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1-3


▽▲▽


 その日の夕食後。

 風呂から上がった一心は、ふとアイスを食べたくなり、キッチンの冷凍室を漁っていた。


「あれ、ない」


 だが、いくら探しても今日帰りに自分が買ってきたゴリゴリ君マスカット味が無い。

 おかしい、ほんの数時間前にはあったはずなのに。


「ん、お兄ちゃん、どーしたの」


 そこに、一心より一足早く風呂を上がった朝陽が顔を出す。


「いや、ゴリゴリ君が無――」


 そういって一心が妹の方を振り向く。

 振り向いた先に居たのは、だらしなくぶかぶかのTシャツとパンツをはいただけの妹が、緑色のアイスバーを加えている姿だった。


「――もういい。解決した」


 そう言った一心は、部屋にもどるとジャージに着替え、玄関へ向かう。


「あれ、お兄ちゃんこれからどっか行くの」


「あぁ、誰かさんの所為で、コンビニに行く用ができたんだ」


 ちょっとの皮肉を込めて一心が言うが、そんなものに朝陽は気が付かない。


「あ、じゃあついでに私にアイス買ってきて」


「お前、まだ食うのか」


 太るぞ、と言いかけて、そういえば朝陽はいくら食べても太らない体質だったと思い出し言葉を飲み込む。

 朝陽は、いくら食べようがゴロゴロしようが体重が増えない不思議な体質をしていた。

 もっとも、女子としては羨ましがられる体質ではあるのだが、体重が増えない所為で、剣道では万年補欠を出ないくらいの強さしかないのを、本人は悔しがっているのだが。


「それじゃ、行ってくる」


「いってらー」


 そういって玄関を出た一心の頬を、五月の生ぬるい風が撫でる。

 この気温だと、湯冷めはしなさそうだと、彼は歩き出した。

 暗くなりつつある通学路を、軽い足取りで歩く。

 最寄りのコンビニはもっと近いのだが、一心の食べたいゴリゴリ君マスカット味は限定品。

 このあたりでアレが買えるコンビニは、高校を通り過ぎた先にしかなかった。

 普段の通学時と違って重い荷物が無い分足取りこそ軽いが、できれば完全に暗くなる前には帰りたい。

 そう思って少し歩みを早める。

 そして、学校の校門前が見え始めた時、ある人物の姿が見えた。

 煙る黒髪と高い身長――新宮遥だ。

 彼女は、制服じゃなく学校指定でもない黒いジャージの姿で、校門の中へすたすたとはいっていった。


「こんな時間に、私服で学校?」


 そのことに、少し疑問を覚えてしまった一心。

 やがてその疑問はむくむくと膨らみ、好奇心に変換される。


「――ちょっと覗いてみるか」


 そして彼女の後をつけることにした。

 何となくばれないように、こそこそとつけてしまうのは、人間のサガが。

 校舎の物陰からのぞき込むと、新宮はグラウンドの端で持ってきたバックからなにかを取り出すところだった。


「あれは――?」


 まず取り出したのは、近未来的なデザインのゴーグルと、チョーカーのようなデバイス。

 そのゴーグルを頭につけ、チョーカーを首に装着し、二つをケーブルで接続する。

 そして、次に取り出した関節保護用のサポーターを順に取り付け始めた。


「何しているんだろう」


「――僕からしてみると、君こそが『何しているんだろう』なんだけどね?」


「!?」


 目の前の光景に夢中になっていた一心は、背後にたったその人物に気が付かなかった。

 突然話しかけられて、咄嗟に振り向くと、そこには大学生くらいの年齢の、優し気な風貌の見慣れない青年が立っていた。


「えっと、これは――」


「もしかして、見学者かい?」


「――見学?」


「違うのかい?」


「いや、俺はたまたま新宮を見かけて、なにしてるのかなっと」


「あぁ、そういうこと」


 一心の言葉を聞いて何かを納得した青年は、少し顎に手を当てて考える仕草をする。

 そして何かを思いついた様子で、こう切り出した。


「――気になるかい、彼女がこれからなにをするか」


「え、えぇまぁちょっと」


「そうか、じゃあ今から君はこのクラブの見学者だ!」


 そういって、青年は一心にある物を手渡した。

 それは、彼女がつけているものと同型のゴーグルだった。


「これは?」


「ARデバイス【HORUS】。観戦だけならこれだけで十分さ」


「――AR?」


「ほら、早く掛けないと始まっちゃうよ?」


「は、はい」


 青年に促されるままに一心は、ゴーグル――【HORUS】を装着する。

 電源はあらかじめ入っていたようで、装着してすぐに最適化シークエンスが行われ、一心の視界をクリアにする。


「よし、OKだね。ほら、彼女の方を見な?――はじまるよ」


 そう言われて振り向いた先。

 一心の眼に飛び込んできたのは、ジャージ姿の戦乙女が怪物を仕留める一部始終だった。




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