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夕暮れの教室に志村一心は1人佇み、窓枠に体重をかけて外を眺めていた。
――あの日、あのケルベロスとの戦いから二日たった月曜日のことだった。
一心は、何気なくグラウンドを見下ろし、眼下ではサッカー部が練習試合をしていた。
「おい、何を黄昏ているんだよ」
「あ、孝弘」
心ここにあらずだった彼に声を掛けたのは、親友の孝弘であった。
孝弘は最寄りの机の上に腰掛けると、一心に向き直る。
「で、いったいどうしたんだ」
「どうって?」
「今日は一日中心ここにあらずだったじゃないか。それで何もないわけないだろ」
少しあきれたような仕草で、彼は言う。
実際、先日から一心は、少々ぼぅっとしすぎている節がある。
「なんでもいいから、話してみろよ」
「実は土曜に――」
そうして一心はつらつらとあの日の事を話し始めた。
▽▲▽
『ミッションクリア。タイム01:29:12』
その瞬間、場を静寂が支配する。
初心者である一心にとって、そのタイムがいいのか悪いのかの判断はつかなかった。
だからこそ、周囲の反応をうかがう。
そして周りは、金城や門脇たちは、何も言わない。
一瞬、やってしまったのかという不安が、一心の胸に到来する。
――が、次の瞬間。
「お前ら!! すげーよ!!」
門脇が手を叩いて2人を称賛した。
それに続いて金城も、黒田も手を叩く。
先ほどまで試合をしていた2人組も手を叩いて一心たちを称えた。
「もしかして、結構よかった?」
「よかったなんてもんじゃねぇよ、最高だった!」
駆け寄ってきた門脇は、そういって一心の肩を叩く。
金城も満足気な笑顔を浮かべる。
「始めて間もないのによくここまで頑張れたね、志村くん!」
「2人とも、すごかったよ!」
黒田も手放しで一心たちを称賛した。
これには、“七崎のラスボス”の顔もほころぶ。
ここにきて、一心もようやく一息つくことができた。
ほっと息を漏らした一心に向って、新宮が手のひらを向ける。
一瞬、その意図を図りかねた一心であったが、すぐその意味に気が付き、自身の手のひらで軽くタッチする。
――ハイタッチだ。
「やったわね、志村くん。これは結果も期待できるわ」
「そっか、それは良かった」
一心もつられて笑顔になる。
「結果は二日後に、公式サイトにアップされるはずだよ。楽しみだね」
「――はい!」
金城の言葉に一心は頷く。
そして彼は遠く天井を見上げる。
一心はそこで静かに目を閉じる。
この胸に到来する熱い感情に、目頭が熱くなり、その熱が零れそうだったからだ。
一心にとっては4年以上ぶりの、懐かしい感情。
何かに真剣に取りくみ、努力して、戦って、そして勝ち取った勝利という、何者にも代えられない喜びを、一心は心ゆくまで味わった。




