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7話

「ごちそうさま。おいしかったよ」

「はい。お粗末様です」


 結局着替えて食卓についた獅子野さんが特に何かを言ってくることはなかった。

 昨日と変わらず、おいしそうにご飯を食べて終わりだ。


「あの、獅子野さん。嫌いなものはないって聞いてますけど好きな食べ物は聞いてなかったので何が好きですか?」

「好きなものか……大雑把に言えば肉がいいな」

「肉ですか」


 そういえば作ったものは魚が多かったのでそろそろ肉にしよう。


「できればガッツリで」

「ガッツリ……わかりました。任せてください!」


 確かにバリバリ働いているのだから、そういったもののほうがいいだろう。


「悠里君の料理はおいしいから期待してる」

「ありがとうございます。期待しておいてください」


 褒められて悪い気はしない。


「あぁ、そういえば洗濯物はどうしましょうか?」

「どうとは……?」

「あ、そうですね。えーっと洗濯物の量的に2日から3日に一度くらいで洗濯したいんですが、どれくらいの頻度で回すつもりなのかと思って」

「……」

「あの、獅子野さん?」

「すまない。洗濯機は……どうやって使うんだろうか?」


 あ、そうなるんですか?


「あの、渚姉さんに何を教えてもらってたんですか?」

「主に自室の掃除だな。だいぶ綺麗に使えていると思う」

「なるほど、洗濯の洗い分けとかそういったことは分かりますか?」

「色移りや縮んだりするものがあるという知識だけ……実際にどのようなものがダメとかは分からない」


 どうするべきだろうか? 異性の洗濯物については姉たちで十分に理解できているが、それでも家族というわけでもない女性の洗濯物に口出ししていいものか。


「……とりあえず使い方だけ教えます。あとは注意点もいくつか」

「分かった。よろしく頼む」




 ……うん。

 多分問題ないはずだ、洗濯ネットの使い方も教えたし、洗剤もそれぞれの役割を教えた。

 なんでこんなに洗剤があるんだと呟いて困惑してたがきっと大丈夫。


「洗濯物もこれで大丈夫だろうし、急ぎしないといけないことは他にないよね」


 共同生活2日目にして口うるさくしてないかと心配になる。

 そもそもあらためて考えて、その日初めて会った姉の友人と2人暮らしを始めるというのはどうなのだろうか。

 今日は先にお風呂に入ってもらい、食事の片づけをする。


 その際に、明日の朝と……必要かわからないけどお弁当の下準備をしておく。

 要らないといわれれば、自分のお昼にすればいいのだ。


「上がったよ」

「え、早くないですか?」


 昨日も思ったがお風呂の時間が短くないだろうか? おそらく15分ほどしか経ってない。


「そうだろうか?」

「姉さんたちに比べてだいぶ早いと思いますよ……ところで髪は」

「あぁ、軽くタオルでふき取ったんだが、ドライヤーをかけてくれないだろうか?」

「はい」


 少し困ったような顔で獅子野さんからドライヤーが差し出される。

 確かに長い髪はドライヤーをかけにくいだろうし、頷いてドライヤーを受け取る。


「ふぅ、ありがとう……1人だとだと、上手くできなくて……すぅ」

「そうですか……って、獅子野さん? 寝てます?」

「ん、寝てない……寝てないとも」


 寝てないといいつつ、目を閉じてうつらうつらとしている。

 このままでは寝てしまうのも時間の問題だろう。


「獅子野さん。もうすぐ終わるので寝ないで──」

「湊……湊って呼んでほしい」


 ──っ!

 寝てしまわないように名前を呼びながら肩を揺らしていると腕をひかれて、おでことおでこがぶつかりそうな距離で名前で呼んでほしいといわれる。

 潤みのある瞳はどこか焦点のあっておらず、目線は合うが寝ぼけているのかもしれない。


「湊……さん。寝ないで」

「ん、すぅすぅ」

「えぇ……」


 名前を呼んだら何やら満足して目を閉じてしまった。

 とりあえず、腕の拘束も緩んだのでまだ完全に終わってなかったドライヤーをあてなおす。


「獅子野さん! 獅子野さん!」

「んっあ、すまない寝てた……悠里君に湊って呼ばれる夢を見た気がする」


 少し目が覚めたのだろう、眠そうにこちらを見て腕をつかまれる。


「そ、そうですか、それより起きてください。自分の部屋で寝てください」

「このままソファーで寝たい……」


 わがまま!? なんだかどんどん意外な一面が見えてくる。

 そう、なんというか子供っぽい……。


「ダメですよ。風邪ひいたらどうするんですか!」

「風邪なんて、引いたことない」

「引くかもしれないじゃないですか、とにかく自分の部屋で寝てください」

「なら、湊って呼んで」

「わ、わかりました! ……湊、さん! これでいいですよね? ほら、部屋に戻ってください」


 改めてそう呼んでほしいといわれるとなんだか恥ずかしいけど名前を呼んだら満足したのか立ち上がる。


「好きだよ。おやすみ」

「……あぇ、お、おやすみ……な、さい」


 立ち上がった湊さんは、僕を抱きしめて頭頂部にキスをしておやすみと耳元でささやいて部屋を出て行った。

 もう……本当に勘弁してください。



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