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目の前で行われている攻防を見た門脇は、啞然としたように問う。
「――なぁ、金城」
「なんだい、門脇くん」
「あの新入り、始めて何日目だ?」
「本格的に始めたのは、今日で三日目だね」
その言葉に、門脇は目を見開く。
まるで信じられないモノを見るような目つきだ。
「一応、4年前までは剣道してたらしいけれど――」
「いや、今の動き剣道じゃないだろ」
門脇のいう今の動きとは、新宮とケルベロスの間に割って入り、攻撃から彼女を守ったことだ。
一見大したことないと思われる動きだが、経験者である門脇は知っている。
あの動きは、高い状況把握能力に、攻撃の最中に飛び込む度胸、そして考えるより先に動ける身体能力が必要だ。
通常、反復練習で得られるモノのはずであるそれらを、何てことなさそうに一心はやってのけたのだ。
それこそ、初心者である彼が。
「考えられるのは、既にその能力をあの新入りが手に入れていた場合だけどさ――」
それこそ、おかしい。
剣道と【NEW WORLD】では、求められるモノが異なる。
静からの動で、一撃一撃を確実に狙っていく剣道と、常に動き続け、連続して剣戟を振るう【NEW WORLD】では、それらの重要度が違う。
剣道より、それら技能が重要なこのeスポーツで、これだけ高レベルで通用するモノを会得しているのだとしたら――。
「アイツ、どんだけ練習してきたんだよ――」
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新宮が、1個の頭を潰した。
そのついでに、胴体にも一閃入れたおかげで、相手の残りHPは4――つまり頭1個分。
想像以上に好タイムを叩きだしているのでは、そう一心が思ったその時だった。
瞬間、ケルベロスが真上に大きく跳躍すると、空中で大きく上体を仰け反らせた。
そして、残っていた二つの首の、喉が赤く膨れ上がる。
「何か来るわ、注意!」
「了解!」
新宮のその忠告通り、ナニカはすぐ来た。
赤く膨れた喉から吐き出されたのは、紅蓮の炎。
それが、真下にいる一心たちに向って放射されたのだ。
二つの首から吐き出された炎の吐息は、広範囲を焼き尽くそうと迫る。
――だが、ソレは予備動作からある程度予測できたこと。
唯一その攻撃が及ばない右側――先ほど斬り飛ばした首の側へ二人は全力疾走していた。
吐息が地面に到達した瞬間、二人は大きく飛んで炎を避ける。
しかし、瞬間。
一心の左足を炎が掠り、焦がす。
その途端、一心のHPゲージが一つ分消失する。
「ちょっ、当たり判定厳しすぎだろ!?」
掠っただけで剣が足に当たったのと同じ判定。
――だとしたら、全身に喰らったら、一撃でゲームオーバーだ。
その事実に気が付いて、一心がぞっとする。
だが、それと同時に。
冷えた背筋とは対象的に、腹の底から熱いナニカが湧き上がるような感覚を得る。
その正体は、ひりつくような危機によって更に高揚した、闘争心。
強敵との闘い、自身の危機、簡単に勝たせてはもらえない状況――だが、自分はまだ戦える。
その状況に、忘れていたその感情に火がつくのを一心は感じる。
自然と、彼の口角が上がり、その顔に獰猛な笑みが浮かんだ




