5-2
▽▲▽
「――なるほど、その結果発表がこの後に控えているからそんなんだったんだな」
「あぁ、まぁそういうことだ」
悪いか、とちょっとむっとした表情で一心は言う。
その理由は、話の途中から孝弘がずっと笑顔だったから、ナニカからかわれているように感じた為だ。
「いや、悪い。だけどさ、ちょっと嬉しくてさ」
「嬉しい?」
「あぁ、あんな苦しい挫折をしたお前が、新しい道を見つけたことがさ」
そういって、孝弘は机から降りて自分の机に向う。
机の上に置いてあった自身のリュックの中を漁った彼は、ある雑誌を取り出した。
「そういえば、俺もその【NEW WORLD】だっけかを調べてみたのよ。そしたらこんな雑誌を見つけて」
彼が手にしていたのは、以前一心が購入した雑誌の今月号であった。
「これにすげぇことが書いてあって――」
そこまで孝弘が言った所で、教室のドアがガラリと開く。
入ってきたのは、最近ではスッカリ御馴染みになった“七崎のラスボス”であった。
「志村くん、ちょっといいかしら」
これまた最近よくみるムーブをかましてくる彼女に一心ははいはいと頷く。
「悪い孝弘、その話はまた今度で」
そういって一心は、彼女について教室を出て行った。
1人放課後の教室に残された孝弘は、ぽつりとつぶやく。
「――いや、その新宮の話だったんだけどなぁ」
一心に見せようと開きかけていたその雑誌のページには、大きくこんな見出しがついていた。
『【NEW WORLD】の【U18】有力選手走力取材!!』
そして、そのトップを見慣れた少女の写真が飾る。
“東洋の戦乙女、無差別級世界ランキング第10位、日本第3位の実力者!!”――と。
▽▲▽
「――結果が出ていたわ、私たちは暫定3位よ」
教室から少し離れた階段の踊り場で、彼女は単刀直入にそう言った。
それを聞いた一心は、少し驚いた。
「もっと低いと思ってた」
「そう? 私は妥当だと思ったけれど」
新宮は平然とそんなことを言ってのける。
「貴方も、あまり自身を過少評価しない方がいいわ。ある程度の謙遜はともかく、自信のない人って何事も勝てないもの」
彼女の真の実力を知らない一心からすると、ちょっと自信過剰に見えてしまう。
だが、彼女が言うと不思議と説得力があるなぁと、一心はぼけっと思った。
「そうだね、これから【NEW WORLD】を続けていくんだから、気を付けるよ」
素直にそう返す一心に対して、新宮が無言で頷く。
「――その、改めてお礼を言うわ。ありがと、志村くん」
そう言って新宮が頭を下げる。
「最初は、強引だったと思う。けれど、ちゃんと付き合ってくれて、好きになってくれてありがとう」
「いや、こっちこそお礼を言わせてくれ。――俺に新しい道を教えてくれてありがとう」
一心もまた、新宮に向って頭を下げた。
そして2人して同時に頭を上げ、至近距離で顔をつき合わせる。
その様が妙におかしくて、どちらともなく笑い始めた。
「これからも、よろしくな」
「えぇ、よろしく。――一心くん」
――こうして日々は続いていく。
挫折も不幸も、全てを飲み干して時間は進み、それを乗り越え新しい道を見つけた志村一心。
彼の新たな剣の道は、希望にあふれていた。
▽▲▽
「――付き合うって、え?」
一方、2人の会話の一部始終を階段の影で偶然聞いていた少女が1人。
「なんで、どうして。――一心くん」
衝撃で膝から崩れ落ち、両手で口元を覆うその少女の名は、藤崎夏菜。
――彼女の運命もまた、一心の過去の因縁を乗せ、動き出した。
一旦物語は、これにて終了です。




