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5話

 ゴォーっと温風を吐き出すドライヤーを使って獅子野さんの髪を乾かす。


「はい。終わりましたよ。今までどうしてたんですか?」

「す……ありがとう。今までか? 渚がいたときは渚が……その前はタオルでふき取るだけだ」


 艶やかできれいな枝毛のない髪の毛なのに、いきなり直で強温風を当て続けていたのには驚いた。

 なんというか、獅子野さんは見た目はできる女なのだがガサツすぎる。

 おかげで恥ずかしさも吹き飛んだが。


「渚姉さんからドライヤーの使い方とかは教えてもらわなかったんですか?」

「教えてもらったが、何もそこまでする必要はないだろう?」

「だめですよ! もったいないです。獅子野さんは美人なんですか……ら」


 ま、また……うぅ、なんでこんなに恥ずかしいセリフがぽんぽんと出てくるんだ。


「ありがとう。渚にも同じことを言われたな」


 あぁ、もうなんでそんなに嬉しそうな笑顔をするんですか。

 この人は……いや、落ち着こう。

 美人は3日で飽きる。美人は3日で飽きる。美人は3日で飽きる。

 ふぅ。


「片付けも終わりましたし、今日はもう寝ましょう」

「あぁ、そうだな。今日は1日ありがとう。お休み」

「はい。こちらこそありがとうございました。おやすみなさい」




 部屋に戻りすぐにベッドに飛び込む。


「ん……疲れたぁ。明日は何をするんだっけ……」


 うとうとしながら明日の予定を考える。

 スマホの目覚ましがいつも通りなれば、ごみ捨てをして、それから……それから……。




「んぅ……朝、あったかい」


 もう一度このまま眠ってしまいたいほどに部屋の中が温かい。

 けれどスマホの目覚ましを止めて起き上がる。

 ベッドから降りた床も暖かくて、お金がかかっているだけあって人をダメにしてしまいそうな住まいだと思う。

 時刻は4時30分。


 まずは顔を洗って歯を磨き目をしっかりと覚ます。

 エプロンを身に着けて調理を開始する。


 朝食はご飯とみそ汁と旬である(さわら)の塩焼き、ほうれん草のだし煮。

 食後のデザートはヨーグルトでいいかな。

 準備を整えているうちに一時間がたつ、確か獅子野さんがそろそろ起きてくる時間だ。


「おは……よう」

「はいおはようございます。朝食の準備は整ってるので食べててください。僕はゴミ出しに行ってきます」


 まだ眠たげな獅子野さんが部屋に入ってきて挨拶をする。

 こちらを見て固まってる気がするが、寝ぐせもついて、まさしく寝起きという感じである。

 きっと、まだ渚姉さんではなく僕がいるということに慣れていないのだろう。


「あぁ……ん、ゴミ出しは私がしておこう。一緒にご飯を食べよう」

「そうですか? ありがとうございます」


 獅子野さんに席を進めたところで、キッチンにあるゴミを持っていこうとすればゴミ出しを請け負ってくれるとのこと。

 せっかくの共同生活なのだから相手に頼らせてもらおう。

 幸いそこまで重いものも入っていないため、そこまで負担にもならないだろうし。


「「いただきます」」


 エプロンを外して食卓について2人でいただきますをして食事を始める。

 実家にいた時よりもおいしく作れているのはきっと調理器具たちのおかげだろう。

 渚姉さんはもはや一体いくらかけたのか怖くて聞くことができない、そんなものを簡単にほっぽり出していく神経はもっと信じられないが。


「おいしい」

「ありがとうございます」


 やはり作ったものをおいしそうに食べてもらえるのはうれしい。

 ゆっくりと20分ほどかけて食事が終わる。


「ごちそうさま」

「お粗末様です」

「さて、仕事の準備してくる。帰りは20時頃になると思う」


 そういって獅子野さんは席を立つ。


「はい分かりました。それではそのころにご飯の準備して待ってます」

「ありがとう。ふふっ」


 昨日と同じく18時くらいには大体の準備が整うと思うが、出来立てを考えるなら少し時間をずらしてもいいかもしれない。

 そんなことを考えてながら僕も引っ越しの荷ほどきをしないとと立ち上がるとこちらを見て獅子野さんが微笑む。


「どうかしましたか?」

「いやなに、まるで夫婦だなと思ってな」


 ……夫婦。

 夫婦!? なんでそんな言葉が何でもないように出てくるんですか……獅子野さんの顔を見る限り特に深い意味はなさそうだ……ないですよね?

 からかってるとかそういう感じでもないし、きっと天然なんだろう。

 本当に心臓に悪い。


「そ、そういう冗談は、心臓に悪いです」

「……この部屋に入ってきたとき、悠里君がいて、かわいいと思った」

「え……え?」


 いきなりのことで何を言われているのかいまいち理解できないけど、あまりにも真剣な目でこちらを見てくるものだから一歩後ろに下がればガタリと椅子にぶつかる。


「会って1日しか経ってないけど、私は君に惚れてしまったみたいだ」

「え?」


 腰が抜けるようにストンと椅子に座り込んでしまう。

 惚れ……惚れてしまった? 1日で……? いやいやいや、きっと勘違い勘違いだ。

 あれ、なんで近づいてくるんですか? なんで膝をついて手を取るんですか?


「好きだ。私と付き合ってほしい」

「はい……」


 あぁぁああ! 何ですかその男らしい直球な告白、真剣な目のままでなんていうこと言うんですか!?

 そして、僕もなんでOKしてるんだ! だって、知り合ってからまだ1日しか経ってないのに……世の中には一目惚れというのもあるのは分かるけどぉ!


「よかった……。じゃあ準備してくるから」

「はい……」


 あぁ、どうしよう。

 これっていいのかな? なんだかいきなりすぎて頭が回らない。

 仕事の準備のために部屋を出ていく獅子野さんを見送ることしかできない……。


 そう、冷静になろう。今のうちに冷静になって……。

 まず知り合って1日だし、年の差は渚姉さんと同じなら9歳あるはずだし、いろんな意味で釣り合いが取れないだろうし。

 うん。思わずOKしてしまったけど、やっぱりごめんなさいしないと!



もしよければ、感想、ブクマ、評価、よろしくお願いします。

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