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第9話:深紗斗 VS 火龍

前々話では大変失礼いたしました。

今回はビッチリ書かせて頂きましたので、どうぞお楽しみください。

では改めましてご挨拶を。

今回の話はざしきのわらしが担当させていただきました。

 前回より必然的に魔物VS俺の戦いが始まってしまった。

 肩から肘にかけて走る赤き亀裂。動く度にズキリと鋭い痛みと共に血がにじんだ。

 今までの俺なら怪我の手当てもしないでこんなとこに立っているなんて考えられないな。

 じゃあそんなツカエーナイがなんでバトル参戦してるかって?


 それはまぁ……大切な子を守りたいから。

 あまり他人に興味を持たない俺が、弱虫ですぐに現実逃避する俺が、こうしていられるのは――……。


 俺にも“友達”と言える存在が出来たから。




 △ ▼ △



 ごぉぉぉぉおおおおおお。


 まるで心臓を圧迫するような震動を立てて、魔物は低い咆哮をあげる。

 その咆哮は俺の頬と共に恐怖心を逆撫でた。

 腕もチィの前では強がってみたが痛いもんは痛い。

 同時に戦ってやるとは言ったが怖いもんは怖い。

 あのピンクのミニスカ衣装から覗く俺の脚は情けないくらい震えて――ってあれ?


「なんでこんな丈が短いんじゃああぁぁぁぁッ!」


 お、おま……ええええ!?

 必死で今まで気づかなかったけどッ!

 前回着たときこんな短くなかったよッ。ちょっとスネは見えてたけどこんなパンチラ寸前……自分で言うのもなんだけどスネ毛が見えてキモイよッッ。殺人行為だよ!

 まぁ女装している俺も惨めだが、もはや変人だよ。

 アレだな……。

 分かっていると思うが、こんなイタズラすんの“アイツ”しかいねぇ。


「さ、さとぅー。てんめぇ……」


「わぁー凡人さん可愛いッ。でも切ったのは私じゃなぁいみたいな!」


「はッ!?」


 お前じゃないって、他に誰がやるっていうんだよ。

 他にこんな茶目っ気超えた悪戯する奴なんて……。


「やっぱオラの目に狂いは無かったべぇッ」


 ……。


「け、ケル。まさか」


 俺の隣で頷くどM犬。


「オラがコーディネイトしてあげたべぇ。やっぱこういう衣装は丈が短い方が萌え――……」


「ふざけんなこらぁあッッ!」


 本日二回目の鉄拳がケルに食い込みましたぁ。

 当の本人(犬)は『ゲフッ』と地面に食い込んだ。

 何やってくれちゃってんのよケルちゃん。ナメてるとマジで磔にすんぞ。


「ダメだよぉ。ケルちゃんにとってそんなのご褒美にしかならないよー」


「そりゃそーだ……」



 もう心を読むお前にツッコミは入れないよ。

 

――ぐあらぁぁあああッ。


 おっ。魔物さんも怒ってるよ、開始からシカトし続けてるから。

 足をバタバタさせて今でもモヤシ畑に侵入しそうだ。

 いい加減バトルしないと本気でヤバそう。


「み、深紗斗さん……」


 俺の背後で呆然と背中を見つめるチィ。

 彼女は俺の女装姿をどんな気持ちで見つめてるんだろう。変態野郎とか女装趣味とか思われたかな……。

 でもさ、決めたんだ。


「チィ……。今は俺に対するツッコミは聞く時間は無い」


 本当は聞く勇気が無いだけだけど。


「でもチィの大切なモノは俺にとっても大切なモノなんだ。だから俺は、ソレを守る為に戦いたい」


「み、さと……さん。どうしてそこまでして――」


 男ってつくづく面倒な生き物だと思う。

 直ぐに強がって、本当はチィを抱えて逃げ出したいけど……。

 俺はさまざまな想いと傷ついた左腕をギュッと抱え込む。


「キミは“大切な仲間”だから」


 “何かを守りたい”。そんな気持ちが先に出てしまう。

 だから俺はもう振り返らない。振り返ると逃げ出したくなるから。


「――――ッ。チィ、今すぐここから離れるんだ! それから地底界の偉い人に危機を伝えて指示を仰いで」


「そんな事したら深紗斗さんはッ」


 俺は返事の代わりに、魔女っ子ステッキを力強く握り締めた。


「行くぞさとぅー、ケル!」


「はぁい」


「了解だべぇ!」


 俺たちの力を合わせれば、きっとどんな敵も倒せる。

 仲間の強さを、絆を、チィに見せてやるんだ――……。




 △ ▼ △




 そんなこんなで俺たちは苦戦しながらも魔物に勝ったのであった。


「…………」


 ……。


「ちょっと凡人さん。何都合よくバトル飛ばそうとしてんのさぁ」


 さ、さとぅーの視線が痛いぜ。


「あ、アレだよお前。読者世界とこっちの世界は時の流れは違うのさ。だからあっちじゃ一秒くらいでもこっちじゃ……」


「あっちこっちを理由に上手く逃げようとしてるべぇ!」



「“△▼△”を上手く使って誤魔化しちゃダメよ凡人さん。それじゃツカエーナイからセコイーネに進化じゃんッ」


 でもツカエーナイよりセコイーネの方が使えそうじゃねぇか。


「へ理屈言うじゃありませんッ」


 ぺしこっ。さとぅーが俺の頭を叩く。

 だが今の俺には叩かれた事なんてどうでも良い。

 魔物はやっぱり大型トラックより一回り大きい巨大な龍。皮膚は赤い鱗に包まれ、炎を纏う手足。何より威厳名な顔立ちが近くにいる者に恐怖心を植えつけた。

 呼吸するたびに鼻から火の粉が噴出している。

 こんなポ○モンとかいそう……。


「これは“火龍かりゅう”ねぇ。別名・サラマンダー」


「さ、サラマンダー?」


「火を操る魔物。火の神としても恐れられている。確かに火山活動の活発な地下で眠ってるって聞いていたけど、人嫌いで有名なサラマンダーがなんでここに……」


 うーんと首を傾げるさとぅー。

 お前が知らない事は俺に分かるはずがない。

 だけど俺の直感がコイツはケルみたいには行かないと言っている。

 だってさ――……。


「コイツめっちゃ殺意剥き出しなんですけどぉおおッ!」


 こっちが攻撃する前に火を纏った牙を俺たちに向けてきた。

 俺は間一髪横にずれられたけど、これは間違いなく殺される。


――がるるるるぅう……。


 めっちゃ唸ってるもん。

 赤い眼ギョロギョロさせてるもん。


「やっぱ俺ムリィッ帰るお家に帰るぅううう!」


 振り落とされる尻尾からも必死に逃げ回る俺とさとぅー。


「何よッさっきまでカッコつけてたくせにー」


「バトル飛ばす気だったから少し時間を稼いでたんだよッなのに何だこの状況は。作者は何考えてやがる!」


「キレる所そこッ!?」


 あ、さとぅーがまともなツッコミをした――って、今はどうでも良いッ。

 俺の脳内ラ〇フカードは三枚。


 一番『戦う』

 二番『逃げる』

 三番『死んだふり』


 どうする俺。どうするよッ。


「んで結末は、一番『立ち向かうものの炎を吹かれて死亡』・二番『チィに冷たい目で見られて精神的に死亡』・三番『そんなガセネタ信じてるのっと世間の目から抹殺されると共に魔物に踏まれて死亡』」


「“続きはWebで”なんて言えねぇじゃんッ“続きはあの世で”じゃん!」


 特に三番ヤダよ。精神と肉体が両方やられて死亡じゃんかッ!

 てか、俺の〇イフカード自体ろくなもんが無い……。


「深紗斗、甘いべぇ。あの世で選択するのは“三途の川”と決まってるべぇ」


「嫌だよそんな選択ッ!」


 何コイツ。なんて不吉なツッコミしてんの。

 俺に三途の川を渡れってか?


「てかお前まで何逃げてんのッ戦えよ!」


「オラあんまり戦いは好きじゃないしぃ……」


「何言っちゃてんのッ何可愛い子ぶってるの!」


「仮に戦うとしても今のままじゃ無理だべぇ。深紗斗の魔法を解かなきゃ力も出せないべ」 


 そ、そっか。俺が魔法を解かなきゃこいつは元の姿に戻れないのか――って。


「先に言えよお前」


「今言ったべぇ」


 なんかムカつく。でも俺も魔法が使えるのすっかり忘れてた。

 変な呪文は嫌だけど『目には目を。歯には歯を』っていうしな。

 ここは魔物同士の戦いにかけるかッ。


「り、リリカ……」


「ちなみに魔法は一回の補充に対して一回しか使えないからぁ気を付けてねー」


 ……。

 …………は?


「だぁかぁら。“一回しか使えないの”」


「……マジ?」


「マジ」


「はぁああああッマジ使えねええぇ!」


「だってツカエーナイの魔法ステッキだもん」


「意味分かんねぇよッ」


 じゃあ、もしケルが負けたら完全にアウトじゃねぇかッ。

 あたふたしている間にも火龍は、重たい体を引きずるようにしてモヤシ畑に侵入しようとしている。

 てか完全に俺ら無視してるじゃん!


「――ヤバい! チィのモヤシ畑が」


「凡人さん、アレをみてッ」


 さとぅーの小さな指先。それはモヤシ畑の更に奥を示していた。

 赤く輝く大きな水晶――いや、火の塊というべきか。


「ま、まさかアレが」


「多分、チィが言ってたマグマエネルギーの核じゃないかなぁ」


「なんでそんなのがモヤシ畑にあるんだよ!」


「モヤシの成長を早めてたとか、チィの怪力なら安心だとか……」


 うん。前者であることを願おう。

 それはそうと火龍の狙いは最初からマグマエネルギーだったらしい。でもモヤシ畑がたまたま通り道になっちまったって事か。

 仮に悪気はなかったとしても、許すわけにはいかない。

 俺は魔女っ子ステッキを握り締め、立ち上がった。


「ようするにマグマエネルギーを食べたいってか?」


「多分そうかもしんないねー」


 ならば……っと、俺の頭に浮かぶ作戦。


「――なら、任せろっ」


「ぼ、凡人さ……深紗斗!」


 さとぅーが俺の名前を呼ぶが、完全に無視。

 俺は地面を蹴り、魔物目掛けて全力疾走する。


「――お客様。地底界へようこそ」


 魔物相手に何を言ってるんだ俺は。

 ぶっちゃけ怖い。だって俺は何処にでもいるような凡人だぜ?

 普通なら逃げてる。

 だけど――。


「まず“観光地マグマエネルギー”をご見学前に、ご当地名物で仕上げたモヤシスープなんていかがですかぁッ?」


 俺の馬鹿げた言葉に魔物が振り返る。

 コイツはチィの居場所を壊そうとした。

 コイツはチィを泣かせた。

 俺はステッキを頭上に掲げる。

 奴は大きな口を開き、空気を吸い始める。


――――今だッ。


「リリカル☆マジ狩る★ステッキにある全マグマエネルギーよ、モヤシスープになーれっ☆★」


 ……。


 …………。


 ………………。


 がぁあああああッ覚悟はしてたけどまた唱えちまったああああッ!

 耐えろ深紗斗。今は魔物を倒す事だけを考えろッ。


 トゥルルルルル~~ン♪


 ぐああああ。理性をもついばむムカつく効果音がまた流れたああ。

 冷静を保て俺ッ。辛い気持ちは分かってるから俺が一番分かってるから!

 火龍はまさに火を吹こうとエネルギーを溜めている。刺激的な橙色が喉の奥から光となって溢れ出す。


「ちくしょおおおッ」


 ぽんっと出てきた一般サイズのモヤシスープ皿を持ち、水平に構えた。

 お前のせいだ。お前のせいで俺は再び変態染みた事をやる羽目になったんだぞ。

 凡人をなめんなぁあ。


「必殺・お残しは許しまへんでええええぇぇ!」


 フリスビーの如く、魔物の口の中へもうスピードで飛び込んで行く皿。

 俺の渾身の忍たま最強攻撃は、たわいなく火龍の口へ命中した。

 ふッ。無駄に幼少時代一人フリスビーやってねぇんだよ。


「終わったな……」


 ゴクンと、飲み込む生々しい音。


「火龍。お前、相当体温高いだろ。じゃなきゃ身体に火を纏うはずがない」


 火龍はピクリと身体を震わせる。


「ちなみに“水は急激に温度を上げると爆発する”らしい。しかもお前が食べたモヤシスープはただのモヤシスープじゃない。“マグマエネルギーの塊”だぜ?」


 俺はニヤリと口元を緩ませた。

 勝敗あったな……。


 火龍の腹からボフンッと響く爆発音。



――――ぎしゃややああああああ!




 △ ▼ △




「すっごいすっごい凡人さんッ」


 まだ興奮のおさまらない俺の周りを、さとぅーがハエのようなウザさで飛び回る。


「なんか見直したよぉやれば出来るじゃん!」


「ま、まぁな。余裕だぜ」


 そういう俺の足は震えてるけどな。

 まあ周囲は魔物の口から溢れる水蒸気に包まれてるから見えないだろう。

 てかやっべぇ……調子にのってたら傷口開いたかも。泣きそうなぐらい痛い。


「俺、こう見えても勉強はそこそこ出来るっていうか――……」


「これからはツカエーナイじゃなくて“あんまりツカエーナイ”に改名しなきゃねぇ」


「するなッ何その微妙なランクアップ!」


 全く。ろくなもんじゃねぇな。

 でも何とかなって良かったわ……。だってこんな化け物に本気で勝てると思ってなかったし。

 口からモクモクと煙を煙を出しながらのびる火龍を見てほっと一息。


「それより深紗斗ぉ。コイツはどうするべぇ?」


 くんくんと火龍の匂いを嗅ぐケル。

 どうするって……いわれてもな。


「まぁ、もう二度と悪さが出来ないようにとどめを……」


「やめてえぇッ!」


 いきなり響く横殴りにするような悲痛な叫び。

 振り向けば小さな女の子が息を切らしながら立っている。

 炎のように赤い髪。赤い瞳。発達した犬歯。

 なんだこのガキ。地底界の子供か?


「えっと……君は誰?」


「わ、わたしは……その」


 言葉を濁す少女。

 同時に浮かぶ疑問。


「なんか怪しー」


「というか火龍が何をしたか分かってるべかッコイツは地底界を荒らそうしたべぇ」


「ケルちゃん、あんたも人の事言えなかったでしょ」


 さとぅーとケルが好き放題言っている。

 でも、俺は少女に釘付けになっていた。

 さっきから気になっているんだ。

 “なんで俺は彼女の容姿が見えるんだ?”

 確かにマグマエネルギーの明かりもあるが、そんなに明るい訳でもない。

 うっすらと見えても、色の判別は難しいはず。


「凡人さんも何か言いなさいよ――ってなぁに女の子に見とれてんのッ」


「深紗斗がロリコン趣味だなんて神様が許してもオラは許さないべぇ!」


「お前ら……あの子おかしいぞ」


「「はぁ?」」


 馬鹿コンビもようやくその異変に気づいた。

 そう。おかしいんだあの子。


「“なんで体が光ってるんだ?”」


 体の表面がほんのり輝き、周囲を照らしてる。

 まるで小さな太陽のように。


「きっと服の中に人間界の必需品・怪獣電灯を入れてるのよ」


「黙れクソ虫」


 それいうなら懐中電灯だ。なんだよ怪獣電灯って。

 使うとしてもウルト○マンぐらいしか使えねぇよ。

 俺たちが馬鹿やっている間に、女の子がポツリと何かを呟いた。


「……いで」


 はい? なんて言った?


「“お母さん”をもういじめないでぇぇえ!」


 “お母さん”……?

 誰が、お母さん?


――ゴォォォオオオオオオオオオオ


 背後に感じる熱気。いや殺気か。

 俺を覆うデカイ影。

 まるで腹の底をえぐるような低い唸り声。


「おいおいおいおい……冗談キツイぜ」


 俺は腹を決めて振り返る。

 上半身を高々と上げて俺たちを見下ろ火龍。

 わぁお。こりゃ完全に怒ってるね。

 やっべ。足がすくんで動けねぇ。

 ツゥーっと伝う嫌な汗。


「あわわわわヤバイよ凡人さんッ」


「だな」


「早く逃げなきゃ――ってうわぁ!」


 俺の一番近くにいたさとぅーを握り締め、投げ飛ばした。

 同時に迫る火龍の顔。


「凡人さんッ」


 さとぅーが叫ぶ。

 でも俺はもう無理だ。男なら最後ぐらい腹決めるさ。


「凡人さん逃げてよッ凡人さん――深紗斗おおおぉぉぉぉおお!」


 迫り来る熱気。

 俺は次に来る衝撃にそっと目を閉じた――……。





「さて次回主人公交代ッ新しい連載『ちゃめっけ妖精★さとぅー』をよろしくねッ」



……やっぱコイツ、道連れにすればよかった。


深紗斗、絶体絶命ですな……。

いったい次話はどうなるやら。なぁ芭瑠堵よ(笑)


てな訳で芭瑠堵、続きは頼んだぜ!

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