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ゴーグルをかけ、設定を変更したりしながら、一心はこう新宮に話しかけた。
「なぁ、新宮。【エネミーハント】って最初に俺が見た奴であってるよな?」
「えぇ、そうね。その認識で概ねあっているけど、たぶんモンスターの姿かたちは違うと思うから、そこは気を付けないとね」
そんなことを柔軟で足を伸ばしながら、彼女は答える。
なにをどう説明しようかと言ったような表情で、新宮はこう言葉を続ける。
「貴方が最初に見たミノタウロスなんかは、体形は人型だから構造上人間基準の動きしかできなくて、比較的弱いんだけれど――」
「けど?」
「動物型や異形型だと構造から動きが読みづらいから、ちょっと苦戦しがちになるかも知れない」
成る程、と一心も柔軟を始めながら頷く。
今回の相手はケルベロスと名がついているので、多分獣型。
予習としてアニマルビデオは見てきたけれど、それが役に立つかどうかは一心にはわからない。
そのことに、若干一心は不安になる。
この二日間、一心は新宮と金城のサポートで、基本を習得に重点をおいて練習してきた。
「それ用の練習をしてこなかったのだが、大丈夫か?」
「大丈夫よ」
新宮はそういって一言で一心の不安を両断する。
「志村くんのポテンシャルが高いことは、分かってたから、基本さえしっかりできていれば、並以上に戦えると私たちは判断したわ」
「――ポテンシャル、ね」
いまいちその高いというポテンシャルに、まったく心当たりがない一心は、ちょっと不服といった表情を浮かべる。
「――さて、準備は大丈夫かしら志村くん」
「あぁ、まぁ不安はあるけど、準備はできた」
そういって柔軟を終えた二人は立ち上がり、ARゴーグルに電源を入れて、疑似感覚デバイスと、【ハンドコントローラー】を同期させる。
ちょうどその時、今まで戦っていた二人の試合が終わり、彼らがどいて一心たちにスペースを開ける。
一心たちは、そのスペースの手前に並んで立ち、ゲームを起動させ、ゲームウインドウを操作する。
そして、【アークケルベロス討伐】の項目をタップ、パートナー設定は事前にしてあった為、お互いのプレイヤーネームがチャレンジャーの項目に表記されている。
「――じゃあ、スタートさせるわよ」
「ばっちこい!」
二人は、同時に【ゲームスタート】をタップする。
その瞬間、視界がゲーム用に切替わる。
一心の視界の端に、青と緑で自分と相棒の新宮のHPゲージが表示、そして反対側に、自分たちのモノとは長さが違う、赤いHPゲージが表示されていた。
そして、目の前に空気からにじみ出るように、異形の怪物が召喚される。
5m近い巨躯、黒い体毛、深紅の爪牙――そして、三つの首を持った犬のような怪物。
神話由来、そしてゲームでなじみ深い怪物、ケルベロスがそこにいた。
そして、それと同時に視界に10と言う数字が踊り、開始までのカウントが始まる。
9、8、7、とカウントが進むたび、一心の中で不安が加速する。
9、8、7、とカウントが進むたび、一心の中で不安が加速する。
――そして、それと同時に不思議な高揚感も胸に押し寄せる。
その高揚感の正体は、闘争心。
一心は、その感覚になつかしさを覚える。
この、強敵を前にした「勝てるのか」という不安、そして「勝って見せる」という闘争心のない交ぜになった不思議な高揚感。
「(――この感覚、薫と戦った時以来か)」
一心は、この感覚を「楽しい」と感じた。
カウントは、どんどんゼロに近付く。
近づくにつれて、その高揚感はどんどん肥大する。
そして、ゼロになった瞬間――、一心はその高揚感に身を任せることにした。
「行くぜ、新宮!!」
「やるわよ、志村くん!」




