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5-1


 夕暮れの教室に志村一心は1人佇み、窓枠に体重をかけて外を眺めていた。

 ――あの日、あのケルベロスとの戦いから二日たった月曜日のことだった。

 一心は、何気なくグラウンドを見下ろし、眼下ではサッカー部が練習試合をしていた。


「おい、何を黄昏ているんだよ」


「あ、孝弘」


 心ここにあらずだった彼に声を掛けたのは、親友の孝弘であった。

 孝弘は最寄りの机の上に腰掛けると、一心に向き直る。


「で、いったいどうしたんだ」


「どうって?」


「今日は一日中心ここにあらずだったじゃないか。それで何もないわけないだろ」


 少しあきれたような仕草で、彼は言う。

 実際、先日から一心は、少々ぼぅっとしすぎている節がある。


「なんでもいいから、話してみろよ」


「実は土曜に――」


 そうして一心はつらつらとあの日の事を話し始めた。


▽▲▽


『ミッションクリア。タイム01:29:12』


 その瞬間、場を静寂が支配する。

 初心者である一心にとって、そのタイムがいいのか悪いのかの判断はつかなかった。

 だからこそ、周囲の反応をうかがう。

 そして周りは、金城や門脇たちは、何も言わない。

 一瞬、やってしまったのかという不安が、一心の胸に到来する。

 ――が、次の瞬間。


「お前ら!! すげーよ!!」


 門脇が手を叩いて2人を称賛した。

 それに続いて金城も、黒田も手を叩く。

 先ほどまで試合をしていた2人組も手を叩いて一心たちを称えた。


「もしかして、結構よかった?」


「よかったなんてもんじゃねぇよ、最高だった!」


 駆け寄ってきた門脇は、そういって一心の肩を叩く。

 金城も満足気な笑顔を浮かべる。


「始めて間もないのによくここまで頑張れたね、志村くん!」


「2人とも、すごかったよ!」


 黒田も手放しで一心たちを称賛した。

 これには、“七崎のラスボス”の顔もほころぶ。

 ここにきて、一心もようやく一息つくことができた。

 ほっと息を漏らした一心に向って、新宮が手のひらを向ける。

 一瞬、その意図を図りかねた一心であったが、すぐその意味に気が付き、自身の手のひらで軽くタッチする。

 ――ハイタッチだ。


「やったわね、志村くん。これは結果も期待できるわ」


「そっか、それは良かった」


 一心もつられて笑顔になる。


「結果は二日後に、公式サイトにアップされるはずだよ。楽しみだね」


「――はい!」

 金城の言葉に一心は頷く。

 そして彼は遠く天井を見上げる。

 一心はそこで静かに目を閉じる。

 この胸に到来する熱い感情に、目頭が熱くなり、その熱が零れそうだったからだ。

 一心にとっては4年以上ぶりの、懐かしい感情。

 何かに真剣に取りくみ、努力して、戦って、そして勝ち取った勝利という、何者にも代えられない喜びを、一心は心ゆくまで味わった。


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