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「ぼさっとしないで、行くよ!」
「わかってるさ!」
跳んだケルベロスの着地の瞬間を狙って、二人は走る。
ケルベロスは、着地の瞬間に一心に向って疾走。
その鋭い右前足の爪で辻斬りのように攻撃を仕掛ける。
その一閃に一心は、更に笑みを深める。
決して、ソレは避けるのが容易だから、回避が容易だからではない。
むしろ、獣特有の素早さで迫るその攻撃は、十分脅威だ。
――だが、だからこそ。
「(あぁ、楽しいな)」
だからこそ、一心は歩みを止めない。
むしろ一歩更に前に、大きく踏み込む。
振るわれたその爪による一閃を、タイミングを合わせて一心は真上に弾き、かち上げる。
瞬間、素早く刃を切り返し、軸足に力を入れる。
そして、剣を引き戻した勢いを一切殺さずに、活かしきった素早い剣閃でそのかち上げた足を斬る。
「残り3!」
すかさず一心は叫ぶ。
ケルベロスの残りHPが3――つまり胴か頭に一撃加えれば終わる。
ゴールが見えたが、ここで油断する二人ではない。
新宮はここで更に歯を食いしばり、床を強く踏みつける。
瞬発力に任せて、走る軌道を曲げた新宮は、一心の身体の影から胴体を狙って突きを放つ。
ケルベロスは上体を地面すれすれにまで低くし、更に逸らして強引にその刺突を回避する。
そしてまた、剣呑な光を帯びる3本の尾。
「志村くん!」
「あぁ!」
振るわれる、鋭い尾による斬撃。
今度は単発の刺突ではない、連続した鞭のようにしなる斬撃だ。
――それを二人の勇士は、嵐のような剣閃で防ぐ。
二人の刃は重ならす、二人の身体はぶつからず、流麗な剣舞を思わせる防戦続け、徐々にケルベロスとの距離を詰めていく。
――何故、本格的に始めて三日目の一心が、これほどまで新宮と息の合う動きができるのか。
理由はいくつかある。
一つは、相棒である新宮が熟練者であり、一心の動きに無理のない範囲であわせてあげられているから。
もう一つは、一心自身の素養だ。
――一心は、以前無理な剣道練習を過密に、日に何時間も行っていた。
その結果培われたものがある。
それは、狭い視野で獲得した情報をもとに、相手の動きを予測する観察眼。
更には、音と触覚で得た情報で欠けた視覚を補う能力。
事前動作で動きを予測し、音でタイミングを予測し、そして剣を振るう。
その技術は、剣道では活かしきれなかった。
一撃ごとに仕切り直し、面をすると視野が60%も欠けてしまうそのスポーツでは活かしきれなかった能力は、開けた視界と勢いに任せた連続した攻勢のできるこのeスポーツで、覚醒した。
今の一心にハンディキャップはほとんどない。
熟練者たる戦乙女に並び立てるだけの勇士が、そこにいた。
「ああああああ!!」
「――!」
叫ぶ一心と歯を食いしばる新宮。
二人の剣閃は、徐々にスピードを上げていき、そして――。
『――!!』
――そして、尾の斬撃スピードを凌駕し、神速の一閃がケルベロスの頭をかち割った。
瞬間、鳴り響くファンファーレ。
『ミッションクリア。タイム――』




