に出た。
ヤツはニヤニヤと歪に笑う。
楽しそうだなと思った。
もしオレがその立場だったら泣きわめいているかもしれない。
痛いのは、嫌いだった。
「プラナタリアのテイマークンじャん! きみで最後でしょお?」
「そうですね」
「ナニで殴ってくれんのぉ?」
どうやらヤツはオレのことを覚えているらしい。
オレが最近の被害者だろうから当然といえば当然なのか?
オレは装備しているバッグを触る。
ここにさっちゃんやゲコちゃんは入れていない。
シグリンに預かってもらっている。
テイマーはテイムモンスターがいなければ丸腰の何もできないただの一般人だ。
幸運値に極振りしているプレイヤーが多いと思うし、ヒットポイントなんて一発強いのが当たればすぐ死ぬ。
オレは基本素早さと防御に振っているけれど、パワーなんてものには一切振れていない。
ナイフやらこん棒やらでこいつを殴っても、“え、なんかやった? かゆ~い”としか返らないだろう。
オレは一つのアイテムを取り出した。
やつがこれを見て少し眉をひそめる。
『_____』
声に出しているのに不思議なことで音は発せられない。
これは呪文だ。
“魔法の書:呪いの絵巻”を使うための。
マジックポイントを最小限に、そして職業が魔法使いでないプレイヤーも使えるお手軽アイテム。
「……? ……ッッ!!!!! お゛ま゛え゛!! ッァアアアア゛ア゛ア゛ア゛! …………!……!……ッヒ……ッギっ……いやだ、ゃめろ……!!」
叫び声が暗い森に響き渡る。
苦しそうだ。
知り合いの呪術師に作ってもらった特製の怨念込もりまくりの悪夢を見せる呪いの書だ。
アカウントがバンされないギリギリを狙った精神攻撃の魔法だが、もうこれアウトなんじゃないかってくらい効いている。
“悪夢を見せる”__寝てないから効かないとかはなく、ただ魔法を掛けられた対象の見たくないものを見せる魔法らしい。
混乱状態にさせる魔法からの応用で、不安を煽って精神状態にデバフを掛けるうんぬんカンヌンと知り合いは説明していた。
こいつ、どんだけ見たくないものがおぞましいやつなんだ。
ありえないくらい泣き叫んでいる。
周りのテイマーは困惑したような、喜んでいるような目をこちらに向けてきている。
消費された呪いの書はオレの手から消えた。
戸惑った雰囲気を残してテイマー達の復讐は終わる。