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第3話:腹決めるぜ!

第3話はざしきのわらしが担当しました。


 何がどういう訳で、こんな事になっているか分からねぇ。


「勇者様じゃッ勇者様じゃあ!」


 俺の前で桶を抱えながら、裸踊りする村人たち。

 それに合わせる愉快な手拍子。

 普段なら俺が一番嫌う雰囲気なのに、そこで腹を抱えて笑っている自分がいる。

 けど、分かんねえんだ。


「何でコイツら、こんなに俺を歓迎してんだ……」




 △ ▼ △




「そりゃあ、村にやって来た“救世主ゆうしゃさま”だもんね」


 空中であぐらをかきながら、“さとぅー”はうんうんと頷いた。

 てかお前、いつの間に居たんだよ。いや、浮いてんだよッ。


「イヤだなぁッウチはもう凡人さんの傍から・ハ・ナ・レ・ナ・イ」


「キモイ。心を読むな悪霊」


「あ、悪霊!?」


 ガビーンっと、小指を立てて石像化する虫。

 貴様は妖精っていうより悪霊に近いっつうの。


「――あっ」


 思わずハッとして、さとぅーを指差す。

 そういやコイツ、俺に内緒で村人と取引してなかったっけ。


「おい虫ッ」


「なぁにぃ」


「……お前、村人と何取引したんだよ」


「なんかねぇ今日の夜中、およよってなってきゃあああッて叫んで、ガオオッて来てあーあってなるから助けて欲しいんだって」


「……」


「……」


「……お前、右脳だけで生きてんだろ」


「えッヤダなぁ。UNOだけで生きてたら人生つまんないよぉ」


 だから“凡人”なんだよッと、さとぅは俺の頭をベシベシ叩いて来た。

 うん。こんな馬鹿になるくらいなら、UNOでもやって一生凡人でいた方がマシだよ。

 てかそんな頭で良く村人の話が理解出来たな。取引の説明なんか、ほぼ擬声じゃねぇか。


 ……。


 さて、困ったもんだ。

 馬鹿妖精は当てにならんし、村人に聞こうにもこの浮かれ調子じゃ――……。


「その話でしたら、私が致しましょう」


 顔を上げれば、あの時妖精と話していた村人老人Aが俺のもとへ近寄って来る。

 まさかの読心術かと思ったけど、どうやら俺とさとぅの話を見かねてやって来たらしい。

 ナイス・じぃちゃんッ!


「……わしは村長の“オウギ”と申します」


「お、俺は深紗斗だ」


 この老人、村長だったのか。

 まぁ雰囲気的にそんな気はしてたけど。


「若者が馬鹿騒ぎしてしまって申し訳ないのぉ。あいつらなりに貴方様を歓迎しているのじゃが……」


「い、いえ。それよりこの馬鹿と何を取引したんです?」


 そう言いながら、俺はさとぅーの羽を摘んで目の前でひらつかせた。

 キーキーと虫女が叫ぶが、完全シカト。

 すると村長は言いずらそうに眉間にシワを寄せ、静かに目線を落とした。


「実は今晩、“魔物”が村にやってくるのです」


「へぇ……って、えぇえ!」


 俺の目が落ちるんじゃないのかってくらい見開く。

 だってそうだろう。外はもう日が暮れてるし、まさに今じゃねぇかッ。


「目的は、村の娘をさらう事でして」


「いいい生け贄ッ?」


「娘を差し出さなければ、村を焼き払うと……」


「ヤバいだろッ宴会してる場合じゃねって!」


「だから、貴方様に助けて頂きたいのです……」


 その一言に、俺の頭は真っ白になる。


 助ける?

 助けるって、その魔物から?


 無理無理無理無理無理無理無理無理ッッ。


 俺、暴力反対だもん。

 仮に戦っても絶対負けるって。

 完全な拒否反応を示す俺を無視して、老人は続ける。


「無理を承知でお願いしております。しかし、無理に魔物を倒さなくとも良いのです。ただ――……」


「ただ?」


「“生け贄の娘の身代わり”なって頂きたいのです」


 ……。

 …………。


 身代わり?

 今、このじぃちゃん“身代わり”って言わなかったか?

 聞き間違いじゃなくて?


「衣装の事ならご安心してくだされ。勇者様の最期に相応しい死装束きものをご用意致しますので……」


「えっ衣装とか別にどうでも良いけど。てか俺、死ぬ前提で備品とかの取引してる?」


「貴方様のような貧弱なお身体なら女装しても絶対にバレませんし……」


「うわぁ完全にシカトだし、つーか貧弱っていくら心の広いお兄さんでも軽く傷付くよ?」


「備品の件でしたらご安心下さい。棺の中に入れておくので」


「じゃあ安心だな――……って、納得出来るかボケェッッ!」


 ずぶしぃッッ。

 俺の凡人パンチが、老人の貧弱顎にミラクルヒットする。

 空中でイナバウアーしながら地面に着地する村長。フィギュアスケートなら金メダルあげちゃうよ。


「うわぁうわぁッ凡人さんが老人虐待してるぅ」


「……平和主義のキャラが自滅したくなるような取引かました虫に言われたくないな」


 耳元でブンブンと飛び回る妖精に、俺は舌打ちする。

 面倒どころか、危険過ぎる取引じゃねぇか。

 こっちは命がけなのに、その報酬が備品だなんて少し安すぎる。

 全く面倒くせぇ事になったな……。俺は一本縛り長髪頭を、ガシガシと掻き乱す。


「おい虫ッ」


「いい加減“虫”って呼ばないでよぉ」


「……旅の備品ってここじゃなきゃダメなのか」


「えぇッ備品いらないのぉ!」


 信じられないッと言わんばかりに食いつく虫。

 別に要らないって訳じゃない。ただ、この村の諸事情で命をかけたくないだけだ。

 備品ぐらいなら他の村でも何とかなるだろう。

 しかし、さとぅなりに何か考えたのか。右手で拳を作り、顔を緊張感で張り詰めている。


「でも旅の備品がないっていうのは、ハンバーガーのくせにケチャップとレタスしか無いのと同じなんだよッ」


「考えた説得がそれかよッ」


「てか、ケチャップとレタスしかないならただのサラダじゃんッ!」


「知るかッ」


 ガビーんっと、勝手にショックを受けているさとぅ。

 てか、例えがおかしいだろ。なんでレタスとケチャップなんだよ。パンかハンバーグ、どっちか残せよ。


「あ。でもそこにマヨネーズ足すとオーロラソースになるから楽しさ二倍だねッ」


「……んな裏ワザメニュー勝手にやってろ」


 なんで旅の備品の話から、こんなサラダの話に発展してんだよ。

 コイツと話していると、頭がこんがらがって来る。

 早いとこ結論を言おう。俺はよっこらと立ち上がり、障子に手をかけた。


「とにかくッ!」


 まだ一人でぶつぶつと呟く虫に、まだ宴会騒ぎする村人たちに、声を張り上げる。


「虫の言った取引は無効だ。あんたらの問題なんだから、よそ者に頼るな。俺はもう――……」


 シーン……。

 静まり返る宴会場。

 何やら殺気を感じた俺は、慌てて振り返る。


 さっきの温かい雰囲気はどこへやら。

 村人たちがゆらりと立ち上がり、ツボやら灰皿片手に俺を睨みつけてるぅうう!


「あんだけご馳走食っといて」


「取引は無効って話はねぇだろ……」


「あんちゃん」


「村人ナメてると」


「死ぬよ?」


 あわわわッ。

 一言いう度に、近付いて来る村人。

 俺は下がろうにも下がれず、障子にへばりつくしかない。

 そうだッこういう時こそ虫に助けを――ってアイツ腹抱えて笑ってるし!

 こちとら窮地なんだよッてかお前が蒔いた種だろうが!

 ちくしょう。こんな時ほど、笑顔で平和解決しかない。


「み、皆さん落ち着いてッ。まままず、鈍器を離しま――」


「取引を実行するのか」


「ここで殺られるのか」


「今、腹ぁ決めろ」


「ひぃぃいいッ!」


 うわぁッ。

 聞く耳すら持ってねぇ。


「さあさあさあさあ」


 ただでさえ距離が無いのに、村人は遠慮なく詰め寄って来る。


「さあさあさあさあさあさあさあさあ」


 もう顔が触れそうなほど近くなる。

 ヤバい。死ぬッ。


「さあさあさあさあさあさあさあさあさあさあッ!」


 ももももう無理ッ…・・・!


「わ、分かったよッやるから! 全力で“身代わり”になりますからぁあッ」


 今まで味わった事の無い殺気に、俺は負けてしまった。

 村人たちはその一言でケロッと陽気なテンションに戻って、歓声をあげながら宴会を再開しだす。

 命の危機から脱出した俺は、情けない事に腰を抜かしていた。


「な、なんなんだよ……」


 ぶっちゃけ魔物より村人の方が怖いんじゃないのか。

 ため息をつきながら障子に寄りかかると、そのまま縁側へと滑り落ちる。


「――――ッ」


 まっ外れたんだな。体重なんてかけたから。

 頭では分かっていても半でんぐり返り状態で、石に頭をぶつける俺ってなんだろ。

 もしかして虫と同類の馬鹿?


「違うよ」


 逆さまに見える虫が、ケラケラ笑う。


「“凡人さん”は“凡人さん”だもの」


 誉められてんだか、ナメられてんだか分かんねえ。

 俺はフンッと鼻息を荒げる。


「……そうだな」


 どうやら俺は神様に見捨てられたらしい。

 神様に見捨てられた凡人ってどんだけよ。


 でも、こうなったらやってやるしかねぇな。

 俺だって男だ。やるときは腹を決める。

 魔物がなんだッ凡人の底力見せてやる!


「腕の一本や二本持っていかれるかもしんないけどガンバレぇ」


 ……。


 …………。


 前言撤回して良いっすか。



オーロラソースって……美味しいですよね《オイ


小さい頃、良く食べてましたV(^-^)V


〜相方へ〜

こんな感じだけどよろしく頼むぜッ☆



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