第11話:不穏な動き
お久しぶりでございます。
この話はざしきのわらしが担当しました。
少々訂正しましたのでご了承して下さい。
“光”を嫌い、“光”を拒絶する。
“闇”を好み、“闇”に溶け込む。
人が光ならば魔は闇。
闇は人に恐怖、悲しみ、憎悪、怒りを与える存在。
光に交わろうとも溶け合う事も無い存在。
そう。人と魔は交わってはいけない。
交わるくらいならどちらかが滅べば良い。
あの“悲しみ”を味わうのは私一人で十分だから――……。
△ ▼ △
隷血城――周囲を森と凶悪な魔物で囲まれた魔王一家が住まう城。
外は快晴だというのにカーテンで締め切られ、廊下は薄暗さとじめじめとした空気が合わさり何とも不気味な雰囲気がかもし出されていた。
そんな廊下を足早に歩く人物がいた。
黒いコートを羽織り、フードの隙間から黄金色の髪が見えるだけで男か女かまでは分からない。
その人物は廊下で頭を下げる魔物達には目もくれず、ある一室の前で立ち止まる。
顔を少し上に向け、軽くノックした。
「父上、私です……」
『――入りなさい』
威圧感ある声が響いたと同時に、その者は扉を開ける。
そしてコートを翻し、父の前に膝を着いた。父はこの世界の魔物を統べる王だ、いくら親子といっても立場はわきまえなくてはいけない。
「久しいな我が息子よ……最近は何やら調べ物をしていたようだが」
「はい。その事についてお話がございます」
父の顔はちょうどカーテンの隙間から零れる光に照らされて良く見えない――が、微かに微笑んでいるようだ。
「ほぅ。お前はやはり優秀だな……話は分かっておる。“アレ”の事だろう」
「父上も気づいておりましたか」
「私を甘く見るな――最初はそんなに気にもしなかったが、どうやらそうもいかんらしいな。何か手は打ったのか?」
父は――否、魔王は手元ある水昌を布で撫でる。
我が息子ならば何か手を打っていると見透かしているのだろう。そして予想は的中していた。
「はい。サン・ガオスに第一種耐久性魔物を仕掛けました――が、上手くかわされてしまい……。それどころか仲間に加わり、戦争終結の為に動きだしたとか」
「ふはははッ面白い。お前もネズミ風情に魔物を仕掛けるとはな。だがネズミが魔物を手なづけ、戦争終結とは大きく出たもんだ」
「確かにそうですが、そろそろ目を付けておかねばならんでしょう」
「そうだな。駆除するべきだが、その分では一筋縄では行かぬまい。毒を盛るにしても、万が一その死体を食べた魔物が死んでしまっては笑い話にもならん」
「全く同感です。単体では問題はありませんが、どうやら“妖精”がからんでいるらしく」
「よ、妖精……だと?」
「はい」
魔王は顎に手を添えて固まる。
妖精という単語に何か引っかかったのだろうか。
「息子よ」
「はい」
「これは“アレの話”……だよな?」
散々話した挙げ句の果てに、会話の題材についての質問。
当然、彼は戸惑った。
「は、はい。“最近突如現れた(自称)勇者たちの話”ですが……」
そこまで言った途端、魔王の顔色が変わった。
沈黙の後、無理に笑い冷や汗を滝のように流す。
「えっ……あ、そそそそうだよなッアレと言ったらこの話しかあるまい! ふ、フハハハハ誤解するなよッ分かっておったが一応確認を――」
「……」
「……」
「……一体何と勘違いしてたんですか」
彼は思わずため息吐く。
完全に知ったかぶりをしてたとしか言いようがない。
「か、勘違いなんかしてないわッただ、ただ――」
「……」
「……最近、城に繁殖しているネズミ(本物)の話かと」
長い間があいた。
一瞬、状況を飲み込めなかった息子だったがハッと我に返る。
「貴方は馬鹿ですかッなんで私がたかが城のネズミの事でシリアス風に報告しなくちゃいけないんですか!」
「ま、魔王に向かって馬鹿とはなんだ馬鹿とは!」
「しかもネズミ駆除に魔物仕掛けるって、ゴキブリに隕石を落とすぐらいスケールでかすぎですよッ考えればわかるでしょ本当に貴方は馬鹿ですか、馬鹿をも超えたハイパー馬鹿ですか!」
「やかましいわああッッあぁそうだ私はただの馬鹿ではない、ウルトラメタリック親バカなだけだ文句あっか!」
「開き直ったよこの馬鹿!」
「黙れ小僧ッ父に逆らう悪い息子はこれでも食らえッッ」
「ちょッ父上最強魔法は反そ――……」
※誠に恐れいりますが作中が乱戦状態の為、しばらくお待ち下さい。引き続き『とりっぷ☆INふぁんたじー世界』をお楽しみ頂けますよう心よりお願い申し上げます※
「何……? 妖精が異世界から使者を連れて来た可能性があると」
魔王は華麗にコートを翻す。
「……はい。まだ未確認ではありますが」
息子は膝を付いたまま、その父を見上げた。
体中からプスプスと煙が出ているが、ツッコミは受け付けない。
「ふん。妖精め……人と魔は交われないという事をまだ理解していないようだな。交わりは憎しみしか生まん、それ以上もそれ以下もない」
「……父上、平然と話を進めていますが今までの事はカットした前提ですか」
「それに――」
魔王が見下ろした先には先程の水晶。
その中には勇者には相応しくない、いかにも弱々しく覇気の感じられない一本縛りの少年が写しだされていた。
「こんな見るからに貧弱な男が、妖精が選び抜いた勇者だと? フハハハハ笑わせるな」
「……私は貴方の腐った根性に泣けてきます」
魔王は拳を高々と持ち上げ、水晶に振り下ろした。
ガシャンッと一気に床に散らばるガラス片。
それは微かに輝き、薄暗い部屋の中は星空の如く。
「……全く、笑わせるな。こんな男に何が出来る、こんな男が我らの争いを――憎しみの連鎖を止められるとでも言うのか」
そういう魔王の拳は微かに震えていた。
水晶で切った傷口から、赤き血液がポタポタと床に垂れる。
「――我が息子、魔王の力を受け継ぎし子よ。この一件はお前に任せた」
「わ、私に?」
「お前の目でその男の器量を見て来い。“百聞は一見にしかず”とは良く言うだろ――話はそれからだ」
魔王は自分の血を見つめる。
人と同じ、赤い血。
魔王は拳を自身の目の前で、力強く握ってみせる。
その瞳に映るは憎しみ――否、悲しみ。
『(自称)勇者よ、止められるものなら止めてみよ。この戦い――部外者にはどうする事も出来ないという事を私自ら教えてやる』
△ ▼ △
…………。
……ぶぇっくしょん。
うぅ寒いぜコンチクショウ。
俺は奥歯をガチガチと音を鳴らし、体に突き刺さる寒さに堪える。
ぶっちゃけ晴れてるからそんな寒くねぇだろって言うふざけた奴――とりあえず消えろ。
こちとら地界から再び薄暗い森に逆戻りだぜ?
あそこは温暖だったから余計かもしんねぇけど、地上が凄く寒く感じる。
まぁ当たり前か。そういう俺の体はビチョビチョに濡れてんだから……。
「もう軽く妖怪になってるよぉーコケがめっちゃ垂れてるよぉーなんか歩き方ももの○け姫のデイダラボッチみたいだよぉーもはやツカエーナイ“あの黒いドロドロに触ると死ぬぞッ”形態だよー」
「だあぁぁああウゼェッ分かりきってる事言うんじゃねぇ。てかなんなのお前ッジ〇リファンなんですか宮崎さんは異界にまで勢力伸ばしてんですか!」
相変わらずハエのようなウザさで飛び回るさとぅー。
確かに俺の髪も体もコケだらけで歩く度にコケと雫が落ちる。まんざら嘘でもないのが余計に腹立つ。
「さとぅーそこはちっと違うべぇ。ツカエーナイ“その緑色のドロドロに触るとめっちゃ生臭いぞ”形態に訂正だべッ」
「あ、そっか!」
「納得すんな虫ッつーかケルも生々しく訂正すんな! 俺イジメられちゃうからッ!」
なんでケルまでジ〇リネタ知ってんだよ。
「さとぅーにもの〇け姫の絵本を借りたべぇ」
まさかの絵本での鑑賞かよッ。
てか、さとぅーってジ〇リ本当に好きだよな。俺を拉致る時もラ〇ュタネタ言ってたし……どっから仕入れて来るのか知らねぇけど。
すると、俺の後ろにいたチィが急に俺のバックを引っ張る。
うぉッ何だどうした!
「ごめんなさい……深紗斗さん。私のせいでそんなビチョビチョになって、長い髪もコケのせいでノリの養殖みたいになって、おまけに人の命を吸う化け物になっちゃったなんて――もう私、どうしたら良いのか……!」
「何気に一番ヒドい言われようだけどワザとじゃないよね。コレ計算だったら泣いちゃうよ俺」
なんかチィの言葉が一番胸に突き刺さった気がするのは俺だけかな……。
そんな事より何で俺がこんなビチョビチョのコケまみれなのか知りたいだろ?
あれはそう。地界脱出時の事だった――……。
▲ ▼ ▲
『ケル、お前どうやって登るんだ?』
俺は遥か遠くに見える、地上の光を眺めながら何気なく聞いた。
ケルなら登れるっていうのは聞いたけど、どうやって登るのかなんて分かんなかったし。
『どうやってって……普通に登るだけだべぇ!』
『そりゃあ俺だって分かるさ。だけどそれじゃあお前一人しか上がれないだろ? さとぅーは飛べるから問題ないとして……俺とチィをどうやって運ぶんだよ』
『だ、大丈夫だべッ深紗斗の神法で元の姿に戻れば――』
『ふんんんんッ』
『ゲブホッ!』
俺の拳がケルの顔面に食い込む。
てめぇ、俺が前話で言った事を忘れたのかよ。
ぴんぽーん♪
――A.俺の神法は一度しか使えません※重要事項※
てか前話で確認したじゃん。一応重要事項なんだから覚えようよ。
そんな訳で地界脱出作戦が穴だらけという事が判明したんだ。しかも出発直前に、だ。
そこで急きょ新たな作戦が立てられた。
その名も――
《KIH》作戦だ。
アルファベット表示なのはあまり意味はない。
まぁコレは《ケルちゃん岩ゾリで運んで作戦》の訳だ。ダッセェとか言うなよッ。
内容は単純。岩ゾリは地界の人達に譲ってもらって、そこに俺とチィが乗る。
たったそれだけ。
一応、ケルに俺達と岩ゾリを合わせても確実に二百キロは超える……と言ったが大丈夫だそうだ。
まぁ、奴はドMだからな。
そんなこんなで作戦が決行されたんだけど……うん。何も起こらない訳が無い。
『おっしッ行くべぇ! しっかり岩ゾリに掴まってけろッ』
『おうよッいつでもいいぜ!』
『はいッ』
俺とチィは地界特性の岩ぞりにしがみつく。
次の瞬間――見えない手に引っ張られるように体が後ろへ叩きつけられた。
す、すっげぇ遠心力……ッ。
『体中のドMよッオラにチカラをぉぉぉぉぉぉ!』
『なんつー恥曝しな掛け声で登ってんだお前ッ!』
後ろに乗ってる方が恥ずかしいわッ。
だが、ドMパワーは凄いと思う。
砂埃を立てながら一気に穴を駆け上る。効果音を付けるならまさに“ずどどどどッ”って感じだな。
『うおぉぉぉぉぉ登り終わったら深紗斗の熱いキッスぅぅぅうう!』
……。
……何か聞こえたような気がしたけど気のせいか。
『深紗斗ぉおッ』
『何だよ』
『オラに“さっさと登りなッこのダメ犬が!”って言ってけろぉッ』
意味分かんねえよ。
『深紗斗のドSさがオラにチカラを与えるべぇぇぇ!』
『もう誰かこの子止めてー精神科紹介してあげてぇぇ!』
完全に危ない子だよねッ。
穴を登る以前に危険な所に登ろうとしてるよねッ!
それはそうと、地上の光が一気に大きくなり始めた。
出口が近い。そして脱出する時が一番危ない
『チィ、ソリにしっかり掴まってッ投げ出されるぞ!』
または横転する可能性もある。
『は、はいッ』
チィはソリにしがみつき、リュックをギュッと抱き寄せた。
最初は豆粒のような光も、今では俺たちを大きく照らしている。
森の景色が見えてきたッ。
『どぉりゃあああッ』
ばしゅっ。
ソリが穴から飛び出し、宙に舞う。
――……ってッ!
『いぎゃぁあああッ飛びすぎ飛びすぎぃぃ!』
木々を優に飛び越え、地上から遥か遠い所を浮かんでる俺達。
てか、どんだけスピードだしてんだよッ。
『空飛んでますよ深紗斗さんッ』
チィ、呑気すぎぃぃッ。
危機感持ってッ下手したら死ぬから!
『燃え尽きたべぇ……真っ白にな』
ケルぅうッ。
燃え尽きんな最後までやりきろよ馬鹿!
だが、そういうケルはマジで体の力を抜いてしまった。
ソリと繋がれたロープで何とかはぐれていないが、このまま落下したら危険すぎる。
『……んの馬鹿がッ』
『みみみ深紗斗さん!?』
俺は片手を離し、ケルに繋がれたロープを引き寄せる。
とりあえずケルをソリに乗せようッ。そうすればなんとかなるかもしれ――。
『お……うわぁッ』
ガクンッ。
急降下を始めたソリ。
俺はケルをソリに乗せたと同時に、ソリから手を離してしまった。
……。
…………。
逆に俺がなげだされたぁぁああッ!
『死ぬぅッ慣れない事した俺が馬鹿だったああぁ!』
ソリの上を飛ぶ(落下する)俺。
てかケルって魔物の中でも丈夫な種族って言ってなかったけ?
……。
馬鹿だ。
自分でも思う、やっぱ馬鹿だ。
『深紗斗さんッ今助けます!』
『ち、チィ……!』
チィが両手を俺の方に伸ばす。
こんなシーン、ジ〇リであったよ。
ラピ〇タだっけ? 魔女の宅〇便だけ? 千と〇尋の神隠しだけ?
多分あった。若干似たようなシーンが。
やってみたいとは思わなかったけど、そのシーンに少し憧れていた俺は内心ドキドキしていた。
充分、呑気だよな俺も……。
俺とチィの手が触れる。
俺とチィの視線が交差する。
これで後は引いてもらえば――。
『はああぁぁああああッ』
――ドガガガガガッバキメキ。ずぽーん……。
▲ ▼ ▲
「……そんな訳で。ツカエーナイはチィの馬鹿ヂカラによってソリの前頭部分に叩きつけられ、地面をスリップして尚も止まらず木をなぎ倒して最終的に近くの沼に落ちた――って訳ね☆」
「“――って訳ね☆”じゃねぇだろッなんで俺の回想シーンにお前が割り混んできてんだよ!」
俺の耳元でウィンク飛ばすさとぅーを、思い切り叩き落とす。
まぁ、そういう事だ。後半意識失ってたから良く分からないけど。
でも死は覚悟したよ。マジで三途の川見えたもん。
「てか私思うんだけど《KHI作戦》って言い換えると《高確率で瀕死になる命掛けの作戦》だよねぇー」
「くっそ……さとぅーにしちゃ上手い」
でもとりあえず無事に済んで良かったよ。
つーか思ったんだけど、なんか俺って魔王と交渉する前にコイツらに殺されそうじゃね……?
すると横を歩いていたケルがいきなり顔を上げて、臭いを嗅ぐような仕草を見せる。
「食い物の匂い――あと人の匂いもするべぇッ」
「ケルちゃん。それを言うならコケの臭いの間違いでしょ」
「……さとぅーお前マジで絞め殺すぞ」
俺だって気にしてだよッ。
好きでコケ引きずってる訳じゃねぇんだよ。
すると、チィも何かに気付いたようだ。
「人の歓声も聞こえます。近くに村があるのかも」
言われて見れば――そうかも。
人の歓声と何やら楽器の音が聞こえる。
多分、この近くに村があるんだ。
「――よしッ先を急ごう!」
俺はズボスボと鈍い音を立てながら森を走る。
新しい村でシャワー借りられるかな……。
俺はコケを引きずりながら、歓声の聞こえる方へ急いだ――。
△ ▼ △
“ホーリーオリンポス”
それが、この街の名前らしい。
最初に訪れた村や地界と違い、ここは鎧やら剣やら武装している人々が多い。
外装も綺麗で、中世ヨーロッパ風の建物が多く並んでいた。
ぶっちゃけ街の入り口で立ち尽くす俺達は、明らかに場違いだ。
「うっげぇ……筋肉馬鹿で溢れかえってやがる」
「ここはホーリーオリンポス。人間側の王家に認められる為に強さを競う闘いの街ねッ」
「えっ。それってつまり――」
魔物を倒す為の人材をスカウトする街、って事なのか。
……。
……………。
複雑な気持ちになるのは俺だけだろうか。
も、もちろん俺だって魔物は怖いよ 。だけどこの間の火龍とか、今隣にいるケルとか見てると――。
「深紗斗さん、どうかなさいましたか?」
「えっあ、うん。なんでもない」
いかんいかん。自分の世界に入ってた。
するとさとぅーが俺の肩に止まる。
「大丈夫よん、今は一応休戦状態だしね。とりあえず今は筋肉馬鹿によって行われる“強者決定戦”しかやってないわ」
「お前……」
「凡人さんの考えてる事ぐらいお見通しでござぁる!」
コイツは全く読めない奴だ。
ウザイけどウザイなりにちゃんと理解している。
それは周囲の状況ってよりは、人の心に関する事かもしれない。
まぁロクな事しか読まないけど……。
「それじゃあ今日の宿を探そっかッ」
「――おうッそれもそうだな」
早くコケを洗い流したいし。
「だけどさとぅー。宿に泊まるにしても金が足りないべぇ」
……え。
「確かに……。だってさとぅーさんとケルさんは無賃だとしても、私と深紗斗さんの二人で最低二万ペタかかりますし」
……えっ。
「あららーでも出発地点でもらったお金は三千ペタ。ポ〇モンの旅立ちと同じねッ」
「ははは……ちょっと待てよ」
「だって今まで私達ずっと街の人にたかってたもんねぇ」
確かにそうかもしれない……けど。
「使えねぇええええッ!」
てか俺達って何気に貧乏生活じゃねッ?
今までVIP待遇だったから気付かなかったけどやってる事かなりセコくねッ?
「だって“あんまりツカエーナイ”だもの」
「ツカエーナイ言うなッてか微妙なランクアップするなって言っただろうが!」
てか前にこんなやり取りなかったっけ……。
てかもうヤダよ。
出発早々に沼へ落ちるし、宿を決めるにも金は無いし。
どんだけツいてないんだよ。
どんだけ神様に嫌われてんだよ。
そんなツイテーナイの前に出されたのが一枚のチラシ。
……嫌な予感がするのは俺だけでしょうか。
「むふふッお金がないそんなアナタに朗報!」
「……」
「ななななんと、偶然にも本日強者決定戦が開催され優勝者には百万ペタッ」
「……」
「参加者開始直前まで募集中!」
「……」
「参加者開始直前まで募集中!」
「……」
「……」
「絶対嫌だぁああああッ」
「言う事ためてそりゃあねぇよ深紗斗の旦那ぁー」
だって意味分かんねぇもん。
痛い目見るの確実に俺じゃん。てか、あんな筋肉馬鹿共の頂点に立つだって?
無理無理無理無理無理無理無理無理無理ッ。
だって俺、暴力反対だもん。
その前に一発殴られたら即アウトだから!
「深紗斗なら出来るべぇッ“オラ何も出来ないけど応援ぐらいなら出来るわ”」
「お前は黙れドM犬ッ」
他人事だと思いやがってぇえ……!
「凡人さん、それでも勇者なのッ勇者には必ずこういったお金と経験値を稼ぐイベントがあるのよ! ポ〇モンを一からやり直しなさい必ずあるからッ」
「俺は勇者じゃありませーん極悪ぼんやり凡人・ツカエーナイですぅ」
「都合の良いときだけツカエーナイを名乗ってるよこの人!」
「てかポ〇モンなら初代“赤”から“ダイヤモンド・パール”まで持ってますぅ。そんな法則性ぐらいとっくに気付いてるわボケ」
「うわぁー歴代のポケ〇ンファンだよこの人!」
知ってるからこそ嫌なんだよ。
そういうのって絶対強い敵出るじゃん。特に最後。
すると隣にいたチィが拳を握り締める。
えっ何。異様に目が輝いてるんですけど。
「じゃあ私が深紗斗さんの代わりに大会に出ますッ」
……。
……はい?
「だってスッゴク楽しそうじゃないですかッ旅の資金も調達出来るし、何より地底界でのお礼していなかったですし」
「い、いや……だってめっちゃ危険だよ。そこら中に筋肉馬鹿がいるんだよ? 肉か魚のどっちが良いかと聞かれたら迷わず“肉”って答えるような猛獣しかいないんだよッ」
なんかパニクり過ぎて何言ってんの分かんねぇよ俺。
でも女の子がそんな戦いの場に出るなんて俺の心が男の恥だと言っている。
「じゃあ私エントリーして来ますねッ」
「ちょっ――待って待ってチィ!」
一人どこかへ行こうとするチィの腕を慌てて掴んだ。
細い腕。まぁ馬鹿ヂカラだけど、この子は一人の女の子なんだ。
チィは不思議そうに首を傾げた。
「深紗斗さん?」
何かさとぅーの思い通りになっているようで気に食わないが仕方ない。
「……俺が出る」
「えっ」
「凡人さん出てくれるのぉ!」
驚きの表情を見せる一同。
これは期待されているのか、それとも心配されているのか……。
俺は顔を反らす。
「チィに怪我をさせる訳にはいかないだろ……確かに何の力も無いがこの街のエネルギーを溜めれば神法が使える。勝ち目が無い訳じゃないだろ」
「でも……」
「大丈夫。ホラ、俺ってやれば出来る奴だからさ」
チィを心配させないようにと、俺は頭を撫でてやる。
そうだ。勝てば一気に旅の資金については心配いらなくなる。
前向きに行こうッ。
痛みの後には快楽が待っている――ってなんか俺がドMみたいじゃねぇか!
一人頷く俺の隣でチィがボソリと呟いた。
「でも私、あの人たちの筋肉を間近でみたいなぁ……」
……。
……俺は何も聞いてないぞぉ何も知らないぞぉ。
この続きを聞いてはいけない。そう思っているのに、残酷な一言は吐き出された。
“「私、ガチムッチョな人に凄くあこがれるんです」”
ガハッ。
俺は思わずその場に倒れこむ。
そんな馬鹿な……。ありえない……。
「ツカエーナイッ精神的に一万ダメージ、ツカエーナイ瀕死した!」
「オラがいるべぇ……げふふふ」
この致命的な一言を放たれた状況に、さとぅーとケルが肩を震わせて笑いをこらえていたのは言うまでもない。
……恵まれない。
※後書き※
もはや明けちゃいましたがおめでとうございます《笑
前話で相方が挨拶しておりましたが、今年もよろしくお願い致します。
余談ですが深紗斗が持ってるポ〇モンシリーズは“ダイ〇モンド&〇ール”となっていますが、彼はソウ〇シルバー&ハード〇ールドが発売された事をしりません《笑
もし無事に元の世界に帰ったら歴代ファンとして落ち込むんだろうなぁ←どうでもいい
今回の話、伏せ字やアナウンスが入ったりと滅茶苦茶で申し訳ありませんでした《汗
なんか自分の中で何かが外れたんですよね多分←
相方の影響だな……《ぇ
~相方へ~
好き勝手やりましたごめんなさい(棒読み)
こんな感じなんで次話も頼んだぜぃ☆