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12話

「ふぅ、すまなかった」

「いえ……その、髪を乾かしててください。あとは掃除機をかけるだけなので」


 ズボンをはいて戻ったがもうすることは残っていなかった。

 本当に迷惑しかかけてないな私は……。


「いや、うーん。うん。そうだな……ん、その指、怪我したのか?」

「あぁ、これは僕の不注意で──」


 不意に悠里君の指に絆創膏が巻いてあるのが目に入る。

 私は思わずその手を取る。


「私は、迷惑をかけてばかりだな……何か私が君に返せることはないだろうか?」

「え……あ、その……」

「何でも言ってくれ」

「な、何でも」


 不注意というが私のせいで怪我までさせたのだ、何か償いができるといいのだが。


「て、手を放してください」

「すまない。痛かったか?」

「い、いえ。その、あ、謝ってばかりですからそれをやめましょう! そう、それがいいです!」

「……あぁ、気を付ける。ありがとう」


 手を放すように言われ放した後、いくらか逡巡するように悩んだ後、早口でまくし立てるように謝ってばかりなのをやめてほしいといわれる。

 確かにその通りかもしれないので、それなら謝るよりもお礼を言うようにしようと思う。


「……っ! は、はい」


 悠里君は少しぱちくりとした後に少しだけ顔をそらして頷いてくれた。

 その顔を見て私の鼓動が少し早くなった気がする。




「はい。終わりましたよ。今までどうしてたんですか?」

「す……ありがとう。今までか? 渚がいたときは渚が……その前はタオルでふき取るだけだ」


 ドライヤーで髪を乾かしていると、やり方が良くなかったのかすぐに代わりにドライヤーをかけてくれ始めた。

 とりあえず熱風で乾かしたり下から風を当ててはだめだと、まるで子供に言い聞かせるように優しい声でドライヤーをかけられた。

 それがなんだか心地よくて少しだけ眠りかけていた。


「渚姉さんからドライヤーの使い方とかは教えてもらわなかったんですか?」

「教えてもらったが、何もそこまでする必要はないだろう?」

「だめですよ! もったいないです。獅子野さんは美人なんですか……ら」

「ありがとう。渚にも同じことを言われたな」


 姉弟だから似るものなのだろうか?

 そう考えると私は弟たちに似ている……? 確かに女らしさが足りない部分では似ているかもしれない。

 はぁ……。


「片付けも終わりましたし、今日はもう寝ましょう」

「あぁ、そうだな。今日は1日ありがとう。お休み」

「はい。こちらこそありがとうございました。おやすみなさい」


 明日から仕事か。

 頑張ろう。




 目が覚めると朝からおいしそうな匂いがする。

 渚は朝食は作らずに外食派だったので朝ごはんの匂いというのは新鮮かもしれない。

 私はその匂いにつられるようにリビングに向かう。


「おは……よう」

「はいおはようございます。朝食の準備は整ってるので食べててください。僕はゴミ出しに行ってきます」


 カーテンが開けられ家の中に朝日が差し込む中。

 朝の挨拶をすればエプロンを付けた悠里君がキッチンから微笑んで挨拶を返してくれる。

 すでにテーブルの上には食欲を誘う暖かそうな食事が並んでいる。


 まだ出会って1日しか経っていないのに、すでに何でもないような日常のようにすら思ってしまった。

 心臓がバクバクとうるさい、なんでこんなにドキドキしているのか自分でも全くよくわからない。

 だけど、これが日常になったら……きっと私は幸せなんだろうってそう思った。


「あぁ……ん、ゴミ出しは私がしておこう。一緒にご飯を食べよう」

「そうですか? ありがとうございます」


 9歳も年下の少年といってもいい相手に……なんてことを考えているのか。

 それでも、もう少しこの時間を引き延ばしたくてゴミ出しを請け負う。


「おいしい」

「ありがとうございます」


 おいしいとそういうだけでニコニコと機嫌が良くなるのがわかる。

 よく見れば分かりやすいそんなことが分かるようになった。


「旬の鰆はいいですよね。春の魚です」

「うん」


 機嫌よく料理の話をいくつか教えてくれる。

 話をしているときのどこか自慢げな顔にほっこりする。


「ごちそうさま」

「お粗末様です」

「さて、仕事の準備してくる。帰りは20時頃になると思う」

「はい分かりました。それではそのころにご飯の準備して待ってます」

「ありがとう。ふふっ」


 まるで夫婦のような会話に思わず笑いが漏れてしまう。


「どうかしましたか?」

「いやなに、まるで夫婦だなと思ってな」


 笑いを漏らした私に首を傾げ悠里君が問うてきたので思わず思っていることをそのまま言ってしまう。


「そ、そういう冗談は、心臓に悪いです」


 悠里君は私の言葉に驚いたような顔をした後、熟れた果実のように頬を赤く染める。


「……この部屋に入ってきたとき、悠里君がいて、かわいいと思った」

「え……え?」


 かわいい……うん。

 私は私のこの気持ちを伝えたいと思った。

 出会って1日しか経っていないけど、一目惚れというものもあるのだ。


「会って1日しか経ってないけど、私は君に惚れてしまったみたいだ」

「え?」


 悠里君は驚きすぎたのか脱力するように椅子に座る。

 そんな悠里君に近づいて、目線を合わせるように膝をつく。

 さすがに緊張する。


「好きだ。私と付き合ってほしい」


 しっかりとまっすぐ相手の目を見て、気持ちを伝える。

 それは私が親に学んだ大切なことだ。


「はい……」


 顔を真っ赤にして唖然とした表情の悠里君が返事を返してくれる。

 よかった。

 今更だがもしもここでごめんなさいと言われたら、色々と気まずかったと思う。


「よかった……。じゃあ準備してくるから」

「はい……」


 そして、さすがに少し恥ずかしくなった私は仕事の準備を言い訳に早足に部屋を出ていくのだった。



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