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3話

「それじゃあ、私は行くからまたねー」


 ぶんぶんと手を振って出ていく渚姉さんを見送る。

 ちらりと横を見れば獅子野さんは小さく手を振り返している。

 見上げるような身長差に少しだけ自分の男らしさの欠如に劣等感を抱く。


「えっと、悠里君。これからよろしく頼む」

「はい。よろしくお願いします」


 頭を下げあいお互いに無言になる。

 うん。当然だと思う。


「中に入りましょうか」

「あぁ」




 家の中に戻ってもいまだに無言だ。

 僕は渚姉さんみたいに明るく誰とでも仲良くなれるわけではない。

 とりあえず、食器などの洗い物を食洗器に突っ込み洗う。

 無駄にお金がかかっている渚姉さんの住んでいた部屋だが、一等地に月何十万と掛かる部屋だけあって広いし置いてあるものもいいものばかりだ。


 一般家庭出身でありながら、家を出て行った姉はいつの間にかコネで一流企業にいるし、その友人である獅子野さんも当然のように一流企業に勤めているみたいだ。

 もはや金銭感覚が違うと思うので、一緒に生活していける自信は正直そんなにない。


 そもそも、こちらは養われている身で家賃だって姉に出してもらう予定になってたのでさっきはあれほどのことを言ったが、本当ならそんな大きなことを言えない。

 実際のところ夏休みの引っ越しだって掛かる費用を考えると現実的ではなく母に相談すればどうにかしてくれるだろうが、頭を抱えそうである。

 金銭問題と赤の他人である異性と生活するという倫理的な問題を天秤にかけて今から胃が痛い。


「その、何か手伝うことはあるだろうか?」

「え? いえ、特には……」


 洗い物はいい食洗器があってくれたおかげで時間をかけずに終わるだろうし、テーブルを拭きながら僕は考えるが特にしてもらうこともない。

 この後は……掃除機というよりもフローリングなので使い捨てシート系のワイパーで十分だろう。


「そうか」

「はい」


 んー、やっぱり姉がいたからか、とってもきれいだ。

 渚姉さんは普段ふざけてるように見えて家事は完璧だし、学生の頃から文武両道で生徒会長も務めるような完璧人間だった。


「その」

「はい、何ですか?」

「掃除なら手伝うよ」

「いえ、もう終わるので……」

「そうか……」


 気まずい……。

 僕以外は女姉弟だったため、母が姉たちに教えるついでにいろいろと教えられたので家事については大体のことは考え事をしながらでもできるくらいには身についているためついつい1人でやってしまった。


「あ、そういえばこの辺のお店を知らないんですが、買い物のできる場所は分かりますか?」

「あぁ、それならわかるぞ! (なぎさ)にも教えられている」


 どうやら渚姉さんはちゃんと行きつけの店を獅子野さんに教えていたようだ。

 これなら買い物で困ることもないだろう。




「つ、疲れました」

「お疲れ様」


 渚姉さんの行きつけは商店街だったみたいで、色々安くしてもらえたが、たくさん話しかけられてとても疲れた。

 おまけもたくさんもらい、明日、明後日は買い物に行く必要はないだろうくらいになった。

 もらいすぎたせいで、獅子野さんに荷物を持たせてしまうレベルだ。


「渚姉さんは相変わらず……助かるけど知り合いが多すぎです」

「あはは、渚はすぐに誰とも仲良くなるから羨ましい、私は口下手だからな」

「口下手というのなら僕もあんまり変わらないですよ」


 荷物をおろして今日使うものはキッチンにそれ以外は冷蔵庫に詰めていく。

 準備していたご飯を炊き始め、今日の献立は予定のものから頂き物が使える肉じゃがへと変更する。


「何か手伝えることはあるかな?」

「料理はどれくらいできますか?」

「……全く」

「全く……? 全くですか……テレビでも見てゆっくりしててくださったらいいですよ?」

「はい……」


 ……。

 獅子野さんは落ち込んでキッチンから出て行った。

 何か手伝ってもらった方がよかっただろうか?

 でも、肉じゃが程度であればそんなに手伝ってもらうこともないし、申し訳ないがとりあえず作ることに集中させてもらおう。




 ご飯と肉じゃがとみそ汁とほうれん草のお浸しというメニューに落ち着いた。

 味噌が5つもあってどれにするか迷ったが、獅子野さんはどれでもいいということだったので初回から失敗するわけにもいかないので定番の味噌を使った。

 他にも聞いたことはあっても使ったことのない調味料が多かったので、時間があるときに使い方を調べてみようと思う。


「おいしい……」

「ありがとうございます。お口に合ってよかったです」

「渚と同じで料理上手なんだな、世話になりっぱなしで本当に申し訳ない」

「別に大丈夫ですよ」


 そう、別に何も問題ない。

 今日の買い物では荷物持ちをしてもらって助かったし、姉たちとは違い余計な邪魔が入らない分、逆に楽かもしれない。


「渚にもいろいろ教えてもらってたんだが、よかったら悠里君も時間のある時でいいのだが色々教えてほしい」

「あ、はい。構いませんよ」


 そうか、そういえば生活力が皆無だとか渚姉さんが言ってたけど、明日からは手伝ってもらうようにしよう。

 ん、おいしくできてる。

 お風呂の準備も終わってるから……後と先どちらがいいんだろう。


「あの、すみません。お風呂の準備できてるんですが後と先どちらがいいですか?」

「引っ越し初日で疲れているだろう? 先に入ってくれ」

「はい。それでは先に頂きますね」


 ごみ捨ては明日だからまとめておいて明日の朝に出さないと……。

 そういえば、洗濯物……姉弟ならまだしも他人なのだからきっちり分けないと。

 それから、荷ほどきもほとんどできてないし明日からしよう。


「ふぅ、ごちそうさまです。お先に失礼します。洗い物は流しにおいておいてください」

「あぁ、分かった」


 さて、お風呂お風呂。

 必要な服だけタンスに移しておかないと。


もしよければ、感想、ブクマ、評価、よろしくお願いします。

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