1話
「君が高校を卒業したら、結婚してほしい」
目の前で膝をついて、そう言ってこちらに向けられて開かれた箱の中にはシンプルな金と銀のまじりあったような指輪である。
思わず驚きに目を見開いて、固まってしまう。
そしてなし崩し的に始まった2人の共同生活を思い出す。
姉のせいで始まったこの共同生活で、大変なこともあったし、楽しかったことも、悲しかったことも、色々たくさんあったけど、幸せな日々だった。
だから──。
「はい」
──僕は彼女のプロポーズを受けた。
「それじゃあ後は、湊をよろしくね」
「「え?」」
地元から離れた場所へと進路を決めた僕は姉を頼りに引っ越してきたのだが、開口一番にこれである。
思わず僕の口から疑問の声が漏れる。
そして、それは姉の隣に座っている女性も同じだった。
「あ、紹介がまだだったね。湊、あの子は私の弟で穂之儀悠里。そんで悠里。こっちの子が私の友達の獅子野湊よ」
そういって僕の姉ある渚姉さんが僕の紹介を隣の女性……獅子野さんにして、そして獅子野さんの紹介を僕にする。
僕と獅子野さんはお互いに目を丸くして疑問符を浮かべている。
「いやー、私そろそろ彼氏と同棲しようかなって思ってたんだけど悠ちゃんが来ることになってたし、湊は生活力皆無だから心配だったんだけどこれで大丈夫だね!」
「……」
何が大丈夫なんだろうか?
いつもいつも自由な姉だとは思っていたがとうとう他人を巻き込んだのか!?
渚姉さんに振り回される被害者が身内ならばいいが他人を巻き込んだとなれば──。
「な、渚姉さん! 何を言ってるかわかってるんですか!?」
「えー、悠ちゃん怒ってるのー? かわいい顔が台無しだよ!」
「……っ! 怒ってます! 他人を巻き込んでこんなことが許されると思ってるんですか!!」
プルプルと怒りで震えながら机に叩きつけるように手をついて怒鳴る。
「母さんに報告しますからね! 幸い学校が始まるまで一か月はあるはずですからその間に代わりの家を──」
「ま、待ってくれないか!?」
渚姉さんを叱りつけていれば、横から獅子野さんがそういって割り込んでくる。
「──へ? あ、獅子野さん申し訳ありません。僕は渚姉さんの所業を母に報告したらすぐに出ていきますので」
「いや、それを待ってほしい。私が野垂れ死んでしまうかもしれない」
「え?」
もはや何がどうなっているのか……。
僕は母に連絡するために取り出していたスマホを机の上におく。
「とりあえず……話を聞かせてください」