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10話

「それじゃあ、私は行くからまたねー」


 ぶんぶんと手を振って出ていく渚を見送る。

 相変わらず元気のいいことだ。


「えっと、悠里君。これからよろしく頼む」

「はい。よろしくお願いします」


 渚を見送った後、悠里君と頭を下げあう。

 そのあと少し無言の空間が流れる。


「中に入りましょうか」

「あぁ」


 実際のところ戸惑いもありお互いの距離感がはかりきれていない。

 それが渚という間に挟まる人間がいなくなったことで顕著になったのだろう。




「その、何か手伝うことはあるだろうか?」

「え? いえ、特には……」


 家の中に戻った悠里君はテキパキと使ったお皿を片付けていく。

 それが終わればテーブルを拭き始めて、私は手持ちぶさたから手伝えることはあるか聞くが特にないようだ。


「そうか」

「はい」


 テーブルもすぐに拭き終わり、床の掃除に移る。

 毎日毎日渚がしていたため特に汚れはないだろう。

 それに床の掃除であれば私も手伝ったことがある。


「その」

「はい、何ですか?」

「掃除なら手伝うよ」

「いえ、もう終わるので……」

「そうか……」


 気まずい……。

 私は気がきく方ではないから、渚の時からそうだが自ら進んで手伝いをしようにも指示してもらわなければできない。

 邪魔に思われてないだろうか?


「あ、そういえばこの辺のお店を知らないんですが、買い物のできる場所は分かりますか?」

「あぁ、それならわかるぞ! (なぎさ)にも教えられている」


 冷蔵庫のほうをちらりと見たあと何かを思い出したように悠里君に買い出しの場所を聞かれる。

 それならば、渚に買い物をする場所を教えてもらっているので分かる!




「これもおまけだよ! たくさん食べな!」

「わぁ、ありがとうございます」


 商店街に案内した後はほとんど私はついていくだけとなった。

 悠里君は目利きも確かなようで、店員と話しながら買うものを決めてその容姿と私がいることで渚の親族だろうと理解されるとたくさんの人に話しかけられ、それを笑顔でさばいていく。


 そういうところはさすが渚の弟だと思う。

 口下手な私ではできないことだ。


「ふぅ……重いです。一度帰ってから出直しましょうか?」

「いや、私が持つよ。これでも力はある方だから」

「あ、ありがとうございます。重くないですか?」

「うん。これくらいなら軽いよ」


 少し強引に抱えるように持っていた荷物を私が持つ。

 野菜の入ったそれは確かに少し重いがこれくらいなら大丈夫だ。


「皆さん親切ですね……。渚姉さんは誰とでも仲良くなるからどこに行っても知り合いがいっぱいです」

「そうだな」


 大体の買い物も終わり、帰り道。

 声を掛けられれば会釈をして返事を返しながら悠里君が笑顔で話かけてくる。

 そんな悠里君に私はそっけない返事しかできない。


「獅子野さんもありがとうございます。荷物持ってもらえて助かりました」

「うん」


 それからもそっけない返事しかできない私に悠里君は話しかけてくれる。

 けれど、なんとなく打ち解けれたのではないかと思う。




「つ、疲れました」

「お疲れ様」

「渚姉さんは相変わらず……助かるけど知り合いが多すぎです」

「あはは、渚はすぐに誰とも仲良くなるから羨ましい、私は口下手だからな」

「口下手というのなら僕もあんまり変わらないですよ」


 悠里君が口下手なら、私は何なのだろうか?

 少なくとも帰り道に話しかけてくれたからこそ少しずつ打ち解けられているのだ。

 家に帰ってくれば、悠里君の独壇場だ。

 買ってきたものは瞬く間に冷蔵庫や戸棚に収められていく。


「何か手伝えることはあるかな?」

「料理はどれくらいできますか?」

「……全く」

「全く……? 全くですか……テレビでも見てゆっくりしててくださったらいいですよ?」

「はい……」


 言外に戦力外通告を受けて私は大人しくリビングでソファーに座ってテレビを見始めるのだった。



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